テストの結果

 テスト当日。


 朝起きて、携帯を開くと由衣から、メッセージが届いていた。


『テスト頑張ろ!』


 しっかり、寝られたみたいだな。


『頑張ろう』


『緊張してきたよ』


 俺は、ふと昨日京子が、由衣に教えていた問題を思い出した。


『幕末で活躍した新選組の局長は』


『近藤勇だが、五稜郭の戦いで亡くなった鬼の副長と呼ばれた男はだれか? 答えは土方歳三でしょ?』


『正解だ』


 わざと問題を途中で切って送ってみたら、ちゃんとその後の問題まで由衣は答えて、答えも当てて来た。


 今の由衣なら、クイズ番組でも、そこそこの活躍をしそうな気がする。


『木葉ちゃんの時も思ったけど、空太くんって人で遊ぶ時があるよね』


 確か、木葉の時は、戦国時代について聞いてみたんだっけな。


『そうか?』


『そうだよ。そういうとこ、私はあまり感心しないなー』


『直すように努力するよ』


 由衣とのやり取りを終えると携帯を閉じた。


「俺も、そろそろ学校に行く準備をしないとだな」


 俺は、朝食を食べに下へ降りた。




 教室内に入ると、教室の中にいる生徒ほとんどが、席に座って自習をしていた。


「さすがに、テスト当日ってなると、みんな勉強しているよな」


 俺も、自分の席に座ってホームルームが始まるまで、勉強しているか。


 自分の席に座り、テストの日程表を確認する。


「最初のテストは、理科か」


 今回は、元素記号とかないから、暗記が多いからなんとかなるだろう。覚えた単語と、教科書に書かれている単語に間違いがないかを確認しておこう。


「空太くん。おはよー」


 教科書から目を離して前を向くと、由衣が俺に手を振って近づいて来ていた。


「由衣、おはよ」


「今日からテストだね。こんなに勉強してから、テストに挑むのは初めてだから緊張するー」


 由衣は、少し緊張した顔をしながら話していた。


「テスト頑張ろ」


「うん!」


 やれることはやった。後は、本番を頑張るのみだ。




 中間テストの日程は、二日間にわけられていた。中間テストだから、主要教科である英語、数学、理科、社会、国語の五教科と、保健体育などの小テストが数教科あるのみだ。


 いざ、本番が始まると時間の経過はあっという間で、気づけば二日間のテスト期間は終わりを迎えていた。


「終わったー!」


 放課後になると、由衣は、背伸びをしながら達成感に満ち溢れていた。


「お疲れ様。テストの手ごたえは、どうだった?」


「うん! 今まで受けて来たテストの中で、一番手応えあったよ!」


 由衣は、嬉しそうな顔をして言った。


「そうか。それなら、良かった」


 今、由衣が言った言葉を京子が聞けば安心するだろう。


「ねぇ、空太くん」


「由衣、どうした?」


「今日の帰り、京子ちゃん誘って帰ろう!」


「あぁ、俺は構わないぞ」


「やったー! 早速、京子ちゃんに連絡送るね」


 由衣は、嬉しそうな顔をしながら、携帯をいじり始めた。




 俺と由衣は、学校の校門前で京子が来るのを待っていた。


「京子ちゃん、まだかなー」


「俺達が、ここに来たのはついさっきだ。待ってれば来るさ」


 由衣は待ちきれないほど、京子と会うのが楽しみなんだろう。


「空太、由衣。お待たせ」


 京子の声が聞こえたので、振り返る。


「京子ちゃん!」


 由衣は、京子を見つけると、京子の元に駆け寄って行った。


「由衣。テストどうだった?」


「えっとね。手応えばっちりだよ!」


「そう。それは、良かった」


 笑顔で答える由衣に京子は、満足そうな顔をした。


「話は、歩きながらしよう!」


「えぇ、そうね」


 俺は、由衣と京子と共に帰り道を歩く。


「京子ちゃん。いきなり、誘ってごめんね」


「謝ることはないわ。大丈夫よ」


「そういえば、京子はいつもどうやって帰っているんだ?」


「私は、いつも和田が迎えに来てくれるから、車に乗って帰っていたわよ」


「今日は、迎え呼ばないのか?」


「由衣が、向かっている駅に迎えを呼んでいるわ」


「京子ちゃん羨ましい」


「由衣も、私の車に乗って帰る?」


「え? いいよ! 私が乗る電車、京子ちゃんと逆の方面だし」


 京子の突然の誘いに、由衣は慌てて遠慮した。


「大丈夫よ。気にしないで」


 京子の返事に、由衣はとまどっていた。


「う、うん。よろしく、お願いします」


 だけど、さすがにこれ以上断り続けるのも悪いと思ったのか、由衣は京子の誘いに応じた。


「そういえば、空太はテストどうだったの?」


「俺は、まぁまぁだったな、普通の点数になると思う」


 俺の中で、一番危なかったのは英語だった。だけど、由衣のテスト対策で、京子が教えていたのを聞きながら、勉強したから大丈夫だとは思う。


「京子ちゃんは、テストどうだった?」


「私は、まぁまぁかしら」


 京子の言う、まぁまぁは俺等が思っている、まぁまぁなのだろうか?


 テストが終わって、いつも通りの日常がやってきた。


 この三人で、会うのも日常の一つになっていると感じた。




 今週末になると、再び俺と由衣は、京子の家にお邪魔していた。


「由衣、空太。返されたテストの用紙は、持ってきているかしら?」


「うん! 持って来たよ」


「あぁ、あるぞ」


 俺達三人が集まったのは、テストの点数をお互い見せあうためだ。


「まずは、国語からいきましょうか。由衣に重点的に教えていた。英語、理科、社会は楽しみとして後半に見せてもらうわ」


「わかったよ!」


 京子は、由衣の返事を聞いてカバンからテスト用紙を取り出す。


 俺と由衣もテスト用紙を取り出した。


「まずは、国語からね」


 俺達は、国語のテスト用紙を裏面にして、点数が見えないようにした。


「いっせーので、見せるんだよ?」


 由衣は、俺と京子の顔を交互に見る。


「わかっているわ」


「あぁ。もちろんだ」


 まさか、ここまで来て見せないという意地悪なことはしない。


「じゃ、行くよ……いっせーので!」


 お互い、テスト用紙を表面にした。


「京子ちゃん、九十五点!」


 由衣は、京子の点数を見て、驚く。


「京子。やっぱり、頭良いな」


「国語は得意教科の一つよ」


 京子は。当たり前という感じで言う。


 俺の点数は七十点。由衣の点数は五十九点だった。


「空太くんの点数も高い」


「そうか?」


 図書委員になって、本に触れる機会が多くなったからか?


「次は数学ね」


 お互いテストの点数を見せ合うが、三人とも国語と同じぐらいの点数だった。


「京子。九十点って、数学も得意なのか?」


「今回は、運が良かったわ。前日に復讐した所が問題に出たわ」


「なるほど」


「次からが、肝心よ」


 京子は、そう言うと由衣の方を見る。


「わ、わかったわ」


「まずは、社会からいきましょう」


 俺達は、社会のテスト用紙を裏にする。


「いっせーので!」


 俺達は、テスト用紙を表にした。


「京子八十点。俺、八十五点」


「空太より点数が低い。悔しいわね」


「そして、由衣が……」


 俺は、由衣のテスト用紙を見る。


「七十点」


 俺と京子は、目を合わせる。


「もしかして、私の点数低かった?」


「いいや、そんなことない」


「その逆よ」


 京子は、由衣に笑顔を見せる。


「すごいな由衣」


「ほ、ほんと!?」


「あぁ、本当だ」


 由衣は、不安そうな顔から笑顔になる。


「やったー!」


 由衣は、手をあげた。


「由衣。すごいわ」


 京子は嬉しそうに言う。


「へへへ」


 由衣は、褒められて、顔がふにゃふにゃになっている。


「この調子で理科も行くか」


 俺達は、理科と英語の点数も確認した。


「由衣すごいな。どれも、六十点から七十点代じゃないか」


「へへへ。そうかな」


 苦手な教科で、七十点を取れるのは、すごいことだと思う。


 英語に関しては、俺は六十点だが、由衣は六十五点だ。


「京子ちゃんどう!?」


 由衣は、英語の点数が書かれたテスト用紙を京子に見せる。


「うーん。もう少し、改良が必要だったわね」


 京子は、顎に手を置いて、悔しそうな顔をする。


「か、改良……」


 由衣は、顔を青ざめながら、京子が言った言葉の単語を繰り返して言った。


「私の得意科目を教えたのに、六十点代を取らせたのは申し訳ないわ」


「え、大丈夫だよ! 私は、六十点代でも嬉しいから!」


 由衣は、六十点代でも大丈夫だと主張した。


「まぁ、今日はみんな点数が良かったから、いいんじゃないか?」


「そうね。過ぎたことを引きずり過ぎるのも良くないわ」


 最初は、悔しそうな表情をしていた京子だが、普通の表情に戻った。


「空太くん。ナイス」


 由衣は、小声で俺に話しかけグッドポーズをした。


「皆さま、テストお疲れ様です。勝手ながら、私からお祝いを持って来ました」


 京子の家でお手伝いをしている和田が、お茶とお菓子を持って部屋にやってきた。


「えぇ、いいの!?」


 由衣は、目を輝かせながら和田に聞く。


「はい。テストを頑張った、ご褒美です」


 和田は、そう言うと俺達の前にお茶と、お菓子の袋を出した。


「クッキーにチョコ、ラスクまで。いろいろ入っているわね」


「はい。いろんな味を楽しまれると良いと思い。何種類かお菓子を買って、一袋にまとめたのです」


「和田さん! すごい!」


 由衣は、お菓子の袋の中身を見て、選別し始めた。


「ありがたくいただきます」


「はい、空太くん」


 由衣は、そう言うと俺にお菓子の入った袋を渡してくる。


 俺は、お菓子を三個、袋から取り出した。


「京子、渡すぞ」


「えぇ、ありがとう」


 京子は、お菓子の袋を受け取る。


「みんな。お菓子貰ったね!」


 由衣は、元気よく俺と京子に聞いてくる。


「あぁ、貰ったぞ」


「私も、お菓子を取ったから大丈夫よ」


 俺と京子は、お菓子を取ったと頷いた。


「空太くん、京子ちゃん。テストお疲れ様でしたー!」


「お疲れ様」


 俺達は、テスト終わりの打ち上げをした。


 笑顔で見守る和田も、誘って四人で、打ち上げを楽しんだ。




「満足したー!」


 俺と由衣は、京子の車で西川駅まで送ってもらった。


 電車が来るまで、まだ時間があった。俺と由衣は、待合室で待つことにした。


「由衣。頑張ったな」


「えへへ。ありがとう」


 由衣は、照れくさそうに笑った。


「英語の点数に関しては、俺より上の点数だったしな」


「私の力だけじゃないよ。空太くんと京子ちゃんのおかげだよ」


「俺と京子は、教えただけだ。努力をして点数をとったのは由衣だ」


「ありがとう」


 由衣は、そう言うと俺の肩に抱き着いて来た。


「由衣、ここは、待合室だぞ?」


「誰も来てないから大丈夫よ。しばらく、こうしていたい」


「わかった」


 俺は、気にしないことにした。


「空太くん」


「どうした?」


「大好き」


「俺も好きだよ」


 由衣が、俺の肩に抱き着いたまま、時間が過ごしていく。


『下りの電車が入ってきます。黄色い線の外側に立ってください』


 駅の案内が聞こえた。


「空太くん!」


 由衣は、抱き着いていた腕を離し、立ち上がり、俺のことを見る。


「これからも、よろしくね!」


 頬を少し赤く染めながら、笑う笑顔は輝いて見えた。


 ラブレターの送り間違いで始まった恋愛関係だが、俺は送り間違えて良かったと思えた。


 こんなに、魅力的な人のことが好きになれたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る