9-10「バトル・オブ・エレメンツ」


 


「────[ウインド・アロー]!」



 ウエストエッジ・郊外。

 オリオンの敷地の草原で、魔道士ミリアの『問答無用エレメンツレッスン』は、いきなりハードモードで始まった。 



 ミリアの声に呼応して、空を裂く風の弓矢がエリックの鼻先をかすめる。

「────っ!」



 鼻先で感じた間一髪に、エリックは息を呑んだ。




 ミリアの生き生きとした挑発に乗り、ベストを脱ぎ捨て距離を取ったのも束の間。いきなり風の弓矢を飛ばすことはないだろう。



(────あぶっ……!)

 呟く声も途切れながら、彼は通り過ぎ掻き消えた風の弓矢を瞳だけで追いかけ、息を詰める彼に対し、ミリアはというと余裕である。



 「……ほう……?」と目を細める彼女は、次を画策している様子。

 それにエリックはさらに喉を詰めた。


 徴発を受け場に出たとはいえ、いきなりこれは無いだろう。

 こちとら、先ほど初めて土壁を出しただけのド素人だ。

 『習うより慣れろ』は確かにそうだが、やり方が粗すぎる。



(──俺でもこんな教え方しないぞ……!)

 と、エリックが毒気つく──その先で、岩に飛び乗ったミリアは、勢いよく振り下ろした腕を素早く切り返し上げると、



「────”エレメンツ!”」

(────来る!)


「[ノーム]&[ノーム]! プラス[ウィンド]! ZIP! ターーーイプ! [もこもこ]!」


(────も、)

「もこもこ!?」



 ミリアの発した単語に驚き、後半は声に出た。

 (もこもこってなんだ!)が飛び出そうになる喉を、うねり揺らめく地面が潰す。



 ────ずずずずっ!

 ────”ぞわっ”……!

 まるで意志を持っているかのように蠢く大地に、エリックが否応なしに恐怖を感じた時。

 ──────も゛ご も゛ご も゛ご も゛ご !!!

「────うっ……! わっ!?」



 ふくらみ隆起する足元に、思わず声をあげ、バランスを崩しながらも素早く飛び退いた。

 ぐらんぐらんと音を立てながら盛り上がる土柱つちばしらから飛び降りるように距離を取り、間に合わせの受け身を取る!



「────っ!」

 

 

 咄嗟に身構えるエリックの──視界の向こう。

 ミリアが素早く手を払うように切り返し、ぼこんぼこんと盛り上がる土が落ち着きを見せた──その時。ミリアのコールが響く!



「────エレメンツ! [ウィンド]!」

「────またか! Elements……!」

 


 問答無用の攻撃に、迷いながらもその手がカードを求め、指輪の黄昏が淡く光出すその、『一瞬早く』。攻撃はミリアの方から放たれた!

 


「[重ね掛けフィルラップ!] ZIP! ターイプ……!」



 空に挙げた両の腕に、高速収束する風を魔力の膜で包み込み、思いっきり────振り下す!



「ぼおおおおおるっ!」

「──[Wind]! TYPE……!」



 ────ぎゅるるるるるるるっ!

 迫り来る風の球!

 素人目から見ても”遊び”じゃないその大きさに、エリックは、無我夢中で──”発す”!



「────[SHIELDシールド]!」

 ────どっ!

 ────パッ!


 顔を守るように構えた両腕に現れた風の壁。

 途端、頭の中に流れ込む『基礎構築式ロジック定型文』に、目を見開いた。



 頭の中を駆け巡る、『感覚』『理屈』『式』『摂理』。

 先ほどより明確に視えた『濃縮された知識』に意識がぐらつき、はっと我に返る。



(────これが、魔道……!)

 

 

 エリックはごくりと息を呑んだ。

 作り出した『風の盾』の向こうで爆風が吹き荒れている。

 叩き込まれた『構築式ロジック』に胸が躍る。


 喜びと危険が混ざり合う中、次に彼を襲ったのは猛烈な圧力だった。



 ────ずっ。ずずずずずずず……めごめこ、めしっ……!


 ミリアの風に競り負ける。

 簡易的に出した盾で受ける圧力に押され、足が地面を削り、競り負けていく。



 ────ずっ!

 …………ぐっ! 


 エリックは足に力を込めた。

 目の前でごうごうぎゅるぎゅると音を立てる風の球。

 盾は今にも飛散しそうだ。

 


(────この、ままじゃ……! 押し負ける!)



 状況を鑑みて、彼は一瞬身を引き、作りだしたは《盾と圧力の『僅かな空間』》。刹那、追い打ちをかけるように迫りくるミリアの風球に身を任せ────


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る