早めのデート
同じ地域なのに、降りる場所によって景色は変わる。
北川駅は、多くのビルが立ち並ぶ都会って感じの駅だった。
しかし、隣の駅にある西川駅は、表口に降りるとマンションが立ち並んでおり、反対の出口である裏口に降りると住宅街になっていた。
「初めて降りてみたが、表口と裏口で景色が全然違う駅は初めてだな」
時間を確認すると、九時五十分になっている。
由衣も一緒の電車に乗っていただろうか。最後にやり取りをしたメッセージを見てみるか。
『電車に乗ったよー!』
メッセージが来たのは、九時三十分。
着いたことを教えておこう。
『西川駅に着いたぞ』
『私も着いたよ!』
由衣のメッセージを見て、辺りを見渡してみる。
「由衣は、どこにいる?」
「空太くんー!」
由衣の声が聞こえた。
振り向いてみると、改札口の近くに由衣が立っていた。
由衣の服装はベージュのパーカーに黒のズボンを履いている。
「よ」
俺は、由衣に手を振り返す。
「初めての駅で、上手く合流できるかわからなかったけど、無事に合流で着て良かった!」
「俺も合流できて良かったよ。どこに行く?」
「住宅街の方向に、美味しいジェラート屋さんがあるんだよね。そこに行こう!」
由衣は、俺の腕に抱き着いて、住宅街の方向を指さした。
「わかった。住宅街の方だな」
俺は、由衣の指さす方向に向けて歩き始めた。
西川駅から、降りた先にある住宅街は静かな雰囲気をしている住宅街だった。
「こんな住宅街のなかに、ジェラート屋さんがあるのか」
「そうみたいだよ。空き家を改装して、ジェラート屋さんにしたんだって」
「なるほどな」
歩いてみると、ちらほらと家を改装して、お店にしたと思われる店が何件か見かけた。
「あ、あそこがジェラート屋さんだよ!」
由衣が指さす方向には、青い屋根に白い外壁の建物がある。
建物の前にある看板には、『美味しいジェラート屋さん! 子供からお年寄りまで、幅広い年代の方に人気なお店です!』と書かれていた。
「入ってみるか」
ジェラート屋さんの中に入ってみると、木の床に木の天井と改装されて、お店っぽくはなっているが、どこか住宅感がある面影が残っているように感じた。
間取りとかが、家みたいに感じさせているのか?
店の中は、暖房を付けているのか外よりは暖かい気温になっている。
「いらっしゃいませー」
茶色いエプロンを着た若い女性が挨拶してきた。
「ねぇ、ね! 十種類ぐらい味があるよ!」
由衣が、ジェラートの入っている冷ケースを指さして興奮している。
「どんなのが、あるんだ?」
冷ケースの中を見てみると、『バニラ』、『チョコチップクッキー』など定番のジェラートもあれば、『サツマイモ』や『モンブラン』など、季節限定の味も見かけられた。
こんなに種類があると迷うな。
「由衣は、何味にするんだ?」
「私は、モンブランと抹茶のダブルにしようかな。空太くんは、何にするの?」
「そうだな。俺は、バニラとストロベリーにする」
俺は、安定に定番の味にする。
「注文いいですか?」
俺は、店員に向かって話しかける。
「はい!」
「モンブランと抹茶のダブル一つと、バニラとストロベリーのダブル一つください」
「かしこまりました! 容器は、カップにしますか? コーンにしますか?」
「由衣。どっちにする?」
「ゆっくり食べたいから、カップで!」
「カップ二つで、お願いします」
「かしこまりました!」
店員は、冷ケースの扉を開けて、カップの中にジェラートを盛り付け始める。
「ジェラート屋さんって、自分が見られる視界でジェラートを盛りつけてくれるから、それを見るのが面白いよね!」
由衣は、ウキウキした様子でジェラートを眺める。
「言われてみれば、面白いかもな」
よく見てみれば、なんであんなに綺麗な球体のジェラートになるんだろうな。
小学生の時に、おばあちゃん家で箱アイスを使って、綺麗に球体を作ろうとしたけど、上手くできなかった記憶がある。
「お待たせ致しました!」
店員はジェラートにスプーンを刺して、俺達に手渡しした。
よく見てみると、ジェラートの隣に一口サイズの小さなサツマイモが刺さっている。
ジェラートにも季節があるんだな。冬になると、サツマイモから、チョコレートに変わるのか?
「ありがとうございます!」
由衣は、元気よく挨拶すると俺の腕を引っ張る。
「あそこに座ろ!」
由衣が指さす方向には、二人分の椅子と机があった。他にも、四人分など様々な人数に対応できる机と椅子が置かれている。
由衣と一緒に、椅子に座る。
「すごい! 美味しそう!」
由衣は、とても喜んでいるみたいだ。
「ジェラートの横に、サツマイモ刺さっているのは、知っているか?」
「え? サツマイモ?」
由衣は、ジェラートの周囲を見る。
「あ! 本当だ! これは、写真撮らないと!」
由衣は、ウキウキな気分で写真を撮り始める。
「良い写真は、撮れたか?」
「うん! 写真は撮れたし、一緒に食べよう!」
「いただきます」
「いただきまーす!」
ジェラートを食べ始める。アイスとは違う濃厚さがあるな。変に甘く味付けされていない。素材そのものが持っている味を生かしている感じだ。
ストロベリーに関しては、イチゴ自体を食べている感じだ。これぐらい大げさに言っても良いぐらい、生のイチゴを食べている味がした。
「美味しい!」
由衣は、美味しそうにジェラートを頬張る。
「確かに美味いな」
今思うと、ジェラートを食べること自体初めてかもしれない。
「ねぇ! 空太のやつも一口食べて良い?」
「あぁ、いいぞ」
俺は、由衣の前にジェラートを差し出す。
「私のも食べて良いよ!」
由衣も、俺の前に自分が食べていたジェラートを差し出した。
「一口いただく」
「私も、一口いただきます!」
由衣と俺は、お互いのジェラートを味見する。
モンブランは、栗の味がガツンと伝わってきた。こんなに濃厚なモンブランを食べたのは、初めてかもしれない。
続けて、抹茶の方も食べてみる。
「抹茶、苦いかと思ったけど、良い感じに苦みが少なくていいな」
あまりの美味しさに、つい口で感想を言ってしまった。
「でしょ!」
由衣は、俺の感想を聞いて笑顔になった。
「空太くんのも、美味しいよ!」
「それは、良かった」
お互い食べている味を共有する。意識したことは今までなかったが、由衣と付き合うことで初めて感じることができた、幸せかもしれない。
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