勉強場所

 次の日になり、放課後に入ると、あることに気づいた。


「勉強を教える場所どうしようか」


 全く、そこを考えていなかった。


「空太くん。どうする?」


 由衣は、不安そうな顔で俺に聞く。


 教室でもいいが、テスト期間が近づくと教室内に人が残り始める。


 俺も過去、教室に残って自習をしようと思ったが、結局みんな喋るのに夢中になっていたので、話し声が気になり集中はできなかった。


「図書室しかないか」


 思いつくとこは、そこしかなかった。


 図書室は、テスト期間中になると、自習をしに来る在校生も来るが、そんな騒がしくない人の方が多い気がする。それに、今はポスター作りをしている際中だから、今週と来週いっぱいは、図書室で勉強を教えても多少の話し声は気にならないだろう。


「由衣。図書室でも大丈夫か?」


「うん! 大丈夫だよ!」


 由衣は、笑顔で答える。


 俺と由衣は、荷物を持って図書室に向かった。




 図書室に入ると、京子が木葉とポスター作りをしていた。


「空太と由衣は、昨日でポスター作り終わらなかった?」


 俺達に気づいた京子が話しかける。


「今日は、ここで自習をしに来たんだ」


「なるほどね。私達の隣に来る?」


「うん! 行く!」


 京子の誘いに、由衣は即答で返事をした。


 京子達の隣に荷物を置く。


「わ、私。トイレ行って来るね」


「わかったわ。行ってらっしゃい」


 俺達とすれ違いで、木葉はトイレに向かった。


 京子は、飲み物を取り出して一口飲む。


「京子は、ポスター作り順調か?」


「えぇ、もちろんよ。明日で終わるわ」


 順調そうだな。


「ねぇ、ねぇ。京子ちゃん! 今週末って予定ある?」


 由衣は、隣に座る京子の肩を叩いた。


「今週末?」


「お勉強会しよう!」


「ちょっと、予定確認してもいい?」


「うん!」


 京子は、携帯を取り出して、自分のスケジュールを見始めた。


「日曜なら、空いているわよ」


「私も大丈夫!」


 勉強会か、高校受験の時、地元の友達と一緒に勉強していたな。


 懐かしい気持ちになる。


「ねぇ、空太くんも来るでしょ?」


「俺?」


 突然の誘いに驚いた。


「空太も来ていいわよ」


 京子も、俺が来ても大丈夫そうだ。


「大丈夫なら、行くよ」


「うん!」


 由衣は、喜んだ声で言った。


 その後、木葉が戻って来て、京子と木葉はポスター作りを再開した。


「由衣。社会と理科の教科書は持ってきているか?」


「もちろん!」


 由衣は、俺に教科書を見せる。


「まず、社会から教えるぞ」


 俺は、日が暮れるまで由衣に勉強を教えた。




「眠いな」


 後は、寝るだけなんだが、凄く眠い。


 自分のベッドに倒れ込む。


「久々に、頭を使った気がする」


 人に勉強を教えると、自分自身の習得率も上がると聞くが、教えるだけで自分も頭をこんなに使うとは思わなかった。


「ん? 通知?」


 もう少しで寝ると思ったら、携帯の通知音が聞こえた。


 おもむろに携帯を取り出す。


『由衣:勉強会どこにする!?』


 由衣が、グループにメッセージを送っていた。


 そうか、勉強会をやるとしても、場所がないのか。


『空太:どこでも大丈夫だぞ』


『由衣:うーん。どこか良いとこあるかなー?』


 由衣も悩んでいるみたいだ。


『京子:よければだけど、私に一つ提案があるわ』


『空太:提案?』


 京子は、いいところを見つけたのだろうか。


『京子:私の家に来て勉強しない?』


 俺は、メッセージの内容を二度見してしまった。


 京子の家に行くのか?


『由衣:え、京子ちゃん家に来てもいいの!?』


『京子:えぇ、いいわよ』


 喉が乾く感覚に襲われた。


 部屋に置いてあった、コップの中に入っている水を飲む。


『由衣:空太くん! 京子ちゃん家で勉強会しよ!』


『空太:わかった。京子、日曜日お世話になる』


『京子:そんな、改まらなくてもいいわよ』


 改まるに決まっている、女子の家に行くこと自体、初めてなんだ。


『京子:私の家は、また後日に教えるわ』


『由衣:うん! よろしくね!』


『空太:よろしく』


 俺は携帯を閉じた。


 なぜ、付き合ってから、前好きな人と関わる機会が増えてしまうんだ。神様は、俺のことを遊んでいるのだろうか。


 でも、俺は由衣と付き合っていくって決めたんだ。この気持ちは変わらない。




 日曜日がやってきた。


 今日は、京子の家で勉強会をする予定だ。


「今日行くのか」


 ベッドから起き上がった俺は、ボーっとしていた。


 彼女と前好きだった女の子の家に行く。なんだか、不思議な気分だった。


『おはよー!』


 携帯を開いてみると、十分前に由衣からメッセージが届いていた。


『おはよう』


 由衣から来たメッセージを返す。


『私と空太くんは、西川駅で合流するんだよね?』


 西川駅。北川駅の隣にある駅だ。俺と由衣にとっては、前に北川駅に行く時、通り道で通った駅。


 確か、あそこは住宅街とマンションが多く立ち並んでいた印象だ。


 西川駅が京子の最寄りになる駅か。


『そうだな。西川駅で合流だ』


 京子の家に行くのは、午後からだ。ちょっと早めに昼食を食べて向かえば、間に合う。


『ねぇ、空太くん』


『どうした?』


『午前中、私と一緒に出かけない?』


 時間を見てみる、今は午前八時だ。


『あぁ。構わないが、どこで合流する?』


『西川駅にしよ! その方が、電車の時間を気にしないで済むし』


『わかった西川駅だな。時間は、何時ごろにする? 俺は、何時でも構わないぞ』


『準備もあるから、今から二時間後にしよう!』


 二時間後に、西川駅で由衣と合流か。


『わかった。二時間後に西川駅で会おう』


『うん! 急に誘ってごめんね』


『謝ることないさ』


 俺は、携帯を閉じて、準備を始めた。

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