5-14「パラ見でオール却下」




「…………キャロライン。君 の と こ ろ も 君 だ け だ よ な?」

「そうね? 貴方のところもそうでしょう? エルヴィス」

「────ああ」



 互いにつっけんどんに言い返すこの二人。


 格調高いテーブルの上、指を組んで黙るキャロライン王女。25歳恋人なし・一人っ子。

 拳で頬杖をつき、光を浴びる花を眺めるエルヴィス盟主。26歳恋人なし・一人っ子。


 そう。相手がいないのである。

 そして互いに、『お年頃』『適齢期』。


 どちらも周りから『プレッシャー』をかけられまくっている。当然、自然と流れるのは──『お前はどうなんだ』『余計なお世話だ』という空気だ。


 じりじりと殺気立ちたる場を散らすように、エルヴィスの先制攻撃がキャロラインを突く!



「────キ ャ ロ ラ イ ン 皇女」

「私に言わないで頂戴。」



 ぴしゃん! と返えされ、びきっ! っと立つ青筋。



 これもいつものことだった。

 エリックは彫刻のような表情をにーっこりと微笑ませ、隠し切れぬ圧力を押し出しながら、拳の頬杖をつくと、



「…………キャロライン様? わたくしども領から出した、『有力貴族』の写絵はどうされました?」

「見たわよ」


「────それで?」

「無理ね、あれでは結婚できない」


「……何度目だと思ってるんだ」

「何度目かしら?」


「──あれだってウチがどれだけ必死で集めたか、わかってるのか?」

「言ったでしょう、筋肉のない男は無いと」


「君の目に適うような男を用意しろって?」

「そうね? 最低でも鎧の上からでもわかるぐらいじゃないと」


(…………ならそういう大会でも開け……!)



 断固として譲らないキャロラインの主張に思わず毒づいた。


 キャロラインとエルヴィスは『級友』だ。

 本来エルヴィスが見合いの面倒など見る義理などないのだが、彼女の父に頼みこまれてしまったのだ。


 隣国の王の頼みとあれば、断るわけにもいかず何度か縁談の支援をした。


 しかし、エルヴィスが領内からかき集めた『選りすぐりのエリート』を、彼女はパラ見でオール却下したのである。



 彼は、能力・財力・人柄などすべて考慮したうえで厳選したのだが、キャロラインは『筋肉が足りない』と悩みもせずにポイをしたのだ。イライラも募るというものである。


 しかしそんなエルヴィスに、キャロライン皇女は姿勢を正して書類を揃えながら、ツンとした声色で言い放つ。



「中途半端な筋肉はいらないわ。それでいて、頭の切れる人がいいの。そうでなければ絶対に嫌よ。貴方も連盟の次期国王はふさわしい人がいいでしょう?」


「……筋肉で国を治めるわけじゃないと思うけど?」

「……それでも第一条件なのよ。どこかにいないかしら? 素敵な胸筋を持つ男性は……」

「────…………」



 はぁ~、と悩まし気にくうを仰ぐキャロライン王女に、一瞥。エルヴィスはその冷ややかな目をくれると、短く息を吐いて、言った。



「────そういえば、君。昔そこの聖騎士像を『素敵』だと拝んでいたよな? 君の求める筋肉量は知らないけれど、あの聖騎士像にでも求婚したらいいじゃないか」

「────────エルヴィス。貴方。連邦会議にでもかけられたいの?」


「────ああ、それは失礼いたしました」

「…………っ」



 怒気を放つキャロラインに、嫌味たっぷりの声が帰る。はっきり言って最悪を煮込んだような空気の中、──「それ」は高らかに響いた。



『まあ、キャロル様とエルヴィス様よ……!』

『またご一緒されているわ……! 仲がよろしいのね……!』

 

「………………」

「………………」



 『本当にお美しい……!』

 『何をお話しされているのかしら?』

 『きっと愛を語らっていらっしゃるのよ!』

 『きゃあーっ!』


『………………』



 ────途端死に絶えていく二人の顔。表情が完全に絶命した皇女と盟主を差し置いて、好き放題のそれに、キャロラインは険しい顔つきで黙り込み、エルヴィスはげっそりとした息を吐いた。



 ────いい迷惑である。しかし。



『ねえねぇ! エルヴィス様のお相手って』

『次期国王ってやっぱり……!』

『──しーっ! まだ発表になってないのよ……!』


「………………」

「………………」

『………………』



 廊下の屋根を伝って響き聞こえたその会話に、複雑を押し込めた顔で黙りこみ────






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る