7-7「 ミ リ ア さ ん 」





「────妻も子供もいない。信じてくれ」

「なんでそんな力いっぱい。」



 ど真剣な口調で放たれたそれに、ミリアも思わず固い口調で言い返した。


 類をみないほど真剣なエリックにきょとーーーーん……とするミリア。



 よそのテーブルでは、かけた男たちがこそこそと


 『おい……! あそこのカップル修羅場だぞ……!』『ばかっ、見るなよ……男の方の浮気だなありゃ』『やっべ飯がうめえー!!』


 『あの子も可哀そうに……俺なら不幸にさせねえのに』『かー、顔がいい男は憎らしいね』『おやじ! ビール追加!」


 と、好き勝手言っている。



 しかしミリアはそれどろじゃない。


(??? なんか、迫力あるんだけど、なに??)


 目の前のエリックの気迫が凄い。

 別に彼のことを言ったわけでもないのに、その迫力が真剣そのもので、まるで浮気騒動に巻き込まれたような気分である。


 しかしその前で──エリックは一拍。

 スゥっと呼吸を整えると、深刻を顔に込め勢いよく口を開くと、



「…………言いたくもなるよ誤解なんだから。……けれど君の言わんとしていることはわかった。そう思ってしまうのも仕方のないことだよな? だが言わせてくれ。そんな相手は存在もしていない。居ないんだ」



「……そ、そうなんだ? じゃあ、かーどは……?」

「────王子にもらった。マジェラの商人が献上品として持ってきたらしい。それを、もらった。本来の使い方も、どういった物なのかも知らなかっただろ? 何の説明も受けていない」


「……な、なるほど? それなら、そうだね? 辻褄、まって? うん? 『王子さまに、商人が』?」

「リチャード王子。彼も、カードの用途は知らなかった。マジェラの商人から聞いていないらしい。そう、だからあれは『祝いの品』という名目で献上されてはいないんだよ。赤ん坊も・妻も・居ないんだ」


「……な、なるほど?? あ、それなら繋がったかも」

「────だろ? わかってくれた?」

「…………うん」



 矢継ぎ早。

 怒涛の説明を飲み込んで、ミリアがゆっくり頷くその前で、彼が無意識のうちに『……は……』と小さく肩を下ろした時。


 手元のグラスを手に取り、ゆっーーくり『ぽすん』と。椅子の背に体を預けたミリアは──────言った。



「…………まあ────…………。おにーさんが旦那さまのことになると、一生懸命なのはわかった」


「…………」 

「旦那さまが大事なのは、よーーーくわかった」



 ──黙る。

 固まる。

 言われて気づく。



「エルヴィスさん、誤解してごめんね? おにーさんも、ごめんなさい」

「…………」

「どしたの?」



 ────声かけに。

「…………いや、その……」


 

 テーブルを挟んで向かい側。

 不思議そうに首を捻る様子のミリアから視線を落として、彼は、苦々しく呟いた。



(──────”今”)

「??? おにーさん?」

「え、あぁ、────その、……気にしなくていい」

(…………”どっちで話してた”?)


 

 見つめる先はテーブルの木目。

 右手で口元を握るように隠し汗をかく。


 完全にテンパっていた。

 役目も、立場も、ごちゃまぜになっていた。



(────〰〰〰〰〰……!)

「おーい。」

「………………!」



 その混乱は『違和感』へ。

 異変は、少しずつ。



「もしもーし? おにーさん?」

「──────はあ──────っ……」

「ねー? おなかいっぱい? そのケーキ食べよっか?」




 テーブルの向こうから、不思議そうに首をひねるミリアに、エリックは──……


 黙って首を振ったのであった…………


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