意外な接点

 放課後になり、ポスター作りをするため、由衣と図書室に向かった。


「お、京子と木葉もいるな」


 京子と木葉は、ポスター作りの作業を共同で行っている。


「京子ちゃん、こんばんは!」


「由衣。こんばんは」


 京子は、俺と由衣を見て微笑んだ。


「ポスター作り、順調そうだな」


「えぇ、今週中には終わりそうよ」


「が、頑張って、期限内には間に合わせます」


 木葉は、おどおどしながら答える。


 とても京子と論戦を繰り広げた女性には見えない。


 戦国時代の話を振れば態度は変わるのだろうか?


「戦国時代で、好きな出来事は?」


「好きな出来事と言われれば、あげきれないですね。信長の腹黒さが出る『三瀬の変』も面白いです。上杉謙信と武田信玄が激闘を繰り広げた、かの有名な川中島は、実は五回に渡って戦っていたのは知っていましたか? 他にも——」


 木葉は、永遠と語れるようなトークで話し続けている。


「すごいな」


 これが、オタクトークってやつか。


「空太くん。木葉ちゃんで遊ばないの」


 由衣が、俺の肩に片手を乗せて注意をする。


「悪い。つい気になった」


「ふふ、楽しそうね」


 京子は、俺達のやり取りを見て笑った。


「京子。一つ頼み事が、あるんだけどいいか?」


 自分で脱線しかけたけど、本題に戻ろう。


「頼みごと?」


「京子ちゃん。私に英語を教えてくれない?」


 俺は、京子に事情を話した。


 由衣のテストが、赤点ぎりぎりだと言うこと。英語が教えられる人が、京子しかいないことを説明する。


「なるほどね。事情はわかったわ」


「京子ちゃん。お願いできる?」


「この前、助けられたからね。今度は、私が助ける番かしら」


「京子ちゃん! ありがとう!」


 由衣は、京子に抱き着いた。


「まずは、ポスター作りを優先してからでいいかしら?」


「もちろんだよ!」


「木葉。由衣のテストを良い点にするためにも、ポスター作り仕上げるわよ」


「は、はい!」


 話がまとまった俺達は、ポスター作りのために作業を再開した。




「ねぇ、できた?」


 由衣が、俺の顔を見て聞く。


 俺は、一度ポスターに目を通す。


 下書きされた文字の上からは、マッキーで黒く塗られ、強調したい文字には赤などの色が付けられている。文字を囲んでいる枠も色付けされた。下書きで書かれた文字は、全て塗られている状態だ。


「完成だ」


 制作期間は、約二週間。ポスターがついに完成された。


「やったー!」


 由衣は、それを聞いて手を上げて喜んだ。


「空太、由衣、お疲れ様」


 京子は、静かな拍手をして、祝ってくれた。


「皆さん。調子はどうですかー!?」


 終わったとこに、ちょうど良く、もえ先生が図書室に入って来た。


「あ、もえ先生だー!」


 由衣が、もえ先生に向かって手を振った。


「由衣、もえ先生を知っているのか?」


 全然接点が、思い当たらなかった。


「うん! 一年生の時に、社会の授業を担任していたんだよ」


 確か、もえ先生は社会の授業を、何クラスか受け持っているって、前に聞いたことがあったな。その時に由衣は、もえ先生と知り合ったのか。


「由衣さん。お久しぶりですねー」


 もえ先生は、笑顔で由衣に話しかける。


「もえ先生、私のこと覚えてくれて嬉しいです!」


 由衣は嬉しそうに、もえ先生と握手をする。


「もちろんですよ。赤点補習の時、毎回いたのでバッチリ覚えました」


 もえ先生は、右手でグッドポーズを取った。


 由衣の笑顔は、苦笑いになる。


「もえ先生。そんな覚え方ひどいですよ!」


「なら、しっかり勉強して、テストの点数あげてください!」


 もえ先生が笑顔で言う言葉は、俺が由衣の立場からしたら、鋭い言葉だった。


 由衣は、俺の方を見る。


「空太くん!」


 由衣の目は、何かしらの決意をした目つきをしていた。


「なんだ?」


「私に社会、いっぱい教えてね!」


 由衣は、やる気に満ち溢れているようだ。


「もえ先生。私、今回のテストでいい点数をとって、私のことを補習によく来ている人から、勉強を頑張っている人に覚えてもらいます!」


「お、いいですね! 期待していますよ!」


 どうやら、もえ先生が言った言葉は、由衣にとって。やる気スイッチを押すボタンになったようだ。


「あ、もえ先生。俺から、一つ報告があります」


 俺は、手をあげて、もえ先生に話しかける。


「はい! なんでしょう、空太さん!」


「ポスター完成しました」


 俺は出来上がったポスターを、もえ先生の前で広げて見せる。


「お、いいじゃないですか! ライトノベルみたいですね」


「はい。由衣と漫画を進めるか、ライトノベルを進めるか話し合った結果。図書室に来る生徒は、小説を読む人が多いので、ライトノベルを勧めることにしました」


 俺の説明を聞き、由衣は頷く。


「ちゃんと、分析して勧めた本ってことですねー。さすがです!」


 もえ先生は、笑顔でポスターを受け取った。


 これで、俺の仕事は終わりだ。


「あ、皆さん! 締め切り近いですけど、遅くまで居残りはいけないですよ!」


 もえ先生は、時計を指さしながら言った。


 図書室で作業している、図書委員達は、声を揃えて返事した。


「由衣、今日の所は一回帰るか」


「うん! そうしよ!」


 俺達は、帰り支度をする。


「京子。自分の勉強もあるのに、頼み事聞いてくれてありがとな」


「構わないわ。私自身の復習もかねて、教えるつもりだから大丈夫よ」


 京子は、優しい顔で返事をしてくれた。

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