天才とぼっち編

閑話 とある天才の呟き

 授業が終わった後――。



 システムが解除され、ただの無機質な四角い箱へと戻った模擬ダンジョン。


 生徒もみな教室へと戻り、先ほどまでの喧騒けんそうが嘘のようにがらんとして静寂せいじゃくが満ちている。


「…………」


 そしてそのある種物寂しい景色を、一人残ってジッと見つめる男子生徒がいた。



 空閑くが晴斗はるとである。



「……


 呟いたのは、この日の授業で出た最高タイム。


 そしてさらに――。


「《熟練者エキスパート設定》……」


 攻略難易度“A-”のダンジョンに相当する、模擬ダンジョンの超高難度設定。


 どちらも高校生のレベルではない。

 大人でさえクリアできる者は限定されるだろう。



 ゆえに、もし仮にそれらをがいたとすれば、その人物は間違いなく只者ではない。



時杉ときすぎ蛍介けいすけ君……か」


 ポツリと呟く空閑。


「……フフ」


 次いで、小さな笑みがこぼれる。



 ――空閑晴斗。


 成績優秀。スポーツ万能。


 爽やかで整った外見に、誰とでも仲良くできる人当たりの良い性格。

 男子からは羨望せんぼうの、女子からは恍惚こうこつの眼差しを向けられ、教師からの信頼も厚い。


 外見においても内面においても、共に「こうなりたい」を具現化したような完璧超人。



 ――時杉蛍介。


 成績微妙。スポーツはジョギングのみ。


 中肉中背の平凡な外見に、人当たりどころかそもそも人に相手にされないド陰キャ。

 男子からは侮蔑ぶべつの、女子からも侮蔑の眼差しを向けられ、教師からの信頼は極薄。


 外見においても内面においても、共に「こうはなりたくない」を具現化したようなぼっちマン。



 最強と最弱。


 頂点と底辺。


 ヒーローとモブ。



 なにもかもが対極。

 本来であれば決して交わることはない。



「ああ……久しぶりだよ。テストがこんなに待ち遠しいのは」



 ――だがしかし。



「君もそう思うだろう……時杉君?」




 そんな二人の運命が、今まさに交差しようとしていた。

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