5-10「会議の途中に何やってんだ?」



 出てきたのはマジェラのカード。

 『魔法道具だ』と確信を得ながらも、『トランプかも?』と首を傾げた一国の王子・・・・・に。鋭い顔を向けたのはエルヴィスである。


 彼は、それを確かめるようにリチャード王子に問いただした。



「……まて、リチャード。『かもしれない』って、説明はなかったのか?」

「ん、なかった」


「…………聴かなかったのか?」

「ちょうど留守だったんだよなあ、オレ」

「…………」



 お気楽~に、『だったんだよなぁ〜』と、のけぞり後ろ頭を両手で支えつつ、臆面もなく言うリチャードに、エルヴィスは黙り込んだ。



(──普通・・、それを円卓会議に持ってくるか?)

 

 と頭の中で考える。

 『魔具』が『魔法が込められているが、非魔術師でも使える道具』だと解ってはいるが、それでも元々は軍用武器だったのだ。それを説明もなしにこんなところに持ってくるなという気分で有った。


 エルヴィスの唇の裏から、今まさに『いや、それでも使い方ぐらい聞くよな? 暴発したらどうするつもりだったんだよ』が出そうになった、その時。リチャードはカードをエルヴィスに向かって差し出すと、ニカッ☆ と微笑み彼に言う。



「おまえさんにやるよ。マジェラ専門だろ?」

「…………『マジェラ専門』って……うちは『魔具の取り扱いをしている』だけだ」


「じゃあ、キャロル。おまえさんはどうだ?」

「──要らないわ。そういったものを集める趣味はないの」


「じゃあエルヴィスだな!」

「…………なんで俺に」


「魔具専門だろー? エルヴィスがあってる!」

「いいじゃない。エルヴィス? 貴方のところの、ヴァルター……だったかしら? 彼と遊戯を楽しんだら? たまには執事と遊ぶのも息抜きになるのではないかしら」

「…………」



 リチャードをフォローするようなキャロルに、エルヴィスは困惑を滲ませた。

一家の主として、執事やメイドと交流を図るのも『勤め』だが、どうにも気分は進まない。


 キャロルの言う『ヴァルター』は、確かに優秀な側近である。


 強面で、体格もいい。

 父の代からオリオン家を支え、白髪をたたえながらも常に気を張っている男だ。

 昔は遊んでもらった記憶がないこともないが── 



「…………あいつは…………、まあ。そうかもしれないけど」



 そう、言葉を濁し、エルヴィスはキャロライン皇女の言葉をため息交じりに躱し、息をついた。すました瞼の裏で考えるのは──『ヴァルターの思惑』である。



(────……ヴァルターは……あいつは『オリオンの忠実な側近』だ。俺というより、『ウチ』だろ)



 ──そう。『家』だ。

 執事としての責務を果たすヴァルターの『生きざま』は尊敬に値するが、『盟主である自分と「息抜き」ができるかどうか』と言ったら疑問である。


 『盟主の息子であり、現盟主である自分』と『家に仕える執事』では、その立場も気構えも、まったく違うのだから。



 エルヴィスは冷めた眼差しで『カード』に手を伸ばした。一枚一枚、手触りもよく気持ちのいいカードだが、自分の周りで『これで遊ぶ相手』など────



(……ミリアは? ミリアもこれで遊んだのだろうか)



 ふと浮かぶ『異国出身の相棒』の顔。腕相撲を挑み、顔を真っ赤にしながら完膚なきまでに負けた彼女なら──自分と遠慮なく戦ってくれるかもしれない。

 自分と戦い、負けて悔しそうにするミリアの顔が目に浮かび──くすっと、内心、笑いが漏れこぼれた。



(…………ふっ! ……負けず嫌いなミリアのことだ。きっとこのカード遊びも、負けるたびに何度も勝負を挑ん)

「………………なあ~。エルヴィスぅ」


「?」



 おもむろに届いた、リチャードの声。

 その『聞きたいんだが』と言わんばかりのトーンにエルヴィスが目を上げた時。


 リチャードの新緑の眼差しがこちらを射抜き、そして彼は問いを投げたのだ。



「……やっぱりおまえさん……最近、なーにかあっただろ?」

「…………え。」

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