第10話 ボス戦――第二ラウンド②
☆――東京都北区第13ダンジョン:最終第10階層――☆
(やっぱり同じだ……)
広いドーム状の空間に足を踏み入れてすぐ、
「ふ~ん、あれがボスか。ケッコー強そうだね。どう? やっぱり夢で見たまんま?」
「……はい。まさに」
デルタの問いに静かに頷き返す。
ゴツゴツとした鎧を纏った巨体と、それに負けないほど大きな
フロアの中心に直立するは、二足方向の
そのまさしくボスと呼ぶにふさわしい威風堂々たる
頭のてっぺんからつま先まで、違いは何一つない。
しかし、だからこそ……。
「GRRRRRR……!!」
(やべぇ……この距離でもチビりそうだ……)
己の領域に足を踏み入れた
ボスとの直線距離はおよそ30メートル以上。
表情がはっきり読み取れるとは言い難い距離。
にもかかわらず、鋭い眼光の迫力に時杉は思わず後退りそうになった。
まるでゲートに収まった競走馬のよう。
涎を垂らした獰猛な白き虎は、今すぐにでも飛び掛かってきそうな気配だった。
(こんな状態でレベルチェックとか、どんだけ正気じゃなかったんだよ俺……)
一度目の邂逅ではボス戦の空気に飲まれ浮足立ってしまい、時杉はついスマホを構えてレベルチェッカーを起動してしまった。
今にして思えば完全な自殺行為だ。
それこそサファリパークで車から出て記念撮影をするようなもの。浅はかとしか言いようがない。
しかも未攻略ダンジョンのボスに攻略情報などないのだから、正真正銘の無意味な行動だった。
(でも……)
今回は違う。
同じ
(
「……気をつけてくださいデルタさん。たぶん、最初は思い切り飛び上がって空中から打ち下ろしてきます」
「! オッケー」
と、時杉の言葉にデルタが頷いた直後――。
「GAUッ!!」
勢いよく地を蹴り、高々と舞うボス。
巨体とは思えない身軽さ。
あっという間に二人との距離が縮まる。
「おおぉ! ホントにきたっ!」
言いながら素早く左へとステップするデルタ。
一方、時杉はすでに逆方向へと全力疾走していた。
――ドスンッ!
数舜前まで二人のいた位置に、ボスの巨体が着地する。
「ひゅ~♪ やるじゃんトッキー! 天才?」
(そりゃどーも!)
口笛を吹いて
(よし、これでデルタさんが自由に戦える!)
一度目はこの先制攻撃に反応できなかった。
振り返ればそれが破滅への序曲。
回避が紙一重になったことでボスとの距離が離せず。
結果、壁際に釘付けとなったことでデルタは時杉を守りながら戦う羽目となり。
そして最終的には
だが、今回は余裕をもって躱せたことで十分な距離を取ることができた。
これで時杉がひたすら足手まといとなるという、最悪の状況をひとまず回避できた。
まずは順調な滑り出し。
「よっし! じゃあここからはアタシの出番だね!」
デルタが鞘から刀を引き抜き、ボスと真正面から対峙する。
「いくよ、【
「GAAッ!!」
ギィィインッ――!!
青き刀と
デルタとボス。
前回同様に激しい剣戟の嵐が吹き荒れる。
「GRUAッ!!」
上段に構えた戦斧をボスが振り下ろす。
ゴウッと風を切る音がフロアに響く。
(にしても、ほんとにバケモンだな……)
戦闘開始から数分。
遠くで見守っていた時杉は、心中でそう呟いた。
その感想は巨大な斧を枯れ枝のように軽々と扱うボスに対し…………ではない。
「おっと」
デルタが上体を逸らしながら片足を引く。
刹那、同時に動いていた右腕が振り抜かれる。
「ッ!? GUU……!!」
「フフ、悪いけどその程度じゃ当たってあげられないかな」
回避と同時に放たれたデルタの斬撃。
ボスが脇腹を抑えながら片膝をつく。
(……マジかよ)
時杉は戦慄していた。
勝負が始まってからというもの、デルタは完全にボスを圧倒していた。
「GAAッ!!」
上下左右、次々と繰り出される戦斧の乱撃。
「せいっ!」
「――ッ!?」
が、それらをヒラヒラと風に舞う木の葉のように避けながら、デルタは先ほど繰り出したように己の斬撃を滑り込ませていた。
見れば、今や白い体毛で覆われていたボスの身体はあちこちが赤く滲んでいた。
すべてデルタの斬撃を受けた傷によるものである。
(すげぇ、たしかに攻撃パターンは多少伝えてたけど……ここまでって……)
それはフロアへ下りる前のこと。
すでに一度対戦してボスの繰り出す斬撃にいくつか種類があるのに気づいていた時杉は、事前にそのことをデルタに伝えていた。
とはいえ、敵はロボットではなく生物。型にはまらない動きも多数あり、先入観に囚われすぎてもいけない。
加えて記憶違いもあるかもしれない。
だから開始前の情報伝達はほどほどに、あとは戦いながら適宜指示を追加していく心づもりだったのだが……。
(これ、やっぱ俺なんていらなかったかも……)
結果は見ての通り。
あえて時杉が口を出すまでもなく、デルタは事前の情報のみでボスを圧倒していた。
いくらスキルの力によるものだとしても、とても人間業には見えない。
道中まざまざ見せつけられていたため強いのは重々理解していたが、まさかこれほどとは思っていなかった。
(いや、いい。要は勝てばいいんだ)
これはある意味で嬉しい誤算。
まずは勝利こそ最優先。過程などどうでもいい。
(とにかくこれならいける……! あとはこのままダメージを重ねていけば……)
――ボスを倒すのも時間の問題。
だが、まさに時杉がそう思った直後だった。
「GYAAAAAッッッ!!!」
「ッ!?」
怒りの咆哮とともに立ち上がったボスが、両手で握った斧を水平に構えた。
(アレは……!!)
夢での光景がフラッシュバックする。
必殺技とでも呼ぶべき回転斬り。
ほぼ360度全方位に放たれる回避不能の一撃でもって、一度目の攻略はそこで
「……!!」
ただならぬ気配にデルタの顔色も変わる。
迂闊に飛び込んではならないと、後ろに下がって距離を取ろうとする。
しかし。
(ダメだ、その攻撃は距離を取っても避けられな――……ッ!?)
瞬間、時杉の頭に浮かんだのは夢から覚めたときの記憶だった。
(そうだ……!)
時杉は叫んだ。
「下だッ!!」
「え? トッキー?」
「横じゃダメだッ! 地面スレスレに潜って!!」
「……!」
予期せぬ指示に、デルタが驚いた顔を浮かべる。
けれど、言わんとすることは伝わったらしい。
「……オッケー。まかせて!」
すぐにキッと表情を結び、デルタはボスに向かって踏み込んだ。
一見すると無謀な行動。
案の定、ボスが歓喜の咆哮を上げる。
「GYAOOOOO!!!!!!!」
待ってましたと言わんばかりに戦斧の刃が揺らぐ。
その次の瞬間、空間ごと輪切りにしようかというほどの強烈な横なぎが繰り出される。
(今――!)
だが、デルタはそれよりさらに一瞬早く動いていた。
ボスの動きを見定め、軌道の修正が利かないギリギリのタイミングで滑り込む。
「ッ!!!?」
さらに、大振りによる反動で身体は傾いている。
その隙を、もちろんデルタは見逃さない。
「――――【
ドッ――――!!!
ガラ空きになった胸に、青き刃が突き立てられる。
そして、その鋭い切っ先は分厚い肉を貫くと――
「GYAAAAAAAAッ!!!!!」
――ついに、白き虎の
//////////////////////
これにて最初の区切りである「覚醒の兆し編」終了です。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!!
次からは「対決DQN編」に突入します。
もしちょっとでも「面白かったよ!」「続きが気になる!」などなど思っていただけたら、ぜひ☆やいいね、フォロー等で応援して頂けるととっても嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます