第3話【Sランク斥候の実力】

「時間がないから最短ルートで進むぞ。死ぬ気でついてこい!」


 俺は後ろから必死の形相で走るバランにそう言って上層のダンジョンを駆け抜ける。


 途中で何度か敵と遭遇したが相手を斥候のスキルで先制攻撃をかけ、全て一撃で沈めて進んだ。


「そう言えばバランは後衛職だと言っていたな? 魔術師なのか?」


 どんどん歩を進めながら階層を攻略していく傍らで俺はバランにそう問いかける。


「あ、ああ。火と水の魔術が使えるがボスを倒すだけの火力は無いぞ」


 俺の言葉にバランはそう答える。


「流石にそこまでを期待をしているわけじゃない。ただ、戦闘が始まったら奴の顔面に向かって一発『火球』を放って欲しい」


「顔に一発だな? だが、腕で防がれたらほとんどダメージは与えられないぞ」


「ああ、それで構わない」


 俺の言葉にバランは怪訝な顔をするが「わかった」と言って頷いた。


「着いたぞ、ボス部屋だ。このまま突っ込むから奴が立ち上がったら頼むぞ」


 俺はバランが頷くのを確認するとボス部屋の扉を開く。


 ギギー


 扉が開く音が響くと中から強い殺気がこちらに向かって漂ってくる。


「行くぞ。1分以内で片付ける」


「1分以内!?」


 俺の言葉にバランは驚いたが魔術の詠唱中だったため必死に制御をして火球をボスの顔に向けて放った。


 グオー


 戦闘態勢になるため大きく立ち上がったグレートベアの目の前にバランの放った火球が迫るが奴はそれを前足で軽く防ぐ。


「やはりあの程度では防がれるか。だが予想通りだ」


 俺はそう呟くとグレートベアに向かってスキルを使った。


「瞬歩……抜刀一線」


 目にとまらぬ速さでベアーの懐に入った俺は腰から抜いた刀で胴体を薙いだ。


 ――ズシン


 次の瞬間、俺の目の前でグレートベアは上半身と下半身に分かれその場に崩れ落ちる。


「な、なんだと!?」


 バランが目の前で起こった事に驚いて固まるがそれにつきあう暇は無い。


「素材の回収はしなくてもいい!」


 俺はそう叫ぶと6階層への階段を駆け下りた。


「いいか。7階層に降りたら真っすぐに彼女が喰われた場所へ案内するんだ」


 そう言いながら走る俺は神経を研ぎ澄まして前方から現れる敵の急所を的確に捕らえながらダンジョンを踏破していく。


「よし、見えたぞ! 7階層の入口だ!」


「どのくらいかかった?」


「さ、30分くらいです」


「よし! まだ可能性はあるな。残りの距離は?」


「降りて分かれ道を右に行ってその次を左に行った所の行き止まりにあった宝箱です」


「わかった。最初が右で次が左だな」


 俺はバランの言葉を聞くと直ぐに飛び出して行く。


「分かれ道を右に……その次を左に行って行き止まりに……あれか!」


 バランに言われたとおりの場所に銀色に輝く宝箱が鎮座している。


 俺はすぐに確認しようと宝箱に手をのばすが俺の危険察知スキルが反応したためその手を止める。


「残念だが間に合わなかったかも知れない。宝箱の中からミミックの気配が漂ってきている」


「そ、そんな!?」


 ミミック化していなければ宝箱を開けて中の人を引きずり出してから箱を破壊すればミミック化は止まる。その後浄化薬でスライムを溶かして回復薬で治す事が出来るのだがミミック化が始まっていればそういうわけにはいかない。


「どうにかならないのか?」


 バランは俺の顔を覗き込んで答えを待つ。


「無くはないが……」


「何か方法があるのか!?」


「だが、この方法は俺の斥候としての秘伝。他人に見せる事は出来ない」


「俺が見なければアリアを助けられるのならば簡単な事だ。7階層の入口で待てばいいか?」


「ああ、すまない」


 俺がそう言うとバランは来た道を引き返した。


 彼の背中が見えなくなるのを確認した俺はふうと一息ついて鞄から銀のピックを取り出す。


「さて、うまくいくか……」


 俺は銀の宝箱に手をかけてピックを鍵穴にグッと差し込む。


 ミミック化した宝箱は鍵穴の部分に痛覚がありそこを突かれるとミミックは驚いて蓋を一気に開ける習性があるのだが、目の前の宝箱も同様に勢いよく跳ね上がるように蓋が開いた。


「今だ!」


 開いた宝箱からは無数の触手が伸びてきて俺を絡め取ろうとする。


「おっと」


 俺はその触手を左手で跳ね除けて宝箱の中身へと右手を潜り込ませると肉の塊の感触と共に核が手に当たる。


「思ったよりもまだミミック化は進行していないようだ。これならば何とかなるかもしれない」


 俺はミミックの核を握りしめて一気に持ち上げて見ると真っ黒に染まった核が現れた。


「コイツを壊せば……」


 俺が手に持っていた銀のピックを突き刺すと核は粉々に砕けて落ちる。


「これで宝箱に縛り付ける呪いは解けた筈だ!」


 俺はそう叫んでもう一度宝箱の中に手を突っ込んで中身を引っ張り出した。


 ――ズルリ。べしゃ


 中からスライムに覆われた物体が現れて床に転がる。


「よし!」


 俺はそう言うと剣を振りかぶって宝箱を叩き壊した。


「あとは、蘇生が間に合うかどうかだが……」


 俺は魔法鞄からスライムの浄化薬と回復薬を取り出すと浄化薬をまず全体にかける。するとアリアを包みこんでいたスライムがドロドロになって流れ落ちていく。


「やはり、まだ完全には取り込まれていなかったか。後はこの回復薬を飲ませれば……」


 俺はそう呟いてアリアを抱き起こして薬を飲ませようとするが意識のない彼女は自ら薬を飲もうとはしない。


「仕方ない。緊急事態だ悪く思うなよ」


 俺は意識のない彼女にそう呟くと自らの口に回復薬を含んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る