6-10「むしてたべる(1)」




 暮らす場所・育つ場所が違えば、もちろん使うものや道具にも差が出るものである。



 食事中、ミリアが出した『プリン』の話。

 どうにも通じないそれを確認するため、彼女は聞いた。



「────ねえ、もしかしてここって、『蒸し料理』がない……?」

「………………ムシ、料理…………?



 ミリアの問いかけに、『信じられない』というニュアンスで呟いたのは盟主・エルヴィス・ディン・オリオンだ。


 彼は完全に誤解している。

 彼女の言う『蒸し料理』は『蒸す』という調理法のことであり、『虫料理』ではないのだが、彼が認識したのは昆虫のほう。


 頭の中で一気に『幸せそうに虫を食べるミリア』の姿が思い浮かび、エリックは──気まずさの中にも、気遣いを残したような顔をして、言う。



「……そんなの、初めて聞いた、かな。…………あー、……そっちでは、よく、その、……食べ、るのか……?」

「けっこう。よく。蒸して食べる」


「…………”虫て食べる”…………」



 ケロッと言われて、さらに内心ドン引くエルヴィス・ディン・オリオン。

 昆虫を食べる民族がいるのは知っていたのだが、まさか目の前の彼女がそうだとは。


 別に、それが異常だとかどうとか言うつもりはないが、その大人しそうな外見で『虫おいしー!』と、ほおばる彼女を想像してドン引く。盛大な勘違いではあるが、妙に鮮明に思い浮かんでしまった映像に、彼は一瞬いろいろ考えて



(…………いや。そんなことで、引いてどうする。別に、食の好みなんて様々じゃないか。彼女は彼女だろう。虫を食べる民族や国があるのは前から知っていたわけで、彼女がそうだからと言って、ここで付き合い方を変えるのは)

「──なんでそんな顔するの?」

「────え」



 自覚なしの険しい顔で考え込む最中、声をかけられ目を上げれば、そこにあるのはミリアのキョトンとした顔。

 まさか『虫を食べる君を想像してどうかと思ってる自分を窘めている』など言えるわけもなく、彼が浮かべるのは愛想笑いだ。



「…………あぁ、いや、別に? 『へぇ』って思っただけ」

「こっちはしないから? 場所違うし、そういうのあるよね〜あっち、揚げもの無いもん。こっちにきて初めて食べたの。揚げたやつ」


「──待て。揚げ物がない、のか……!? そっちでは揚げたりしないのか?」

「ないです。鳥の唐揚げとか、革命的美味しさでございました……! しばらくハマって太りました……!」



 エリックは半ば無理やり話に乗っかった。

 それに気づかず頬を包むミリアに首を振る。



「…………信じられない。あんなに美味いものがないなんて……!」

「ね。あれ知らないなんて、人生の4割ぐらい損してるよね〜」


「ああ、損をしているな。君はここに来て、4割得したわけだな?」

「そういうことになります♪」



 流れるような会話の中、ミリアは陽気にクリームを纏ったキノコをぱくり。


 そんなミリアを前に、エリックの中で沸き起こるのは『葛藤と疑問』だ。彼女の言っていた『プリン』が気になる。しかし、虫を食べたいとは思わない。だが、『あまくてぷるぷるらしい』それは────エリックの心をどうしようもなく揺さぶったのだ。


 


「…………なあ、ミリア。……さっきの」

「さっきの?」


「……あぁ、えーと、”ぷりん”? ってやつ」

「ぷりん?」


「そう。その、甘くてぷるんとした、”ぷりん”。あー…… その、虫じゃなくて、他の方法で作れないのか?」

「? なんで?」

「…………」



 ミリアに聞かれて言葉に迷う。正直には言えないし、かといって虫を食べるのは遠慮したい。そんな葛藤が渦を巻き、彼の口から出たのは──

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