Ⅰ 甘い話には気を付けやがれでございます、お嬢様③
「何を言う。妾はどこまでもフェアに、対等に取引してやっておるではないか。前提条件にきちんと考えを
「
「おまけにお前はその後
カレンが驚きの裏でひっそりと黒いことを考えている間も、クォードは
「意識が落ちる前に無理やり
──
カレンは思わず先程までの
──欲しい
つまりクォードはまんまとその
「テメッ……!」
「で。『利』の話じゃが」
サラリとクォードの怒りを受け流したルーシェはコトリと湯呑をテーブルに
「お前がカレンの
「……何?」
「ひとまずハイディーンでの一件をお前がカレンに助力することで解決してこられたならば、三ヶ月分まるっと対価を減却してやろう。中々に
その言葉にクォードの表情がスッと引き
そんなクォードの反応さえもが想定した通りだったのか、ルーシェはスッと指を
「まぁ、ついでじゃ。お前の武装用の
【魔銃?】
その言葉に思わずカレンは
その視線を
【魔銃って、もうすでに持ってますよね?】
文字を流しながらクォードの
カレンの疑問にルーシェは何事かに
──ん? 何その反応?
明らかに今の動きは何か後ろめたいことを隠している人間の反応だ。どうやらクォードはこの一件について何やらカレンに
──油断も
そっぽを向くクォードと視線の温度を下げたカレンを
「カレン。あれはこれにとっては衣服の一部じゃ。いわば
【いや、銃って言ってる時点で十分に武装していると思いますが】
「しかしあの
散々な言われようだが、クォードは視線を
──いやでも、私達にとって脅威ではないけど、
──
「オートの二丁は、
カレンが内心だけで
「女皇が言ってる武装用魔銃は、ただの鉛玉じゃなくて
──魔法使いを殺せる魔銃……
その言葉にカレンはキュッとクッションに
カレンは魔法使いであって魔術師ではない。魔術のことはサッパリ分からないカレンだが、
──つまり武装用魔銃には魔法使いを狩れる力はあっても、何らかの
ならば
その気付きをしっかり記憶に刻みながら、カレンは気を引き締める。
それからふと、あることが気になった。
──ん? けど、ちょっと待って?
【武装状態のクォードって、何丁銃を持ってるの?】
カレンはクォードに向かって問いかけた。カレンがその部分を気にするとは思っていなかったのか、クォードはキョトンといつになく無防備な顔を見せると
「武装用魔銃二丁、通常装備用魔銃二丁、計四丁だが」
【いや武装しすぎじゃないっ!?】
「何事にもやりすぎということはございません。備えあれば
──いやいやいやいや、四丁って!
武器を備えるということは確かに
──そもそも人間はどう
「で? どうする。受けるのか、受けないのか」
『場面によって装備を変えるとかで良くない?』とカレンが内心でツッコミを入れている間にルーシェは話題を引き戻していた。
その言葉にカレンはハッと我に返る。
──マズい、この流れだと……!
「……確かに、この条件ならばわたくしにとっては『利』ですね」
カレンが
「
【ちょっ、待っ】
「
【あの】
「良かろう。今ここで追記してやっても良いが、契約書は持参しておるかえ?」
【待ってくだ】
「こちらに」
「つかぬ事をお
【話聞いて】
「あぁ! 絶対捨てられないように一単語書き込むごとにしつこく
【ちょっ】
「……今何気なく『呪いの書』と
【さすがに
「お前が
二人ともカレンのクッションは視界に入っているはずなのに、なぜか二人ともがカレンの言葉に気付いてくれない。契約書を受け取り、指を宙にクルクルと回してどこからともなく万年筆を取り出したルーシェも、そんなルーシェに視線を置いたクォードも、
──ちょっと! ちょっとぉっ!!
【
「カレン。お前は妾の
あまりの暴挙に焦り半分、泣き半分の心境で
「皇宮魔法使いは様々な特権が認められておる代わりに、その責務を果たさなければならぬ。権利と義務は
アルマリエ
その中でも特に
「国主の名の下に皇宮魔法使いに対して発令された命令は、内容がよほど
ルーシェが歌うように口にした言葉は、アルマリエ帝国において魔法に関する
カレンの背筋をツウッと冷たい
「
【お、伯母様……!】
「皇宮魔法使いとしての地位を失っても、お前は妾の姪であり、次期国主候補であることに変わりはない。皇宮に住んでいても文句は言われんじゃろ」
【お待ちください伯母様っ!!】
カレンは今度こそルーシェの眼前にクッションを突き出した。感情が文字にまで
それでもカレンは奥歯を
【その任務、謹んで拝命いたします】
「そうか、それは助かるのぉ!」
──引きこもりから引きこもる場所を
クッションを机の上に
そんなカレンとルーシェのやり取りを
「お前も案外苦労してんだな……」
──あんたに同情なんてされたくないっ!!
思わずカレンはキッと事の
「お前がハイディーンへ行ってくれるならば、妾は妾にしかできぬ仕事に集中できる。やれ、これで多少は
そんなカレンとクォードのやり取りを
「ある程度の仕事は側近に預けられるような体制を作っておかないと、いざという時に苦労することになるのでは?」
お開きの宣言もなく席を立ち、後ろ手にヒラリと片手を
「トップが
「もちろん、国政は妾一人が欠けたところで
だが
ドアノブに手をかけながら振り返ったルーシェは、今までの強気な笑みにどこか甘さを
「じゃが、夫を甘やかすという仕事は、
「……は?」
ルーシェはそのまま優雅な身のこなしで部屋を後にした。パタリと閉じられた
──絶対に私には見せないけど、伯母様って本当に
「……夫?」
閉じたまま動かない扉をぼんやりと眺めていたカレンは、ポツリと落とされた声に顔を上げた。そしてそこにあったクォードの顔を見て思わず目を丸くする。
「あいつ、
──『
【知らなかったの?】
まるで、この世で絶対に遭遇するはずのない
「
いつになく
──別に
カレンはしばらくルーシェとその夫……
【伯父様、引きこもりだから】
ドレスの後ろ
【アルマリエでは王配があんまり重視されないし、三十年前に結婚してから伯父様はほとんど表に出てきてないみたいだから】
何せ身内であるカレンでさえ
ルーシェ
──というよりも、
セダの姿を直接見ることはないカレンだが、ルーシェの言動の
【だからあんまり情報が流れてないんじゃない?】
その辺りの事情は
そうでありながらクォードは納得と
そんなカレンに向かって、クォードが口を開く。
「『引きこもり』というのは、アルマリエ皇族の
──
失礼
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