3-1「どいつもこいつも」





「はっはっは。…………閣下ぁ、お歳を重ねて先代に似てきましたなあ~! その瞳! 目元! 雰囲気! 亡きオリバーさまの再来を彷彿とさせるその威厳! まさに『オリオンの血』! 流石は我が国屈指の武器商人! 身震いがしますなあ!」

(────────これだ・・・




 ドミニクの言葉に、彼の中。張り付けた薄い笑みの裏側で、何かが淀み、捻じれ・沈んだ。



 会食の度。

 毎度毎度。

 言われるたびに自覚する。

 逃げられぬ運命だと突きつけられる。


 ────『忌まわしきオリオンの血』。

 それに、何度心が濁っただろう。



 腹の奥、ごろりと音を立てる重い何かを笑いに変えて。エルヴィスは少し高めの声を意識してドミニクに顔を向けると、



「────……それは……昔の話ですよ。現在の取り扱いは魔具マグ専門です。……武器は……、父の時代で終わりですから」


「がっはっは! そうでありましたな! お父上と初代オリオン様が我が諸侯同盟に挙げた功績は、計り知れぬものがありますからなあ!」


「…………有難うございます」

「エルヴィス様♡ レアは魔具も好きなんですの。コレクションをご覧になりまして?」


「────……ああ、それではまた、機会のある時に」


 

 レアのすり寄った笑顔に微笑を浮かべ、ふと。手元のナイフに映った自分の瞳に、彼は動きを止めた。


 そこにあるのは『確かに自分の瞳』であるはずなのに、中から父が見つめているかのような感覚に、素早く目を反らす。


 嫌というほど味わってきた。

 うんざりするほど浴びてきた。



(……お前たちが欲しいのは、うちの金と地位だろう。オリオンの名があれば国内で怖いものなどないからな? …………透けて見えるんだよ)



 彼は、嫌いだった。

 こうした欺瞞と虚栄に溢れた貴族の付き合いが。



(どいつもこいつも、二言目には「オリオンの血」)

 


 会うたびそっくりだと言われる、この『奈落を閉じ込めた様な瞳』も。



(裏で。お前たちがなんて言ってるか、知らないとでも思っているのか? だとしたらおめでたいな?)



 『所詮あそこは死の商人』『何万人殺してきてるんだ』『血にまみれた富』『悪魔の末裔』『女神の御許みもとへなど行けるわけがない』


 対面ではへつらい、陰で囁く醜悪さも。いくら努力・研鑽を重ねても付きまとう家の呪いも。

 


 『オリオンの家の子』

 『血も涙もない悪魔の子!』

 『逆おうものなら屋敷ごと焼かれる』

 『戦争も知らない3代目が』



(………………人なんて。表面上笑っていても、肚の奥で何を考えているかわからない)



 幼いころから突き付けられていた、人の本性。腹の中身。成人してからさらに感じる──どす黒さ。

 利用し・利用され・裏切りそして────富を得る。

 そんな世界に生きている。



(────……信じられるのは 自分だけ)



 エルヴィスは皿の上の肉の塊にナイフを通し、淡々と口に運んだ。



 ああ────吐き気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る