第23話 決意新たに~チョロいぼっちと優しいお姉さんを添えて~
夜――。
学校から帰って夕飯を済ませた
で、今はその休憩中。
いつもの自販機横のベンチにて、時杉は雑談がてらに今日学校であった出来事をデルタに話して聞かせていた。
内容は無論、
「――とまあ、そんなことがありまして」
「へぇ~。じゃあようやくそのいっつも絡んできてた豪山くんって子に勝てたんだ。
「まあ、一応そうなるんですかね」
「なら今日は祝杯だね。どうする? カンパイでもする?」
手に持ったメロンソーダをデルタが掲げて見せる。
立場的には部外者だが、ウキウキといった様子で。
ならば当然、勝利した本人はもっとノリノリかと思いきや……。
「……いえ、遠慮しておきます」
「あらら。なんかあんまヨッシャーって感じじゃなそうだね。まあ話の途中からそんな気はしてたけど」
「ええ、まあ……」
「なんで? 嬉しくないの?」
「そりゃ終わり方が終わり方でしたからね……」
時杉が気にしているのは、勝負の後のことだった。
苦し紛れに放った豪山の言いがかり。
ノーミスで《
けれどそんなことは一切していないのだから、普通に否定できればよかったのだが……。
「まさかいざ追いつめられるとあんなに何も言えなくなるなんて……。本来なら
基礎の実践うんぬんの
が、当時はテンパり過ぎてそこまで頭が回らなかったのだ。
情けないったらない。
もっとも、気づいたところで空閑のようにスラスラ指摘できたかどうかはかなり怪しい。
けれどその事実がまた時杉の落ち込み具合に拍車をかけていた。
結果、時杉はダンジョンこそ攻略できたものの、己が生んだ負の思考のスパイラルに絶賛迷い込み中であった。
「これじゃあせっかくの達成感もパーというか……。むしろあの勝ちも半分は空閑のおかげっていうか……。なんならもはや空閑が勝者と言っても過言じゃないまであるっていうか……」
アルマジロのように背を丸める時杉。
その姿はもはや敗者のそれ。
そんな時杉の様子を見兼ねて、デルタがよしよしと背中を優しく撫でる。
「まあまあ、そんなに落ち込まなくても。人間
「それは……まあそうかもですけど」
「それにトークのウマさとダンジョンでの実力はなんにも関係ないわけじゃん。今回はたまたまそういう状況になっちゃったけど、大事なのはトッキーがちゃんと自分の力で攻略したという事実。でしょ?」
「……たしかに」
デルタの言葉で、徐々に時杉の
(そうだった。よく考えたら最後のアレは勝負と何も関係ない。勝ったのはあくまで【
そこでようやく時杉は顔を上げた。
「お、元気出た?」
「はい、なんとか」
「そっか。ならよかった」
「!」
ニッコリと微笑むデルタに、時杉が思わずドキッとする。
これまで感じたことのない温かいナニかで己の心が満たされていく。
(すげぇな……他人に励まされるってこんなに身に染みるものなのか……)
ぼっちの時杉にとっては初めての経験。
恐らく今までであればこの状況、この間みたく枕に顔を
そしてそんなもので心が晴れるはずもない。
けれど今は……。
「…………」
時杉はしみじみとデルタの横顔を見つめた。
(なんというか……ほんとに良い人だよな、
美人で優しいお姉さんタイプ。
実際の学年は知らないし、たまに若干子どもっぽいところも見え隠れするが、時杉の中のデルタの印象はそんな感じ。
こんな年頃の男子だけでなく老若男女誰からも好かれそうな
正直なところ、時杉には謎だった。
と、そこでデルタがふと呟く。
「あ~あ。でもアタシも見たかったな~」
「? なにをですか?」
「そりゃもちろん、トッキーがダンジョンでぶいぶい無双するところだよ」
「無双って……そりゃ
セーブ前の記憶が消えるのはあくまで周囲の人間だけ。
そのため他人とっては一発成功でも、時杉本人には夥しいトラップの数々に引っかかった失敗の記憶が蓄積されていく。
身体の痛みは消えても「痛かった」という意識は残っているので、精神的にはかなりキツいのだ。
「あ~、そういえばそっか。ごめんごめん」
「でもそう考えるとこうしていろいろ検証しといてよかったですよ。新しい発見もちゃんと活かせましたし」
「新しい発見……? ああ、アレのこと」
ふいに時杉が発した単語に、デルタも「たしかにね」と同意する。
それは昨夜、時杉がデルタとともに発見した【
それというのがズバリ――セーブポイントの上書きである。
どういうことかと言うと、例えば豪山との勝負の際のことだ。
一つ目の
(いや、この先毎回スタートからとか死ぬ……!!!)
そしてすぐに呟いた。
「……【セーブ】」
するとどうなったか。
続く次のトラップに引っかかり《
これこそセーブの上書きの効果。
こうして時杉はトラップ突破のたびにセーブポイントを奥へ奥へズラしていくことで、結果的にかなりの時間と体力の節約に成功していたのだ。
「いやほんと、マジで助かりましたよ……」
改めて思い返し、時杉がため息を吐く。
もしこの仕様に気づいていなければ、時杉はトラップに掛かるたびにスタート地点まで戻る羽目となっていたことだろう。
ハッキリ言ってそれは地獄である。
RPGにおいて死亡するたびに「はじまりの町」に戻されるようなもの。
苦行すぎて途中でゲームを放り投げてもおかしくない。
「まあね~。いくらパターンを把握しても、最初から全部やり直しはキツいよね」
「はい……」
(まあ理想を言えば、複数ポイント作って任意で選択できるとかだと最高だったんだけど……さすがにそれは高望みしすぎか)
「それにしても今回の件で改めて思ったけど、やっぱりトッキーのスキルのことは誰にも言わない方がいいね」
いつぞやと同じ話をデルタが繰り返す。
それはスキルに初めて気づいたときから言っていること。
【
そして、これについては時杉も同意見だった。
「そうですね。俺もその方がいいなって思いました。人間どころか機械すら認識できないなら、いっそセーブなんてできないと思っててくれた方が動きやすいですし」
いざ実戦で使ってみて感じたことだ。
今回のように人と競う場面が訪れた際、相手にスキルがバレてない方が有利なのは間違いない。
極端な話。
もし時杉がセーブできることを知っていたら、豪山は真っ先に時杉の動きを封じるような妨害をしてきただろう。無論、露骨すぎるのは失格になるので避けるとしても。
(あとそもそもめっちゃ説明しづらい。これはガチ)
一瞬嫌な記憶が蘇りかけたが、時杉はすぐに蓋をした。
と、そんな風に時杉なりにデルタの意図を察して同意したのだが……。
「そうだね。それもあるね」
「?」
(……も?)
もしかしたらただ言い間違っただけかもしれない。
けれど時杉には、そのデルタの言い回しが引っかかった。
(なんだろう? 他になにか理由なんてあったっけ?)
「さ、休憩終わり。そろそろ続きしよ。うかうかしてるとあっという間に時間なくなっちゃう」
「あ、はい」
そうこうしている間にメロンソーダを飲み干したデルタが立ち上がり、時杉も釣られるように顔を上げる。
そこで時杉の思考は中断した。
(そうだ。今はとにかくもっとスキルを使いこなせるようにならないと。まだまだ新しい発見もあるかもしれないし)
実力テストは来週。
今は目の前のことに集中すべき。
(よし、こうなったらとことんこのスキルについて突き詰めてやる!)
決意を新たに立ち上がる。
そうして、今日も今日とて時杉はダンジョンに向かうのだった。
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メリークリスマスイブ!!
読みに来てくださりありがとうございます!!
あんまり小説に関係ないことはここに書かない派なんですが、こんな時間に投稿するってことはお察しだよ!!
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