この遺跡ダンジョンはミミックで溢れている〜Sランク斥候はミミックの真の価値を知っている〜

夢幻の翼

第1話【斥候のお仕事】

 ここはナンイード国にあるダンジョンのうちのひとつ、ワナガー遺跡。この遺跡は他の遺跡ダンジョンに比べて宝箱が発見される率が格段に多いというものだったがしかし……。


「くそっ! コイツもミミックかよ!」


 そう文句を言われている俺は遺跡から一番近い街を拠点にフリーの冒険者をしていた。職種は『斥候スカウト』でランクはSだ。今はギルドを通した依頼の途中で後ろで怒鳴っている2人は今回の依頼者だ。


「こんな低階層に本物の宝箱はそうあるものでは無いですよ。まあ10個調べて1つ本物があれば上出来じゃないですか?」


 口の悪い依頼者に当たってしまったなと思いながらも依頼なので程々に相手をしてやっているのだが。


「さっさと本物を見つけないと報酬は払えないぜ?」


 依頼者の片割れのガンスがそんな事を言うのを聞いて俺は貼り付けた笑顔を引きつらせながら軽く殺気を交えてそれに答える。


「今回の依頼内容は二人をダンジョンの5階層のボス部屋まで連れて行くことだったと思いましたが違いましたか? それに途中の宝箱については偶々見つけたから確認をしただけで今回の依頼には必須ではないと思うのですが?」


 報酬はギルドへ預託金として前もって預けてあるので支払いを拒否することは出来ないがあまりの横柄さに少々不機嫌になり圧をかけてしまい、それを受けてふたりは冷や汗をかいて弁解をする。


「じ、冗談だからそう怒らないでくれよな。預託金は前払いで預けてあるんだから未払いが無い事は分かっているだろ?」


「でしたら余計なことは考えずボスを倒すことだけに集中して欲しいものですね」


「お、おう。わかってるよ」


 俺はその返事を聞くとため息をついてからふたりを連れて目的地である5階層のボス部屋の前まて送り届けた。


「この中にボスが居ますので気を引き締めて行かれてください。最悪でも死亡さえしなければ再度挑戦できますから無理と思ったら撤退をしてください」


 俺はふたりの肩をポンポンと叩いてそう告げる。


「なんだよ、手伝ってはくれねぇのかよ!?」


「今回の依頼は5階層のボス部屋前までの案内でしたのでそれは無理な相談です。それに自分が介入して倒したとなるとふたりだけの討伐実績とはならないので今後の探索許可に影響が出ますが良いのですか?」


 俺は最初から依頼された内容はきっちり守るが依頼者の都合で急に変更とされたものは基本的には受け付けていない。ただし依頼者の生命に直結する事案になった時はその都度判断して動くようにはしているが……。


「ちっ。報酬額がぼったくりのくせに融通のきかない奴め」


 俺が討伐に協力をするつもりが無い旨を伝えるとガンスはそう悪態をついてボス部屋へと足を向けた。


(そう思うならば初めからそう依頼を出せば良かっただけなんだがな。もっともふたりで倒さなければふたりの実績にはならないんだが……)


 俺はそう思いながら彼らの後ろについて行った。


 部屋に入ると扉が勝手に閉まり奥から大きな熊が現れる。この階層のボスであるグレートベアである。


「出やがったな。うらっ!」


 グレートベアがまだ臨戦態勢をとっていないのを見てガンスは大剣を大きく振り降ろして前足を斬りつける。


「グオー」


 ガンスの斬撃を受けて斬り落とされはしていないがざっくりと前足を斬られてベアーは怒りをあらわにしてその場に立ち上がる。


 その隙にガンスの片割れであるザンスは槍をグレートベアの右後ろから鋭く突き出し確実にダメージを与えていく。


(ふうん。このふたり、口は悪いが腕はそこそこやれるみたいだ。この調子ならば俺が手を出さなくても何とか倒せるかもしれないな)


 少し離れた場所でガンスたちとボスとの戦闘を見ていた俺は無事に仕事が終わりそうで安心していた。


「はん! 5階層のボスってのはこの程度か! たいしたことねぇな!」


 順調にダメージを与えられている状況にガンスが余裕を見せる。


「そろそろトドメだ!」


 ガンスはそう叫んで馬鹿正直にグレートベアの眼前に飛び込んで剣を振り降ろす。


「もらった!」


 勝ちを確信したガンスだったが、仮にもボスと呼ばれる獣がその程度な筈もなくその巨体を急に屈め前へと突進して来たのだ。


「な、なんだとぉ!?」


 空中に跳び上がっていたガンスはその体当たりを避ける術も無くまともにくらってその身体がさらに高く舞い上がった。


「ガンス!!」


 反対側に居たザンスは反射的にガンスの名を呼ぶが何も出来ることは無く彼が地面に叩きつけられるのをただ見るしか無かった。


「――だから油断するなって言ったのに」


 跳ね飛ばされたガンスが落ちる場所を予測して俺が素早く走ると手負いのグレートベアはそれに反応してこちらへと方向転換をした。


(うへぇ。こっちは戦うつもりはゼロなのに向こうさんは殺る気まんまんだなぁ。とりあえずあんなのでも依頼者だからな死んでしまうと少々困るんだよ)


 俺はガンスが落ちてくるタイミングにあわせて風魔法を展開する。


「風の網」


 ガンスが地面に叩きつけられる直前に下から一瞬だけ強風がふき彼の身体を持ち上げて落下速度が急激に緩んだ。


 ――ふわり


 驚くことに高く跳ね飛ばされたガンスの身体はほとんど落下スピードがゼロの状態で地面に接地した。


(傷は跳ね飛ばされた時の打ち身だな。命に別状はないが暫くは戦闘は無理だろう。今回のボス討伐は失敗だな)


 俺はそう判断するとザンスに向かって叫んだ。


「今回は諦めて撤退しますよ。このまま戦っていてはふたりとも帰れなくなる可能性が高いですからね。コイツは自分が背負って行きますからあなたはボスの動きを牽制しながら入口へと向かってください!」


「なっ!? 本当に討伐を手伝わないのかよ!! 介入するって言っただろう!」


「ええ、ですから撤退のお手伝いをしているではないですか。それともあなたはここで死にたいのですか? 自殺願望があるならば止めはしませんがこちらは連れて帰りますよ」


 俺はザンスの返事を待たずにさっさとガンスを背負って入口へと走る。斥候のスキルで負傷者を抱えても普段通りに走れるものがありとても重宝しているものだ。


「ま、待ってくれ〜」


 後ろから悲鳴に似た情けない声をあげながらザンスも必死について来るのが視界の隅に見えた。


 ――バタン


 ボス部屋へと繋がる扉を抜けるとすぐさまその重い扉を閉める。ボスはその部屋から他には出ることが出来ないらしく撤退するときはとにかく部屋から出て扉を閉めれば直前の危機からは脱することが出来るのだった。


「どうでしたか? 初めてボスと戦った感想は?」


 周りの気配を確認してすぐに戦闘にならないことを確認した俺はひいひい言っているザンスにそう聞く。


「と、途中までは順調だったんだ。ガンスの剣は確実に奴にダメージを与えていたし、俺の槍もそれなりに刺さっていた。どうして急にあんなことになったのか?」


「油断と連携不足ですね。それと経験が圧倒的に足りていませんね」


 俺はそう言うと再びカエンを背負うと遺跡の入口へ向かってゆっくりと歩き出した。


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