第2話【緊急の依頼】
「よう、どうだった?」
ギルドに帰った俺はその足でまず冒険者ギルドへと向かう。
ドサッ――。
気絶をしているカエンをソファに降ろしてからギルドマスターに報告をする。相方のザンスには街の治癒士を呼びに行かせてあるのでこの場には不在だ。
「――ご覧の通りさ。命に別状は無いがまだまだ実力が足りてない。5階層のボスを倒すにはもう二人程度、できれば斥候と魔術師をメンバーにした方が良いだろう」
「相変わらず厳しい評価だな。まあ実力が足りないのに下層に行きたがる奴が多いのも事実だから仕方ない。なんといっても下層になると宝箱の出現率が跳ね上がるからな」
「だからと言って俺にガイドを押し付けるのはやめてもらえないか? 実力の足りない奴ほど仕事に文句をいう奴が多いんだよ」
「まあ、そう言うな。コイツらはお前がランクSの
ギルドマスターのアモンドはそう言って俺に笑いかける。
「まあ、そうなんだがな。日頃は個人的に一人で下層に潜っているからな。だが、時々はギルドの依頼も受けないとペナルティを課すとか職権乱用じゃないのか?」
俺がそう言った時、ギルドのドアが開きザンスが治癒士を連れて来た。
「ああ、すみませんね。またうちの冒険者が無理を言いまして」
ギルドマスターが治癒士に対してそう言うと「いつもの事ですので」と答えてガンスに治癒魔法をかけてくれた。
「――これで大丈夫でしょう。それ程の大怪我では無かったようですので一日休めば動けるようにはなりますが無理は禁物にてお願いします」
治癒士はそう言って軽く頭を下げてから帰って行く。
「ほれ、さっさと隣の宿へ運んでやらないか。それと明日で良いから今日の報告とこれからの話があるから顔をだすようにな」
アモンドにそう言われたザンスは頷くと目を覚ましたガンスを宿へと連れてギルドを出て行った。
――がらがらん。
その直後、乱暴に開かれたギルドのドアから慌てた様子の冒険者がギルドへ飛び込んで来る。
「ギルマス助けてくれ! アリアが喰われたんだ!」
「バラン!
アモンドは飛び込んで来た冒険者に詳細を求める。
「下層の7階層の行き止まりでアリアが宝箱の解錠に失敗した瞬間に喰われたんだ。助けようとしたが直後に魔獣に囲まれて退避するので精一杯だった。すまねぇ!」
バランが言っていたのは呪いの宝箱の事で奴に喰われた者は宝箱の魔物『ミミック』となる。この遺跡の下層(6階層より下)で見つかる宝箱の大半が呪いの宝箱か既に喰われたミミックなのだが稀に激レアな装備品や大量の宝石、貴重な鉱石が見つかるとの事で危険を承知で探す冒険者が急増しているのだ。
「よりによって7階層か。あの馬鹿、無茶しやがって……」
こういった事はよくあることだ。実力不足の冒険者がリスクを承知で一攫千金を狙ってのことだが当然ながらその大半が今回のような事になる。
「それでどうするんだ? 遺品の回収でもするつもりか?」
その冒険者に面識の無い俺は通常の依頼と同じ目線でアモンドの言葉を待つ。
「そうだ……と言いたいが今回はそれよりも難易度が高い救助依頼を要請したい」
「は? そいつは本気で言っているのか? 呪いの宝箱に喰われた人間は3時間以内に助け出さないとミミックになるのは知っているだろ?」
俺の言葉に苦悶の表情を見せたアモンドは冒険者に問いかける。
「バラン。アリアが喰われてからどのくらい経った?」
「――正確には分からないが2時間くらいだと思う」
「そうか……。かなり厳しい状況なのは承知の上だが引き受けてくれないか?」
アモンドの言葉に俺は救助は無理だと判断して断ろうとする。
「第7階層まで降りるとなると普通の進み方だと1時間では難しい場所だぞ。そいつは無理……」
「――無理は承知で頼むが最悪の時は遺品の回収だけでもいい」
「理由があるんだな?」
「……アリアは俺の姪なんだよ」
「なんだって? アンタの姪が冒険者をしているなんて今まで聞いた事なかったぞ」
「当然だ。言ったことが無いのだからな。……身内の事を優先させるのはギルドを預かる者としては失格だがそこを曲げて頼む」
「アモンドは苦悶の表情をしながらそう話す」
「おい。他のメンバーはどうした? まさか二人だけで7階層まで潜っていたわけじゃないだろう?」
俺はこの場に一人しか居ない事に不安を募らせ彼にそう聞く。
「俺たちは5人パーティーで進んでいたんだがアリアが喰われた直後の魔獣の襲撃でバラバラに分断され各自必死に出口を目指したんだ。その後3人は怪我はしていたが何とか帰り着いていた。だが思ったよりも怪我の状態が良くなくて今は治癒士の治療を受けてる」
(ならば救助対象は彼女ひとりだけか。それなら急げば間に合うか?)
そう思った俺は直ぐに行動にうつした。
「バランとか言ったな。あんたはまだ動けるのか?」
「あ、ああ。俺は軽症だから動けはするが後衛職だからあまり戦力にはならないかもしれないぞ」
「それは構わない。彼女が喰われた場所までの案内があれば十分だ」
「案内だけならば喜んで協力をさせてもらうよ」
「ならば直ぐに出るぞ。この薬を飲んでおけ。少なくとも走って俺についてこれる程度にはなるはずだ」
俺は懐から薬の入った瓶を取り出してバランに渡す。
「すまない。戻って来たらこの礼は最大限に返させてもらうつもりだ。アリアを宜しく頼む」
アモンドが深々と頭を下げて俺に依頼をする。
「……身内が心配だろうが出来る限りの事はしてくるさ。よし、行くぞバラン」
「はい!」
こうして俺は案内役のバランを連れてダンジョンの7階層へと向かった。
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