第24話 幼馴染キャラだからって仲が良いとは限らない①
――5月9日、水曜日。
「ふぁ……」
(昨日は張り切り過ぎたな……。いや、昨日もか。結局あれから日付変わるまでダンジョンだったもんな……さすがにねむい)
朝。
駅から
(やれやれ。こんな生活してて身がもつんだろうか……?)
これで三日連続の夜更かし。
加えて昨日は豪山との勝負があったりと、夜だけでなく日中も【
もちろん帰宅してからは
(まあこういう経験も、俺がスキルを得たって証拠だから多少感慨深くもあるけど……それに検証自体も楽しいし。あれかな? 部活やってる奴らって、みんな毎日こんな感覚なのかな?)
ある意味で心地よい疲労。
普段の一人で黙々とするジョギングとはまた違った充実感。
ちなみにこれまでの人生において、時杉が部活に所属したことはない。
運動部はおろか文化部も含めて一度も。
理由はもちろん、入ったところでスキルがないという関係ない理由で馬鹿にされ、部内でもぼっち化するのが目に見えていたからである。
(つってもまあ、これが本来普通なんだけどな。俺が遅すぎただけで)
スキルとは誰もが発現するモノ。
時杉が手に入れたのは、他の人間が当たり前に持っているものに過ぎない。
そういう意味では、これでようやくスタートライン。
それどころか周囲が小学生からスキルを使えていることを考えれば、まだ周回遅れにされているとも言える。
(でも、昨日はあの豪山に勝ったわけだしな。しかもその前には《未攻略ダンジョン》まで……。そう考えると、なんだか頑張りがいがあるな)
スキルを得てからというもの、すでに劇的なことばかりだ。
だからこそ、もっともっとという気持ちが溢れてくる。
(あーあ、早く夜にならないかな)
自然と表情がほころぶ。
(……ただ、あんまり頑張り過ぎてスキルのことがバレたら最悪だからな。そこだけは気をつけないと)
昨夜の休憩中の会話を思い出す。
スキルの存在は今後も伏せる。
それが時杉とデルタの共通認識。
昨日の授業ではついつい何度も使ってしまったが、今後は使いどころを見極めて方がいいかもしれない。
そう思って気を引き締めた時杉だったが、そこでふとある疑問が浮かんだ。
(でも冷静に考えたら、俺のスキルがバレるときってどんなときなんだ?)
記憶にも記録にも残らない【
他人にその能力を知られてしまう場合、それはいったいどんなケースなのか。
(う~ん……あるとすれば、自分でタネ明かしをするくらいな気がするけど)
ただ、これは自分が気をつければいいだけなのでぶっちゃけ無視していい。
しかも豪山との勝負で体感したとおり、
(あと他には……)
強いて言うなら、時杉とずっといっしょに行動して違和感を感じ取るパターン。
これに該当するのはデルタだ。
しかし、このパターンも限りなくレアケースだ。
《北区第13ダンジョン》の攻略時――あのときだって時杉がモンスターの居場所や行動をバシバシ当てることでようやくデルタも「もしや?」と思ったくらいだ。
だがこれも幸か不幸か、ぼっちの時杉に友人とダンジョンに潜る予定などない。
(いや、これ
一瞬己の中の闇が顔を覗かせたが、なんとか抑え込んで時杉は前を向いた。
ともかく、デルタと同じような流れで気づかれる可能性はまずないというのは確かだ。
「……なんかそう考えると、あんま意識しなくてよさそうだな」
歩きながら、時杉はなんとなく肩の力が抜けていくのを感じた。
(なんだ、結構余裕そうじゃないか。これからスパイみたいにコソコソしないといけないのかとちょっと身構えてたんだけど……)
昨夜改めてデルタから言われた際は「これから気をつけないと……!」と内心で意気込んだのだが、バレる心配がないなら今後の授業でも気兼ねなく使っていいのかもしれない。
せっかく手に入れたスキルだ。
使えなくなるのが一番恐いしもったいない。
「あとバレるとしたら、せいぜいデルタさんとの会話を聞かれるとかそれくらいだと思うけど、わざわざ深夜の公園で俺たちの会話を盗み聞きしてる奴なんているわけないだろうし――」
「――なにブツブツ言ってんの?」
「!?」
時杉の身体がビクッと震える。
思わず飛び上がりそうになってしまった。
どうやらいつの間にか学校に着いていたらしい。
校門前で話しかけてきたのは、時杉と同じく二年生の女子生徒。
恐らく誰かと待ち合わせでもしていたのだろう、手にはスマホを持ちながら壁に寄りかかっている。
(び、びっくりしたぁ……って、え!?)
ただなにより時杉を驚かせたのは、その女子生徒というのが……。
「……久しぶり」
「あ、ああ。久しぶり……
羽根坂
黒を
全体的に見た目が派手めなのは、彼女がダンジョン内での撮影がメインの動画投稿者だから。
学内にもファンは結構多く、特に男子からの人気が高い。
そして何を隠そう――彼女は時杉の幼馴染である。
「えっと……じゃあ」
「ちょっと待って。なんで普通に入ろうとしてんの?」
「え? なんでって、俺ここの生徒――」
「じゃなくて、ケイ……時杉を待ってたんだけど」
「え」
(俺を……?)
全く予期していなかった発言に、時杉はまたビックリしてしまった。
それもそのはず、幼馴染と言っても二人が会話するのはこれが約一年ぶり。
(てか、高校に入ってからは初めてじゃないか……?)
妃菜とは家が近いという縁もあり、初めて会ったのは5歳のとき。
昔はよく遊んでいたし、学校でも気兼ねなく話をするような仲だった。
……しかし、その関係もある日を境に途絶えた。
きっかけは小学校四年生のとき。
妃菜がスキルに目覚めたのだ。
そこからはほぼ自然消滅のような流れ。
最初こそそれまで通りだった距離感が、学年が上がって時杉以外の人間もスキルに目覚めるにつれてどんどん離れていった。
名前も下の方で呼び合っていたのが、気づけばお互い名字呼びに。
(まあ、別に面と向かって話しかけないでとか言われたわけじゃないけど……なんか気まずくなったんだよな。それもこれも俺にスキルがなかったせいだけど)
というわけで、今の時杉と妃菜はすっかり他人同士に近い関係。
よって、時杉が戸惑うのも当然であった。
「えっと、なにか用……でしょうか?」
「なんで敬語なの?」
「……なにか用?」
「用がないと話しかけちゃダメなの?」
「いや、そういうわけではないけど……」
(え、なにこれ……どういう状況? マジで何もないのに話しかけてきたの? そんなことってあるか?)
もちろんダメでもないし悪くもないが、なにせ一年以上ぶりの会話だ。
それ以前の中学時代からもすでに疎遠なのに、急に世間話をしてくるとも思えない。
なにか目的があると
けれど、
(わかんねぇ……いったいなんで妃菜は急に話しかけてきたんだ……?)
――――と。
「……昨日の夜」
「!!?」
そのワードだけで、時杉の背筋はヒヤッとした。
「どこでなにしてたか、聞いてもいい?」
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