第41話 VS学年一位②
――それは、まさしく偶然の産物だった。
◇◇◇
――ダァンッ!
「……ふぅ」
照準から顔を上げ、
視線の先には、岩の上で微動だにしない
しっかり狙い撃ったはずなのに、掠りもせず遥か彼方へ消えた弾丸に時杉がため息を吐く。
(……やれやれ、相変わらず全然当たんねぇな。動かない的(マト)でこれって……。マジで大丈夫かなテスト……もう明日なのに)
大して上達を見せない己の腕前に呆れつつ、時杉がボルトを引いて次弾を装填する。
――と。
「それにしても
そう言ったのは、すぐ傍で眺めていたデルタだった。
適当な平べったい岩を
「ああ……たしかネットで見た感じだと、狙撃は正確性が求められるからオートにしちゃうと連射で軸がぶれるからとかなんとか。それとどうせ基本的には一発必中で、当たれば的を変えるか移動するので連射の必要がないとも書いてあったような……一応オートのもあるっちゃあるらしいですけど」
「へぇ~、なるほどね」
聞きかじった知識を
だが、そこで彼女は「でもさ」と続けた。
「ぶっちゃけ、ちょっと面倒とか思わない?」
率直な疑問。けれど若干身もふたもない発言。
ただ、時杉としては別にこの動きが嫌ではない。むしろ
そのため言い分には理解を示しつつも、時杉はデルタに反論しようとした。
――まさにそのときだった。
「う~ん……個人的には渋くてかっこいい動きだと思いますけどね。いやまあ、たしかにリロードのたびにってのは――」
🌀
「――え?」
◇◇◇
……以上が、時杉が発見した【
(……まあ、誕生秘話もなにもただ単にずっと気づけなかっただけなんですけどね……)
当時を回想しつつ、時杉は心の中で自分自身にツッコむ。
ちなみにこの特性を発見したとき、時杉は泣いた。
嬉しかったから……ではない。
自分のマヌケさに対してである。
(いや、マジで嬉しいよ。嬉しいんだけど……)
ロードと言う新たな力がもたらした
今まで《
そこから脱却できる喜びときたら、
(……でもいざ気づいた後だと、「たしかに普通に考えたらセーブとロードってセットじゃん!」っていう自分の発想力のなさの方がどうしてもね……)
RPGのゲームをやっていれば誰しも見たことがあるはず。
“セーブ”という文字の下あたりに大体備わっている、“ロード“の文字。
ならば【
――というのが、時杉の溢れんばかりの後悔だった。
(ああ……もし気づいていれば、デルタさんに殴られることもなかったし、
思い出される過去の激痛の記憶。
とはいえ、いつまでも後悔ばかりでもいられない。
今見据えるべきはあくまで未来。
それもごく直近の。
(さて、問題はここからどうするかなんだけど……)
無事にピンチを脱出できたはいいが、ピンチそのものが去ったわけではない。
時杉が【
ここから空閑のいる広間までは、いくつか通路と小部屋を挟んだ程度。
(逃げてやり過ごす……なんて甘い考えは無駄だろうな)
頭のいい空閑ことだ。
恐らく、あの広間は次の階層へ行くために必ず通らねばならない道に違いない。
となればもう、空閑との直接対決は必須。
つまり、時杉たちはこのわずかな区間で、空閑を倒すための策を考えなければならない。
しかし――。
(となると、やっぱりさっき考えた作戦を実行するしかない……か)
その答えを、時杉はもう持っていた。
実は先ほど空閑と対峙した際、時杉は初めから勝つ気などサラサラなかった。
空閑は強い。
考えなしに挑んでも勝ち目などない。
だから絶対に負けるだろう……と完全に諦めていたのだ。
ただその代わり、時杉はある決断をした。
――どうせ勝てないなら、せめて次の勝利につながる情報を少しでもかき集めよう。
空閑との最後のやり取りの際にも言っていたことである。
状況をとにかく黙って見続け、“観察する”ということに全神経を注ぐ。
それがあのときの時杉が徹底したこと。
もっとも、そうは言っても決して簡単なことではない。
目の前で吹き荒れる空閑の
豪山も妃菜も為す術なく抑え込まれ、手も足も出なかった。
しかも時杉の場合、過去に一度その威力を直に己の肉体で体感している。
空閑の店で彼の誘いを断り、《
その上でジッと冷静に状況を分析するなど、並大抵のことではない。
(つくづく痛みってのは人間の思考を鈍らせるんだな……)
ここまでの道中、時杉はもう何度そう実感したかわからない。
痛みとは恐怖だ。
そして、恐怖とは思考を鈍らせる。
ゆえに時杉は、これまでループした後に“どうだったか”を検証することはあっても、ループ前から次に“どうしようか”なんて考えながら行動などできなかった。
だが、新たな“
そしてだからこそ、時杉は空閑を倒すための作戦を思いつくこともできた。
(ただ作戦を実行するには、そもそもアイツがこの階層にいないと……)
一抹の不安がよぎる。
なお、時杉の策は決して完璧とは言い難い。
当たり前の話だ。
何度も言うが、敵は学年一位の空閑
(……まあでも、ダメならダメでまた考えればいいさ)
思考を切り替え、時杉がフッと微笑む。
こんなピンチで落ち着いていられるのも、すべては【
引いては“ロード”の特性に気づいたからである。
それに加えて――。
「時杉……?」
「!」
時杉が顔を上げると、
いつの間にか通路を歩きながら立ち止まっていたらしい。
「どうしたの? いきなり立ち止まって。大丈夫?」
「あぁん? まさかどっか痛めたとか言うんじゃねぇだろうな? 頼むぜ、まだ先は
妃菜と豪山、それぞれ時杉に声をかける。
「……ふ」
時杉の口元に自然と笑みが浮かぶ。
「ちょ、おいおいなんだオメェ? マジで頭とかどっかやったんか?」
「だ、大丈夫? 支給品の応急キットならあるよ?」
突然笑い出した時杉に、慌てふためく豪山と妃菜。
「……いや、なんでも。ところで、二人に頼みたいことがあるんだけど」
◇
そうして、時杉たちは空閑との二度目の
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