Ⅱ 強制労働のお時間でございます、お嬢様③
公爵令嬢らしからぬ物言いにクォードの口から
だがカレンが
「っ!?」
「なんだこ……っ、ゲホッ! ゲホゴホッ!!」
男の目の前に白煙の
──勢いはいいけど成分はただの水蒸気だから、部屋にも人体にも
宿の二階から表通りに飛び降りたカレンは、何事もなかったかのように己が飛び出してきた窓を見上げた。モクモクと煙がたなびく様を見た通行人達が『何だ?』『火事か?』とザワついているが、幸いなことに飛び出してきたカレンに注目している人間はいない。
──……いや。
だがカレンはそんな景色の中から自分に向けられている視線に気付いた。見回しても自分に注視している人間は見当たらないのに、確かに今カレンは誰かに見られている。それも、カレンの感覚が確かならば複数人に、だ。
──最初から囲まれてたのか。
どのみち部屋に仕込んであった
カレンは
──四人? いや、五人、かな?
カレンは追っ手を引き離しすぎないように気をつけながらハイディーンの裏道を駆け
しかしそこに思い至るには、少しタイミングが
──!
しばらく裏道を
カレンが迷い込んだのは、建物の背面に囲まれた広場だった。飛び込んできた通路の反対側に小さな階段があって、どうやらそこから
その広場に、まるでカレンを待ち受けていたかのようにガラの悪い男達がたむろしていた。ニヤニヤと厭な
──もしかして、初手から
──つくづく有能なことで。
「お嬢ちゃんが、この町に
カレンが内心だけで悪態をついた
「
いかにも
それでもカレンはスッと目をすがめるとさりげなく足の置き方を変えた。
──この男が、頭目だ。
知性のある
口元に翻った笑みは、親しげでありながら
【わざわざお
カレンはあえて自分から言葉を投げた。これもクォードからの情報なのか、男はカレンが声を発さず腕に抱えたクッションに文字を映してコミュニケーションを
【でも私達、出迎えをする、されるような関係だった?】
「いんや、そんな関係じゃあねぇさ」
頭目は
「あんたと俺達は、商品と、それを売る商売人の関係なんだから」
【そんな関係になった覚えもないんだけど】
「今からなるんだよ」
頭目がパチンッと指を鳴らすと前後を
【この町で魔法道具の不調を起こしていたのも、この町を
「お。そこまで知ってたのか」
全員の動きを視覚と気配で
だがそんな驚きの表情は次の瞬間には獣の笑みにかき消された。
「だったら話が
【目的や動機は
「ハンッ! 語った所で意味なんざねぇだろ」
頭目はスッと
「商品がそれを知った所で何になる?」
その言葉が合図だったのだろう。ナイフや
だがカレンが
その瞬間、合図から
──っ!?
一瞬、視界に光が走ったような気がした。同時にカレンの腕の中で形を変えようとしていたクッションからフッと反応が消える。
カレンの意思に反して
──えっ、何でっ!?
カレンは反射的に体を縮めながら横へ
──どういうこと!?
──何でっ!? 今までこんなこと、一度も……!!
「魔法なんて使わせるわけねぇだろ?」
予想していなかった事態にカレンが
カレンが魔法を使えなくなると男達には分かっていたのか、カレンに
「ヒューゥ! 案外やるねぇ、お
──どうなってるのよっ!?
カレンは動揺を
──それでも、魔法が使えない
いなし続けることはできても、このままではカレン側から決定打を打つことができない。ここで取り
──何か手立ては……!
カレンは攻撃をかわしながら周囲に視線を走らせる。
──多分ここに展開されてるのは、魔術だ。
魔法が使えなくなる直前、頭目が腕を振り下ろしたのと同時に走った光が見えた。あれが魔法であったならば、高位魔法使いであるカレンにはその
だが今のカレンは、どれだけ意識を
──でも、展開主があの頭目であるということだけは、確かなはず!
魔法は『魔法円』と呼ばれる図形で表され、魔術は『理論式』と呼ばれる数式に近い物で表されるという
──『腕を振り下ろす』なんていう簡単な合図で発動できるようにしてあった。永続性のある物はその分
カレンは飛びかかってきた男の顔面にクッションを
今のカレンに振るえる武器は、この短剣一
だけど。
──私は、ミッドシェルジェ公の
どんな困難だって、今までたった独りで乗り
──独りで
独りなら、裏切られない。独りなら、
独りでいる方が、この先だってずっと
──取り巻きを
短剣を構えたカレンは細く深く息を
ジリッと重心が動き、前へ飛び出すべく
だが結局、カレンが溜めた力を
「ご
それよりも早く、頭上から場にそぐわない
「おやめになった方がよろしいのでは? 魔法使いサマが慣れないことをするものではありません」
「だっ……誰だっ!?」
カレンと相対していた男達がバッと頭上を振り
視線の先にあったのは、黒い
カレンから見て後ろ、男達から見て正面にある教会の
火薬がはぜる音が連続して
「『
深い声が、聞き慣れない言葉を
その
──え?
「なっ!?」
「さぁ、お嬢様、
誰もが
「準備はよろしゅうございますか?」
影のように黒い
だがカレンには、現実を理解することができなかった。
──クォー、ド?
だってカレンの下に
押しかけ執事と無言姫 忠誠の始まりは裏切りから 安崎依代/角川ビーンズ文庫 @beans
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