Ⅱ 強制労働のお時間でございます、お嬢様②
『魔力』というものは、世界に
魔力は、人の
カレンは目を閉じて
──ここへ来て三日で、分かったこと。
気力、体力、魔力。
『力』とつく物の中でカレンに一番
そんなカレンの調査は独特だ。
何もしない。
落ち着ける空間を確保し、あとはひたすらに感覚を
──ハイディーンで人
これはルーシェから
ルーシェはカレンに『人攫い』を解決してこいと命じた。現に渡された事前調査の報告書の中には
だが不自然なことに、カレンがどれだけ耳を澄ましてみても、ハイディーンのどこからも『人攫い』の話題は聞こえてこなかった。ハイディーンの町は、そういった意味ではいつもと変わらず平和なのだ。
──ここが人の出入りの激しい宿場町とかなら、多少の行方不明者は
つまり人攫いにあった人々は
──それも、行方不明になったのは魔法使いと、魔法道具の
リストには人攫いに
各国を巡る渡りの魔法使い、任地から
──それだけ人が消えてるのに、それに関する話題はひとつも聞こえてこなかった。代わりに聞こえてきたのは……
カレンは耳を澄ましている間に、ハイディーンの住人達がとある共通のことがらで
──原因不明の、魔法道具の故障。
カレンが魔力を通して聞いたところによると、ハイディーンではここ数ヶ月、原因不明の魔法道具の故障が続いているらしい。
魔法道具、と言っても、魔法使いの実験室にあるような
──その魔法道具達を修理して回っている、流れの魔法道具師がいる。
──この魔法道具師が、『魔法道具の不調』の
ルーシェが解決を命じたこの事件。本質は
というのも、カレンの魔力探査で、町のとある場所から強力で不自然な
──魔法道具が不調になる『何か』を仕掛け、修理を
魔法道具達が
魔力溜まりは、恐らく偽物とすり替えて自分達の懐に入れた魔法道具と、誘拐した魔法使い、その両方を
ひとまずカレンは現時点でそこまでの推測を立てている。
分からないのはなぜ犯人一行が魔法道具と魔法使い、どちらかに標的を
──最初は魔法使いの
それとも新たに仲間に魔法道具師役を演じられる人間が入ったから、より安全で
目的とする魔法道具を探すために使えそうな人間を攫っているという可能性もあるし、情報を知っていそうな人間を
──魔力の流れから推察するに、人攫いの一味と魔法道具のすり替えを行っている一味は同じ。
そこまで推測したカレンだったが、今度はではなぜ犯人一行がわざわざハイディーンという田舎町でそんな手の込んだことをしているのか、という疑問にぶつかっていた。
もっと人の流れのある
──あるいは、明確にここに何か欲しい物や人があるとか、待っていればやってくるという情報までは
今日も感覚を魔力の流れの中で遊ばせながら、カレンは犯人達の行動の真意を考える。だがどれだけ考えてみたところで、その疑問を
──考えてもこれ以上のことが分からないならば、私にできる調査はここまで。
後はもう
犯人一味のアジトは、カレンが魔力溜まりを感知した場所で
ただ。
──問題は、魔法道具に不調を引き起こしている『何か』の詳細が特定できていないってことなんだけども……
そこまで考えたカレンは、不意にパチリと目を開いた。
カレンが押さえた宿は、皇宮魔法使い定宿の
だというのに今、この部屋に真っ
この宿に入ってから聞いた足音の中で一番重く、それでいて
──……来た。
カレンは視線を動かすと
──どうやって私がここにいるって割り出したのか知らないけども。
どのみちカレンの調査はほぼ終わった。あとは実行に移すのみ。ならばこのタイミングで合流するのも、そこまで悪いことではないはずだ。向こうが何か
ここ数日、任務に集中していたおかげで感じなくて済んでいた不快感が再び胸にヒタヒタと
カレンが引きこもった部屋の前で足を止めた人物は、
──あぁ、その分の
腹いせにそんなことを思った時にはもう、足音の主はカレンの前に姿を現している。
「ご
サラリと
【この三日間、どこにいたの】
「どこだって良いでしょう。調査はきちんと
「事件が最速で無事に片付けば、別行動でも問題ない。その合意はお嬢様とわたくしの間で取れていたはずでは?」
【調査結果の報告を】
確かに、合意はした。だが今は何であれクォードの言葉に同意を返す言葉を発したくない。そもそも現状、本当に成果が上がってきたのかも、言葉通り真面目に調査をしていたのかも、……カレンを裏切っていないかということさえ判断できていないというのに、言葉を額面通りに受け取って下手に
そんなカレンの内心をどこまで理解できているのか、クォードはカレンのつっけんどんな言葉にも
それどころかクッションの文字を見たクォードは
「情報提供者を見つけました」
──足音、クォードの分しか気付けなかった。
──つくづく、面白くない。
「お
カレンはゆっくりと椅子から立ち上がるとソロリと体を椅子の後ろへ引いた。その分生まれた
「
招き入れられた男の後ろで、クォードが慇懃無礼に暴論を
クォードが連れてきた『情報提供者』は、一目見ただけでならず者と分かる
恐らくこの男は、追っている事件を引き起こしている犯人グループに属している人間だ。
──やっぱり裏切ったか、このエセ執事。
つまりクォードは『調査』と
──ほら、やっぱりこうなった。
クォードが
──だってこいつは、国家
都から
──
もっともそれは、カレンが
──私を人質にしてみても、
そんな他事を考えながら、カレンはならず者とクォード、両方を視界に置いたままジリッと後ろへ下がる。そんなカレンの仕草を『
【そこの押しかけ執事】
だがカレンはイチミリも表情を動かさない。ジリ、ジリ、と後ろへ下がりながら、カレンは開け放した窓へゆっくり体を寄せていく。
カレンの相手は連れてきた男に任せるつもりなのか、クォードは再びドア枠に肩を預けるように立ったまま動こうとしなかった。それでもきちんとカレンの動向に注意は
そんなクォードに向けて、カレンは殺意を
【後でシバく】
「はぁ?」
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