4-15「愉快・不愉快・居場所ナイ」





 …………ごくっ…………

(…………アノ~──────……スイマセェェェン……息が詰まるんですけど……)



 カウンターの内側。艶やかな張り部分を“ぎゅうっ”と掴んで、ミリアは二人を見上げ小さな抗議を上げていた。


 

 はっきり言って意味が解らない。

 ミリアは、現れたスネークとエリックを繋げるつもりで紹介したのだ。

(おにーさん、この先話すことあるよね?)と気を利かせたつもりだったのだが、向かい合った二人が放つのは、『ナニカが始まりそうな威圧』。


 ヒリつく空気、閉まる喉。

 何がどうしてこうなった。



(……な、なんなのイッタイ)



 内側の言葉も片言に、二人の──、主にエリックから滲み出る圧力にそぉっと見上げてみる。スネーク。エリック。スネーク・エリック。

 


 ────ああ、息もできない。

「………………ア、あの〜……ねえ、えっと。なんかお互い、こう、なんか、……意識でも飛ばしあってる、の……?」



 ミリアがそれでもおずおずと、ひっくり返ったか細い声を上げた先。



 スネークは、すっと目だけを横して口元を上げ、エリックはさっと目を背けた。



(えっ。なんかまずいことしたっ?)



 その反応に────ミリアはさら戸惑った。


 意味深。

 意味深である。



(えっ? なにこの、エリックさんの反応っ? えっ? なにっ!? なにっ!?)


 ひだり、みぎ・ひだり、みぎ。

 エリック、スネーク・エリック、スネーク。

 そして恐る恐る、口を開くのだ。


「…………えと、ア、あのー……、おふたり、お知り合いで……? スカ」

「──────いや、知らないな」

 


 カスり気味の質問に、かぶせ気味に答えたのはエリックの方。


 いつになく硬めの声色にミリアが『ん?』と目を向けた瞬間とき、スネークが流れるように喋り出す。



「えぇ。どこかでお会いしたことはあるかもしれませんが、私の記憶にはありませんねえ」

「いや。会ったことはない。記憶は正しいと思いますよ、スネークさん」

「おや。私の名前を憶えていただき光栄です」

「…………名乗られましたから。そ れ ぐ ら い は。」

『…………』



 ──── 黙。



(…………イヤ…………ダカラ……ナンなのコノ空気クウキ…………)



 男二人。

 止めなく一気にどばっと話し始めたかと思いきや、瞬間的に黙り込む。緩急激しいそれに、ミリアは肩身も狭く息を呑みこんだ。

 


(は、挟まれています。なんですか、この状況ハ。何が始まるのこれ。つ、ツラい。ヘタに動けない……!)



 とりあえずただ事ではないと察したミリアが、(やばい、そこのトルソーしまっておいた方がいいかも)と懸念し、つま先に力を入れた────その時。



「────じゃあ、ミリア。…………また来るから」

「え? あ、はい、わかりました?」



 唐突な声かけはエリックから。反射的に切り替えしたミリアの横から、次の声も飛んでくる。


「ミリアさん、会費をいただいてよろしいですか?」

「あ! はい! 中身確認します!」



 突如流れ出した空気・人の動き。

 畳みかけるような声かけに、ミリアがわたわたと封筒を探し始めるその傍らで。

 

 スネークはサインを送った。

 すれ違いざま、『ボス・あとで』と、瞳の動きで。








 

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