Ⅱ 強制労働のお時間でございます、お嬢様①
ハイディーンは、アルマリエ
確かにそれは事実だったと、カレンは目の前に広がる雄大な景色に小さく
「というか、何なんです? こっちに仕事振ってきた理由が『夫を甘やかすため』って」
雄大な山々を前にしていれば、
「『夫を甘やかす』と『国政を取り仕切る』を同じように並べて仕事
──いや、それを今この場で、私に向かってネチネチ言われてもどうしようもないんですけども。
カレンは思わずすがめた目で
──いや、でもそれを、ほんと延々と言われ続けても、こっちもうんざりするだけなんだけども。
というよりも、今この場でクォードの口から楽しい話題が出てきていたとしても、それを快く受け取れる心境にカレンはないわけなのだが。
「それと、『人
カレンは思わず
今カレンとクォードが並んで立っているのは、観光案内本で『絶対行きたい絶景スポット』と必ず紹介されている町の入口の
というよりも、それ以外に特にできることが何もなかった。
「人攫いなんて起きてなくても、
──それは私も思った。
事の
風が
観光都市、ハイディーン。
町の主要産業がケルツディーノ山への登山客や北方へ抜ける
──寒冷地って貴族の
同じ『北方領』というだけで生まれ故郷であるミッドシェルジェ
【文句ばっか言ってても始まらないんじゃない?】
カレンは気を取り直すとクッションをクォードの方へ差し出した。いい加減クォードの
【私達、事件を解決しないと帰らせてもらえないわけだし】
「チッ、特別手当と
──そりゃあ伯母様がタダで甘い
一瞬化けの皮が
カレンだって任務に気が乗らないという部分ではクォードと同じだ。クォードに同意するなど、本当に不本意な上に
──『相棒』とか『試す』とか、
ルーシェの勝手な言い分を思い出した瞬間、
──一人の方が、気楽でいいのに。
公爵家とは言っても、ミッドシェルジェは『
ミッドシェルジェの『武』に母
──魔術師って、基本的に魔法使いより魔力総量少ないんでしょ? か弱くて
寿命に関しては、打つ手がないわけではない。現にルーシェは魔力を持たない腹心の臣下と時をともにできるように手を打っている。カレンにもその手が使えないわけではないが、自分がそこまでしたいと願うほど
──ましてやこんな『
何だか思い出したらさらにイライラしてきた。どうにもならないことを何度も思い返して思考を転がしてみたところで非生産的なことこの上ないのに、どうしてもあのルーシェの発言を意識から切り
──こんなことに思考回路を
「仕方がありませんね。とっとと片してさっさと帰りましょう。
カレンがそんな鬱々とした内心を
「さっさと行きますよ。こちらはチャキチャキ
その瞬間
──だ・か・ら! 何なのその好き放題な発言は!
【『執事』として稼ぎを上げたいなら、少しは従者らしい態度でも見せたらどうなの?】
あまりにも身勝手な発言に
【従者らしい振る
それがさらに面白くなかったカレンはクォードが受け取ったクッションに文字を流し続ける。ペロンと片手で顔の前にクッションを
「貴女様が仕えるに値する
【はぁ? あんたがしおらしい態度を見せる所なんて想像もつかないんだけど?】
「現に見せていましたよ」
思わず食って
その対処に気を取られたせいで、カレンは次の言葉をクォードがどんな表情で口にしたのか見ることができなかった。
「もう、
──昔?
クォードの動きに
──何よ、その感傷に
クォードの短い言葉には、
──似合わない雰囲気、急に出してこないでよね。
そのことに対する
「で? どうなさるのですか? これから」
カレンに気を
「貴女様は今までも皇宮魔法使いとして任にあたってきたというお話を
【あんなにやる気見せてたくせに、何も考えてなかったの?】
「
──だから! 『仕える』って言うならそれ相応の態度!
わざと
──町の人の視線が痛い……
登山客と旅人、そして町の住人しかいないハイディーンの中で、ドレス姿のカレンと執事服姿のクォードは明らかに
──んもぅ! 何もかもがうまくいかない……!
もしかしてこれもクォードからの新手の
カレンは外出用に頭に
【まずは宿を確保】
そのことに腹が立つような、弱点を
「活動
【引きこもれる場所を用意しないことには話が始まらない。場所が用意できれば、後はどうとでも】
「はぁ?」
だがその『
「ここまで来てまだ引きこもるおつもりで? いい加減
【だから、働くために私は引きこもる場所が必要なんだってば】
「引きこもっている時点で働いていないでしょう。労働ナメていらっしゃるのですか?」
カレンとしては事実を説明しているつもりなのに、クォードは
【自分で計画練ってこなかったくせに、私の計画には文句を言うの?】
「もっとキリキリと働く立派なご計画があるはずだと、主の志を信じておりましたので」
──本っ当に! 何なのよっ!? その態度っ!!
カレンの表情にクォードは気付いていたはずだ。それでも形だけしかカレンに仕えるつもりがないクォードはその
【そこまで文句言うなら自分で勝手に動けばっ!?】
「左様ですか。それは
挙げ句の果てに続いた
「
相棒として
というよりも、カレン自身がクォードの裏切りを疑っている部分がある以上、派遣先ではきっちりクォードの行動に目を光らせるつもりだった。裏切りの確証さえ得られればカレンの独断でクォードを処分してもルーシェは許してくれるだろう。クォードにとってこの任務が裏切りに絶好のチャンスであるならば、カレンにとっても関係の白紙
が、しかし。
カレンだって、人間である。
いくら『無言
【勝 手 に す れ ば !?】
結果、カレンは
「決まりですね。貴女様のツラを見てなくていいなら、多少は心安く任務に当たれるというものです」
【それはこっちのセリフっ!!】
最後の捨て
──何よ! 何よっ!!
疑わしい行動をしてきたら、今度こそ
──お財布は私が持ってる。事件の
今のクォードは自前の小銭しか持っていないはずだ。クォードの
──ボロ布みたいにみすぼらしくなって泣きを入れにくればいい!
もしくは次に会う時までにクォードの
そんなクォードの未来を想像して
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