京子の家へ

「満喫したな」


 集合場所である西川駅に辿り着いた俺と由衣は、駅に設置されていたベンチに座って、京子が来るのを待っていた。


「エネルギーも充電したし、勉強頑張ろー!」


 由衣は、やる気がいっぱいだ。


「それにしても、京子が集合場所をここにしたんだよな?」


「うん。そうだよ」


 京子は、どこからやってくるんだ?


 辺りを見渡してみるが、京子らしき姿は見えなかった。


「私、聞いてみる!」


 由衣が携帯を使い始めると、俺の携帯に通知が届いた。


『由衣:京子ちゃん今どこー?』


 由衣は、グループでメッセージを送ったみたいだ。


「これで、よし!」


 由衣は、俺に向けてピースをした。


 再び携帯の通知音が鳴った。


『京子:もうすぐ着くわ』


 しばらくすると、目の前に黒い車が止まった。白いナンバープレートに、手入れされている車のボディ。確か、前に京子と待ち合わせした時に乗って来た車だ。


 助手席側の窓が下がると、京子が顔を出した。


「お待たせ」


「京子ちゃん!」


 由衣は、嬉しそうな顔で京子に手を振る。


「京子、車で来たのか」


「そうよ。後ろに乗って、私の家まで案内するわ」


「お邪魔します」


 由衣と俺は、後部座席の方にあるドアを開けて、車の中に入る。


 なんだ、この座席。すごく、ふかふかだ。車の座席って、こんなに座り心地良かったんだっけ?


「京子お嬢様の友達ですね。怪我があると、京子お嬢様に顔向けができません。シートベルトの着用をしっかりと、お願いします」


「わかった」


 俺達は、急いでシートベルトの着用を始める。


 確か、このおじいさんも前に、京子を乗せてやってきた。お手伝いさんだ。確か名前は、和田って言っていた気がする。


「和田。私達は、準備できているわ。車を出しても大丈夫よ」


「わかりました」


 和田って男は、頷いて車を発進させた。




 西川駅から出て十分ぐらい経ったろうか。


「ここが私の家よ」


 車の窓から外を覗くと、時代劇などで見るような白く塗装された外壁と、和風造りだと思われる屋敷の屋根が見えた。


「え、ここが京子ちゃんの家?」


 由衣は、驚いた様子で車の窓から屋敷を見ている。


「えぇ、そうよ」


「京子、やっぱり金持ちじゃないか」


 見ただけでも、大きい家だってわかるぞ。


 外壁の長さを見て土地だけで言ったら、俺が住んでいる家、四軒分は入りそうだ。


「京子ちゃんの家族って有名なの?」


 由衣は、身を乗り出して、前の席に座っている京子に聞く。


「お嬢様、言ってないのですか?」


 由衣の反応を見てか、和田は京子に何かの確認を取った。


「なにを?」


「ご両親のことです」


「えぇ……言ってないわ」


「京子の親に何かあるのか?」


 俺は、会話の内容が気になってしまい、京子に聞く。


「私から説明しても、よろしいですか?」


「……構わないわ」


 和田が、京子から確認を取ると、咳払いをする。


「私から、説明致します。京子さんの苗字は、相良って知っていますか?」


「うん! 知っているよ!」


 由衣が、俺より先に返事をした。


「京子さんのお父様の名前は、相良常人様です。携帯でも調べれば、わかると思いますが、相良家のルーツをたどれば、かつて肥後国の南部を支配していた相良氏という戦国大名に当ります。お嬢様は、相良家の宗家当主である常人様のご息女。第二次大戦前までは、華族という分かりやすく言えば、貴族の家柄。正真正銘のお嬢様なのです」


 俺は、話を聞き終わると携帯で、相良と調べる。


「本当だ。肥後国、かつて熊本県の南部にあった地名。そこを収めた大名の名前に、相良って苗字がある」


 俺は、ふと横を見ると、由衣が膠着していた。


「肥後? 大名? 宗家? 華族?」


 由衣は恐らく、自分が聞きなれない単語を呟いているのだろう。


「わかりやすく言えば、京子は有名人の娘なんだ」


「京子ちゃん! そうなの!? すごいね!」


「え? えぇ。ありがとう」


 京子は、驚いた表情をする。


「ほほほ。お嬢様よかったですね。良いご友人を持たれました」


 俺は、和田の発言を聞いて、一つ疑問に思った。


 由衣は、知り合って日が浅いから仕方ないとして、俺は一回もそんな話を聞いたことがなかった。


 なんで、京子は自分の家族について話さなかったんだ?


「京子、言いたくなかった理由があるのか?」


「そ、それは……」


「ほほほ。京子お嬢様は、嫌われたくなかったのですよ」


「こら、和田」


 和田が話し始めたのを京子が止めようとした。


「嫌われたくなかった?」


「もし、自分のクラスに有名人の息子、娘さんがいたら、どう思いますか?」


「それは、あの有名人の子供なんだって思う」


「京子お嬢様は、そう思われたくなかったのですよ。周りから見られる目が変わるので」


 そういうことか。だから、京子は俺にも家族のことを話さなかったのか。


「京子」


「な、なに?」


 和田に心の内を話されたのか、京子の顔は赤かった。言葉使いも、どこかたどたどしい。


「そんなんで、俺が嫌いになると思ったか?」


「空太……」


「由衣もそうだと思うけど、友達の生まれた家のことで、嫌いになる訳ないよな?」


「うん! そうだよ! 後で、大きい屋敷案内してね!」


「わ、わかったわ。あまり珍しい物はないけど、いいかしら?」


「うん! 大丈夫だよ!」


 由衣も最初付き合い始めた頃、俺は何も言ってないのに、嫌らわれたとか勘違いしていた。周りの目って気になるものなのか。


「大変、お待たせ致しました。屋敷の駐車場に到着しました」


 外を見ると、車が十台ぐらいは停められそうな、広い駐車場に車が止められていた。


「ありがとうございます!」


「いえいえ。本当は、屋敷の前で降ろせば良かったのですが、皆さん楽しそうな会話をしていたので、駐車場まで車を運ばせて頂きました。私の勝手な判断をお許しください」


「気にしなくていいよ! 和田さん! ありがとう!」


 俺と由衣は、車を降りる。


 屋敷に目を奪われていて気づかなかったが、屋敷の反対側は田んぼの風景が広がっていた。


 西川駅周辺は、住宅街とマンションが立ち並んでいたから、京子の家は住宅街から外れたとこにあるのか。


「空太、由衣。こっちよ」


 京子の方を向くと、お手伝いさんである和田と共に、屋敷へ向かって行くところだった。


「京子ちゃん待ってー!」


 由衣は、慌てて京子の後をついていく。


 俺も、その後をついて行った。

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