5-15「死んでもお断り」




「────なあ。……あれ・・。…………なんとかならないのか」

「ありえないとは言っているわ。……けれど、おさまらないのよ」



 イライラから一転。

 心底うんざりと言うエルヴィスに、キャロライン・フォンティーヌ・リクリシアも痛烈な顔で瞼を閉じた。



 そう。最近はこれ・・も、二人の頭を悩ませていた。


 確かに『美男美女』。

 側から見たら『お似合い』ではあるのだが、実態はこうなのに。鬱陶しいことこの上ない。



 ──────はあ…………

 五月蠅い取り巻きを視界の隅から消し去り、エルヴィスは今日何度目かのため息を落としすと、うんざりをそのままキャロルに口を開く。




「……皇女と噂になるこっちの身にもなってほしいんだけど?」

「それはこちらも同じよ。貴方と噂になるなんていい迷惑だわ」


「なら解決策はどのようにお考えですか、キャロラインさま?」

「………どちらかが先に結婚するしかないのではないかしら? 相手を見つければ、周りも騒がないでしょう」


「────なら、あなたに期待していますよ? キャロライン・フォンティーヌ・リクリシア皇女? わたくしめには当分、その気もありませんので。」

「…………っ!」



 力一杯目一杯。

 『 そ っ ち が 先 に 行 け 』という圧と棘が詰まりまくったエルヴィスの声に、キャロラインの瞳に怒りが灯る。



「……貴方。お相手は?」

「居ない」


「貴方に好かれたい令嬢もたくさんいると聞くわ?」

「だろうな」


「随分舞踏会を開いていないわね?」

「……ああ、やりますやります」


「…………綺麗な子も多く招くのでしょう?」

「そうですね?」


「いい出会いあるかもしれないわね?」

「そうですね。……ああ。皇 女 様 も パ ー テ ィ ー を 開 か れ て は? 『男性ならいくらでも』来ますよ? 皇 女 様 ?」


「…………っ!」

「………………」



 ちゅんっ……ぴちちっ……

 ぴちちちちちっ……………………


 王家の中庭。夏に咲き誇る花々が見守る中。もはや会話も生まれぬ二人の沈黙を、小鳥のさえずりがカバーして────……



(……盟主としては評価するけれど。この男と結婚しようなんて、絶対に思えないわ……! 女神のような人じゃないと無理よ!)

(…………結婚、ね…………──俺には、縁遠い話だ)


(…………おお、コワァ……ほんっと仲悪いよなぁ……これでよく戦争にならないもんだぜ……)


 

 テーブルを囲む皇女と盟主。

 草葉の陰で身をすくめる王子。

 各自各々、それぞれに、憮然と呟いて。


 はぁ──────……

 深い深いため息をこぼしたのであった。







 それは、よく晴れた8月の初頭。

 エルヴィス盟主が聖堂を訪れた日から数日経った、ある日の朝。



「…………ん……………………」



 ぬくぬくとベッドの中で寝返りを打つ女性が一人。彼女の名前はミリア・リリ・マキシマム。


 自室のベッドの中、まどろみを味わう彼女は、まだ知らない。この日を境に、自身が地獄を見ることを。



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