最終話【ミミックハンター】
「――ここは? 確か宝箱を開けた瞬間に目の前が真っ暗になって……」
アリアが目を覚ましたのを確認すると俺は魔法鞄に入れていた外套を取り出して彼女にかけてやる。
「とりあえずこれを着ておけ。急いで来たから着替えまでは手が回らなかった」
そう俺に言われてアリアは自分が服を着ていない事に気づき顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせる。
「憶えてないのか? 君は呪いの宝箱に喰われてもう少しでミミックになるところだったんだ。服と装備を溶かされただけで済んだのは超絶運が良かったと思うんだな」
俺がそう言うと全てを思い出したようにアリアがお礼を言った。
「助けてくれて本当にありがとうございます」
「分かってくれたらそれでいい。でなければ俺がアモンドに責められるからな」
俺はそう言うと彼女を連れて上階段へと向かう。
「アリア!」
バランが俺と一緒に歩いてくるアリアに気がつきそう叫んで駆け寄って来た。
「良かった。無事だったか」
「応急処置はしたが念のためギルドに帰ったら治癒士に見てもらえ。バラン、彼女を頼んでもいいか?」
「アンタはどうするんだ?」
「少し第7階層の調査をしてから戻るつもりだ」
俺が現場に残ろうとするとバランは同行を諦めずに交渉をしてくる。
「いや、俺だけでこんな状態のアリアを守りながら地上まで向かうのは無理だ。出来れば一緒に来て欲しい」
「むう。ならば10分程待っていてくれるか?」
「そのくらいならば大丈夫だ。階段で待っていれば最悪でも襲われる事はないだろう」
「わかった。少しだけ確認したら戻ってくる」
俺はそう言って第7階層の奥へと向かった。
「――見つけた」
俺は走り出してから数分後には目的の物を見つける事が出来ていた。
「コイツはどっちかな?」
俺はそう呟いてピックを取り出して鍵穴に差し込んだ。
バカッ!
「宝箱は勢い良く開き中から数多の触手が伸びてくる」
「良し! 当りだ!」
俺はそう叫ぶと銀のピックを宝箱の中の小さく光る核に突き立てた。
――ピッ
ミミックは悲鳴のようなものを発したと思うとぐったりと動かなくなる。
「良し!」
俺はそう呟くとおもむろに宝箱からミミックを引きずり出した。
ずるり――
死体となったミミックはスライムのようにブヨブヨの塊となり床に広がる。
「さて、なにがあるかな?」
俺はミミックの居なくなった宝箱の中を覗き込むとニヤリと笑う。
宝箱の中からはミスリルの塊が現れ持ち上げる。ずっしりと重い感触に満足しながら魔法鞄に仕舞い込むと急いでふたりの元へ駆けていった。
「持たせたな」
俺はアリアをバランに任せて先行しながら敵を瞬殺して行き数十分後には地上までたどり着いていた。
――からんからん。
ギルドのドアを開けた音が響き、同時に多くの視線がこちらに向かう。
「戻ったぞ! アリアも無事だ!」
バランの第一声に受付嬢が涙ながらに駆け寄ってくる。
「すまないがアリアのために風呂と治癒士の手配を頼む」
バランがそう言って受付嬢にアリアを引き渡す。
「分かりました。さあ、アリアさん。こちらへどうぞ」
同じタイミングで奥の部屋からアモンドが飛び出して来るのが見えた。
「アリア! 無事で良かった!」
ギルドマスターはそう叫んでアリアに抱きつこうとしたが外套に身を包んだ彼女を見てぐっと思いとどまる。
「ガナッシュ! やはりお前に頼んで良かったぞ!」
アリアを見送った後、アモンドは俺の背をバンバン叩きながらそうお礼を言ってくる。
「当然だ。それにこちらも収穫があったからな」
俺がそう告げるとギルドマスターは笑いながら答える。
「はっはっは、それは良かった。よし、執務室へ来て報告も聞かせてくれ。バランは仲間の所へ行ってやれ報告は明日にでも聞く」
アモンドの言葉に俺とバランは頷いた。
「――あれからどうなったのか報告をしてくれるか?」
アモンドの問に俺はあったことをそのまま伝える。
「時間との戦いだったから最短ルートで第7階層まで向かい、現場でミミック化しかかっていた彼女を引きずり出して蘇生させた。本当にギリギリだったぞ」
「ああ、そのようだな。アリアの様子からすると装備はおろか服さえも溶かされていたようだったからな。で、見たのか?」
「おい、まさかあの状態で見たことに対して責任をとれと言わないだろうな?」
「それに、蘇生措置をしたと言ったな? それは回復薬を口移しで飲ませたということだろう?」
「人命救助措置だ。分かっていて言うんじゃない」
「まあ、そうなんだが大切な姪だからなぁ」
アモンドはそう言うと「少し待っててくれ」と席を立つ。
10分も過ぎた頃、彼はアリアを連れて部屋へと戻ってくる。
「もう動いて大丈夫なのか?」
「はい。おかげさまで助かりました。本当にありがとうございました」
アリアは俺に微笑みながらお礼を言うとアモンドの横に座る。
「さて、ここからは俺からの頼みとなるのだがアリアを鍛えてやってはくれないか?」
「彼女を?」
「ああ、アリアはあんたと同じ斥候だがまだまだ未熟だ。今のままではきっとまた宝箱に喰われてしまうだろう。そこであんたに鍛えてもらえれば俺も安心出来るってわけだ」
ギルドマスターは笑みを見せながら俺にそう言った。
「君はそれで良いのか?」
「今回のことで自分の未熟さのために迷惑をかけてしまいました。出来れば私からもお願いしたいです」
「分かった。助けてすぐにまた喰われて貰ってはかなわないからな。斥候の基礎を叩き込んでやろう」
「すまないな、恩に着る。ではアリアはもう休みなさい」
アモンドはアリアにそう言って退室させる。
アリアが部屋から出たのを確認するとギルドマスターは書類をテーブルに置いた。
「報酬は明日にでも払われることになるが、ひとつ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「アリアを助けてバランに預けた後でもう一度7階層の奥へと走って行ったそうじゃないか。何があった?」
「いつものやつだよ」
俺はそう言ってミスリルの塊をテーブルに置いた。
「……仕事熱心なのは結構だが気をつけろよ。まあ、ミミックを無傷で狩れるのはお前くらいだから止めはしないがくれぐれも狩っているところを他の冒険者に見せるなよ。真似をされて喰われたら洒落にもならん。それと、暫くはアリアにも秘密にしておいてくれ。あいつは教えると止めてもやりそうだからな」
「分かっているよ。だが俺が鍛えるならば出来るようになるのがベストなんだがな」
「もし、そうなれば責任をとって嫁に貰ってくれるとありがたいがな」
「まだ言うか」
俺はアモンドの言葉に呆れたがそれも良いかもしれないと笑みを浮かべた。
――ランクS斥候ガナッシュ。彼の裏の顔はミミック化した宝箱から希少な鉱物を回収するミミックハンターだった。
この遺跡ダンジョンはミミックで溢れている〜Sランク斥候はミミックの真の価値を知っている〜 夢幻の翼 @mugennotubasa
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