パン屋へ

「空太くん、昼ご飯どうするか決めていた?」


「あ、全く決めてなかった」


 すっかり忘れていた。


「ジェラート食べるのに、お金使ったから、安く済ませても良い?」


 由衣は、少し遠慮している様子で聞いて来た。


「俺も、その方が助かる」


 俺は、月初めに渡されるお小遣いで過ごしている。なので、使い過ぎると月の後半がきつくなるのだ。安く済ませてくれるなら助かる。


「じゃあ、安いパン屋さん知っているから、そこに行こう!」


 由衣の提案に俺は、頷いた。


 ジェラートを食べ終わった俺と由衣は、カップやプラスチックのスプーンを、ゴミ箱に入れた。


「ごちそうさまでした!」


 由衣は、元気よく店員さんに言った。


「ごちそうさまでした」


 俺も由衣に続けて言った。


「またのお越しを、お待ちしております!」


 店員さんは、笑顔でお辞儀をした。


 俺は、出入り口の扉を開けて、店を出た。


「あぁー美味しかった!」


 由衣は、背筋を伸ばして満足そうに行った。


「俺も、美味しかった。案内してくれて、ありがとうな」


「うん!」


 店を出て真っ直ぐ進むと、分かれ道に出た。


「えーと、パン屋さんに行くんだよな。どっち行けばあるんだ?」


「あ、ちょっと待ってね」


 由衣は、そう言うと携帯を取り出して、調べ始めた。


「えーとね。あっち!」


 由衣が指さす方向に従って歩く。


「いつも思うけど、由衣の情報収集能力すごいな」


「そんな、褒められる物じゃないよー」


 由衣は、照れ隠しなのか、パーカーの袖で顔を隠しながら言った。


「誇っていいと思うよ」


 しばらく、歩いてパン屋に向かって行く。


「ねぇ、空太」


 一通り話して、お互い無言になったとこで、由衣は口を開いた。


「どうした?」


「そ、その良かったら、なんだけど」


 さっきまで、元気よく話していた由衣が言いづらそうにしている。


 なにか言いたいことがあるのか?


「何か言いづらいことあるのか?」


「えっとね……繋ぎたいなって」


 由衣は、頬を赤らめながら言った。


「繋ぎたい?」


 何のことを言っているんだ?


「えっとね、手を繋ぎたいなって……」


 俺は、自分の手を見た。


 そうだ。俺は、まだ由衣と手を繋いでいなかった。


「嫌だったら、いいんだよ!」


 由衣は、俺の無言が怖かったのか、いつもの口調で俺に話す。


「嫌じゃない。由衣、手を繋ごう」


 俺は、由衣に自分の右手を差し出した。


「うん」


 由衣は、頷くと手を差し出す。


 指を絡めて、手の平を重ねた。


「歩くか」


「う……ん」


 由衣の顔は赤い。お互い無言になり、自然音と、時おり聞こえる生活音だけが聞こえた。


 手を繋いでいる手は、由衣の体温が伝わる。


 由衣の手って、こんなに温かいんだな。


「道は、ここで合っているのか?」


「うん、合っているよ」


 パン屋に着くまで、俺と由衣は無言で手を繋いで歩いていた。




 しばらく、歩いていると住宅街にある建物の中で、大きめな建物を見つけることができた。


「由衣、あそこがパン屋か?」


「うん。あそこだよ」


 まだ顔は赤いが、由衣の口調はいつも通りだ。


 緑の屋根がトレードマークのパン屋だ。屋根に付けられた長方形の看板には、『ブレッド』と書かれている。


 パン屋は、住宅二軒分の大きさをしており、車を五台分ほど、停めることができる駐車場も備えられていた。


 街のパン屋さんって感じの店だ。


「あ、あの。空太くん」


 由衣は、俺の方を見て話しかける。


「どうした?」


「そ、その。このまま店に入るの恥ずかしいなって……」


 由衣は、恥ずかしそうな表情で、俺と繋いでいる手を見る。


「あ、悪い」


 俺は、由衣の手を離した。


「謝らないで、私が手を繋ぎたいって言い始めたんだから」


 由衣は慌てているのか、必死に俺のことをフォローしようとしていた。


「大丈夫だよ。パン屋の中に入るか」


「うん」


 俺は、パン屋の扉に手をかけて中に入った。


「いらっしゃいませー!」


 店の中に入ると、パンの匂いが店の中を包み込んでいた。


「パンの良い匂いー!」


 由衣は、大きく深呼吸をしてパンの匂いを堪能している。


 辺りを見渡してみると、ざっと見るだけでも数十種類のパンが陳列されていた。


「どれを食べようか迷うな」


「そうだよね! どれ食べようかなー」


 出入り口にあった、トレーとトングを手に取って、由衣とパン選びを始める。


「あ、メロンパンがあるよ!」


 由衣が、メロンパンを指さした。


「由衣、メロンパン好きなのか?」


「うん! おばあちゃんがメロンパン大好きで、いつも親の里帰りで、おばあちゃん家に行くと、メロンパンを貰っていたんだ」


 俺は、メロンパンをトングで掴み、トレーに乗せる。


「空太くんは、なにパンが好きなの?」


「俺は、カスタードクリームパンとか、甘い系のパンかな」


「そしたら、これオススメだよ!」


 由衣が、そう言うと一つのパンを指さした。


「チョココロネか」


 パンの真ん中を空洞にし、その中にチョコレートを流し込んだパンだ。


 よく見てみると、当店一押しと書かれている。


「これにしよう」


 俺は、チョココロネをトングで掴み、トレーに乗せた。


「後、もう一個ぐらい選ぶか?」


「うん! そうしよう!」


 その後、由衣は『チョコクロワッサン』を、俺は、『ソーセージパン』をトレーに乗せて会計をしにレジへ向かった。


「合計四点で、四百四十円になります」


「安いな」


 あまりの安さに驚く、五百円以上かかっているかと思った。


「でしょ? ここのパン屋さん、安くて美味しいで有名なんだ。この前、有名な動画配信者も来て紹介していた程なんだよ」


 そんなに有名なパン屋さんだったのか。


 会計を済ませた俺達は店の外に出た。


「どこで、食べようか?」


「うーん。ちょっと待ってね」


 由衣は携帯を取り出して、調べ始めた。


「近くに大きな公園があるよ! そこなら、座れる場所もあるかも」


 由衣は、俺の手を引っ張って、進行方向を指さした。


「待ち合わせまで、まだ一時間もあるから、そんなに慌てなくてもいいぞ」


「早く食べたいじゃん。早く行こう!」


 俺は、由衣に引っ張られる形で、公園があるという方向に向かって行った。




「ここか、公園?」


 パン屋を出て、五分ぐらい経った頃、大きな公園を見つけた。


「ここみたい。大きいねー」


 真ん中に大きな池がある。


 遠くを見ても、公園の終わりが見えなかった。本当に大きな公園だな。


「あ、あそこに座れそうな場所がある!」


 由衣が差している方向を見ると、屋根の下にベンチがあった。


「ここなら、パンを食べられそうだな」


「早く行こう!」


 由衣と一緒に、ベンチがある場所に向かい座った。


「池の景色も見られて最高だね!」


 由衣は、携帯で池の写真を撮っている。


「はい、これ由衣のパン」


 俺は、由衣にメロンパンとチョコクロワッサンをあげた。


「ありがとう!」


 俺は、自分のパンを取り出す。


「あ」


 由衣は、何か思い出したかのように言った。


「どうした?」


「飲み物を買うのを忘れちゃった」


 そういえば、飲み物を持っていない。


「食べ終わって、集合場所に向かいながら、コンビニとかで買おう」


「うん! そうする!」


 由衣は、そう返事すると、メロンパンを取り出した。


 俺は、ソーセージパンを最初に食べるか。


「いただきます!」


「いただきます」


 俺と由衣は、パンを食べ始めた。


「メロンパン美味しいね!」


「あぁ、美味しいな」


 さすが、パン屋さんのパンだ。とても美味い。昼近くだったこともあったのか、パンが温かった。作りたてを取っていたんだな。


「はい、空太あーん」


 由衣はメロンパンをちぎると、俺にパンを食べさせた。


「メロンパン美味いな」


 久々にメロンパンを食べたが、とても美味しかった。


「俺のもあげるよ」


 自分のソーセージパンをあげようとしたが、ソーセージがあることに気づいた。


 これだと、ちぎりづらいな。


「ソーセージパン貸して」


 由衣に、ソーセージパンを渡すと、由衣は一口食べた。


「うん! 美味しい!」


 由衣は、満足そうに笑みを浮かべる。


 お互いに一つ目のパンを食べ終わると、もう一つのパンを食べ始める。また、パンを分け合って食べた。


「美味しかったー」


 由衣は、満足そうにする。


「パン屋さんのパン、美味しくていいな」


 普段パン屋に行かなかった。スーパーでも買えるから、変わんないと思っていたが、実際に食べてみると美味しかった。また、行きたいな。


「空太くん。ここから、集合場所まで、どれくらいかかるかな?」


 俺は、携帯の地図アプリを開いて確かめる。


「二十分は、かからないと思うぞ」


「そっか。少し、公園内を散歩してから、飲み物を途中で買って集合場所に向かおう!」


「そうだな。そうするか」


 俺と由衣は、公園内を少し散歩してから、京子と約束している集合場所に向かった。

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