8-8「 2 6 だ 」



「成人のお祝い”カルミア祭”、かっこよく決めちゃいたいよね!?」

「…………はあ…………」


「まだ間に合う! まだ間に合うからねえ! 待ってるよぉ! ボク!」

「…………ぼく・・?」

「……………………」



 言われ、ミリアは繰り返す。

 ──その隣で『ボク』と言われた男は──怪訝な顔つきで沈黙を貫いている。



「あっ、あっあー! おねーさん! ぜひ! おねーさんから! お母さんに言っといてね!」

「……おねーさん? ”おかあさん”?」


「ウンウン!  弟クンの晴れ姿! た~のしみだよねぇ!大人の第一歩は! テーラーコマカでよっろしくねえええ!」



「…………」

「………………………………」

『………………………………………………………』


 ひゅうううううおおおおおおおおおうううう……



 ────まるで、嵐のように。

 しゃーーーっと音すら立てながら、去りゆく男と残された『ぺらーん……』と力なく垂れるチラシを握るミリアと、ばつの悪そうに黙り込む『彼』のあいだを8月の風が駆け抜けて──────



「………………んで」



 ──沈黙を破ったのは、エリックの絞りに絞ったような声だった。

 不機嫌と不満を押し込めたような声に、ミリアがふと目を向ければ、そこには。


 エリックが──静かなる怒りを込めたような顔つきで、そこに佇み、何かを────堪えている。



「────……なんでこうタイミングよく配られるんだ……! ……あのビラ配り、見る目がないんじゃないのか……!」


 

 ──恥ずかしさを滲ませながら、渦巻く毒を吐き捨てるように眉を寄せるエリックに、ミリアは”ぽけ────っ”と目を向けて────



「…………えーと。いまの、”エリックさんに”、……だったよね?」

「…………」


「────えーっと。確認、なんだけど────…………せいじん、してるよね?」

「してるよ。当たり前だろ? 君は今まで、十代の子どもだと思っていたのか」


「うぅーん…………」



 不機嫌にそう聞かれ、ミリアは思わず唸った。

 『してるよ、当たり前だろ?』と言う本人の気持ちも、まあわからないではないのだが──


(……っていってもキミ、成人して2年3年とかでしょ? おにーさん扱いしてあげてるけど年下じゃん? 実際わかいし。)


 納得してなさげに呟く彼女は勘違いしている。

 彼女はいまだ、エリックを『屋敷に雇われてる、成人したての、『靴だけ頑張っちゃった男の子』だと思い込んでいるのだ。《しっかりしているが、せいぜい20ぐらいの、男の子》という認識である。


 姉弟に見られたのは驚きだが、けれど『そこ』に関しては憤ることもないだろうと考える彼女は、息をつきつつ口を開くと、



「…………まあ~~~…………怒ることないじゃん? キミ、若いしさあ。間違えられても仕方ないと思うの。成人して2年3年ぐらいは誤差じゃない? ムカつく気持ちはわかるけどね? 仕方ないのよ、若い若い。」

「────言っておくけど。 2 6 だ 」


「? にじゅ? ろ?」


「────26。年下だと思ってた? ……君より年上なんだけど?」

「──────…………」


 テンポよく。

 まくしたてるように。

 しかし簡潔に。


 恥じらいを圧で包んだ声色で睨むエリックに、ミリアの目がみるみる『驚愕』に染まりゆき────…………



「…………えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!! わたしより上ええええええええええ!!?」




 夏の昼、タンジェリン通り。

 ミリアの驚愕の声と共に『26なのに17以下だと思われてるー!! あはははははは!』と、大笑いが響きまくったことは言うまでもない。







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