4-13「愉快・ ・ 」
────それは、毎月の業務。
会費回収とご機嫌伺いの時間。
「……他のところでもやってるんじゃないだろうな?」
「付き合ってくれる人などおらん!」
「…………だろうな」
いつもの店。
いつもの工房。
女性だけで穏やかに営む
しかし今日、花開いていたのは
思わず
「────こんにちは、失礼します」
スネークは、すまし顔をそのままに高らかに声をかけ割り込んだ。『見ていますよ』と言わんばかりの、響く声で。
「……スネークさん!」
「こんにちは、ミリアさん」
「…………! …………」
※
その日、昼の3時を回った頃。
「商工会組合長」スネーク・ケラーが声をかけると、
自分の声掛けに立ち上がったミリアという女店員。素早く表情を殺した様子の
明と暗。
歓迎と拒絶。
はっきりと分かれた対応をすまし顔で舐め回すのはスネークだ。決して表には出さず状況を掴み、
(…………ほう、これはこれは。なるほど、そうですか)
『愉快』と言わんばかりに僅かに口元を緩ませた。
商工ギルドと互いの利益のために連携を組んでいる組織・『ラジアル』のボスが『お誂え向き』を見つけたのは知っていた。情報源に対して『お誂え向き』などという言葉を使うのも珍しく、どこのだれかと聞いてみたが、彼はもちろん漏らさなかった。
のに。
掴んでしまったのだ。
そして目撃してしまった。『ボスの信じられない行動』を。
スネークは静かに糸目を滑らせる。
────ミリア。
────ボス。
二人交互に視線を送り──狙いを澄まして微笑みかけるのは、
「──ミリアさん。お取り込み中、申し訳ありません。集金に参りました」
しれっと言って
「あ、はいはい集金ですね! いつもお疲れ様です♪」
「いえいえ。ミリアさんこそ。ドレスの見立てからクリーニングの修繕まで、ご苦労様です」
「ふふふ、仕事ですから〜♡」
狙い通り『パッ』と表情を切り替えこちらに笑うミリアに、まずはねぎらいの一言。奥のボスの視界に入るよう、コツコツと床を鳴らして近づくが、ボスはこちらを見向きもしない。
──なんとも愉快だ。叩き込まれる殺気を無視し続けるのは。
「────ミリアさん、お邪魔でしたか?」
「あ、いえいえ! ぜんぜん!」
当てつけのようにミリアに対してほほ笑むスネークと、それに首を振る彼女の隅で────ボスは沈黙のままだ。
(────それは、そうでしょうね)
ボスの性格は知っている。
スパイ組織のボスで、猜疑心も警戒心も強く、決して群れることのない男。
『一匹狼』と表現するのが適切な『隙のない男』。
組織のトップとして配下はいるが、群れて何かをすることはない。余計な情報の一切を排除し、物事に対して、最適な答えを導き出す冷酷な男だ。
盟主『エルヴィス』として接したこともあるのだが、これはこれで見事な仮面の被りっぷりで、煌びやかでニコニコとした笑顔の下に滲ませる『”誰にも隙は見せない』『本音など、見せてたまるか』と言わんばかりの壁と棘は、身震いするほどのスリルがある。
だからこそ『今』・『この状況』は『愉快』で仕方ない。
隠そうとすればするほどほじくり返したくなる。
──先ほどまで、ミリアと愉快におしゃべりしていたのが嘘のように、ただじっと黙りこくるボスをもう一度。
スネークは視線を送り、ミリアの言葉にわざとらしく目を丸くし小首を傾げると
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