サイドストーリー2 休日の前夜

寝れない由衣

「明日は、空太くんと京子ちゃんと一緒に、お出かけー」


 私は寝るだけにして、うきうきしながら部屋の中に入った。


「楽しみだなー」


 ベッドの上で、ごろごろしながら携帯のメッセージを見る。


『由衣:明日楽しみだね!』


『京子:待ち合わせ場所は、ここでいいのよね?』


『由衣:うん! 間違いないよ!』


『空太:喫茶店か……』


『京子:あら? 空太は、喫茶店に行くのが怖いの?』


『空太:そんなんじゃない。自分が行き慣れていない場所だから、緊張しているだけだ』


『由衣:それ、京子ちゃんが言っていることと、ほぼ同じ』


『空太:なに……』


 みんなと話すのが楽しい。


 もちろん。夕菜達とも話すのも楽しいけど、空太君と京子ちゃんといる、このグループは違った楽しさがある。


「それに、休みの日に空太君と会えるのが嬉しい」


 いつも学校で会っているから、違うとこで会えるのが楽しみ。


「あ、服装どうしよう」


 三人で遊べることに浮かれていて、服のことを全く考えていなかった。


「変な服装だと思われて空太君と京子ちゃんに幻滅されたら、どうしよう!?」


 不安感が突然湧き上がって来た。


 それだけは、絶対に嫌だ。


 慌てて、ベッドから飛び上がり、タンスの中にしまっている服を取り出す。


「今は肌寒いから、少し厚めな服がいいかな」


 黒のトレーナーを着てみる。


「さすがに、熱すぎるかも」


 まだ、トレーナーを着るには早かった。


「じゃあ、これは?」


 白の長袖ティーシャツを着てみる。


「ちょっと、地味すぎるかな」


 あんまり、空太君と京子ちゃんの印象に残らないかも。


「パーカーとか、いいんじゃない!?」


 ベージュのパーカーを着てみる。


「うん、可愛いかも」


 私、これ結構お気に入りの服なんだよね。


「次は、下に着る物ね」


 ベージュのパーカーに合うズボンは、同じ色のベージュ?


「なんか、一色になっちゃった」


 別にこれでも可愛いけど、上下別の色にしたい気分。


 その後も、着てみては納得しないで、違うやつを選ぶのを繰り返した。


「うーん。決まんないー」


 ベッドの上に倒れ込むと、白いニットが自分の顔に当たった。


「ニットの生地ふかふかしている」


 このニット、誕生日の時ママにわがまま言って買ってもらったんだよね。


 顔を横に向けたら、ベージュのズボンが目に入った。


「白とベージュ」


 頭の中に、一筋の光が差したような感覚が走る。


「これだよ! この組み合わせ!」


 薄い生地の白色のニットに、ベージュのゆったりしたズボンを組み合わせた瞬間、自分の中にある一筋の光は、青空を照らす並みの大きな光になった。


「うん、この服の組み合わせ可愛いかも」


 明日着る服装が決まった。嬉しくて、つい小さくガッツポーズをする。


 そういえば今何時だろ。


「え、もうこんな時間!?」


 時計を見てみると、後三十分で日付が変わる時間になっていた。


「部屋も散らかっている」


 何度も服とズボンやスカートを着替えていたせいで、部屋は空き巣にでもあったかのような荒れぐらいだった。


「まずは、服を片付けないと」


 慌てて、服などを畳んで片付けた。


「え、もう日付変わっている!?」


 やっと、服を片付けたかと思ったら、時間は三十分以上経っていた。


「早く寝ないと」


 部屋の電気を消して、ベッドで横になる。


 早く寝ないと、早く寝ないと。


 いつもの私なら、電気を消して、数分で寝られている……。


「ね、寝られない」


 涙が出るかと思った。


 いつもなら寝られるのに。


「楽しみ過ぎて、寝られないよ」


 私は、明日大事な日があると、いつも寝られなかった。


 思い出せば、小学生で初めて行く遠足の時も、楽しみ過ぎて寝られなかった。


「あの時は、行きと帰りの時にバスの中で寝ちゃったんだっけ」


 私、昔から変わってないじゃん。


「って、何昔を懐かしんでいるの私!」


 昔のことを思い出すんじゃなくて、今は寝ることを考えないとじゃん!


「大丈夫。目を瞑れば寝られるから」


 目を瞑れば大丈夫なんだから。




「あれ? もう朝?」


 ちゃんと宣言通りに寝られたけど、なんだか体が重い気がする。


「時間、確認しよう」


 携帯を開いて、時間を確認してみる。


「え! 一時!?」


 ベッドの中に入ってから、一時間しか経ってないじゃん。


 最初、寝ようとして寝られなかったことを考えると、多分睡眠時間は三十分しか経ってない気がする。


「これじゃ、昼寝と変わんないよ」


 こんな睡眠時間だと、確実に明日眠くなるの、わかっている。


 もう一度、目を瞑って寝ないと。


「寝るのよ、私」


 しばらくすると、意識が遠のいた。


 だけど、その後も一時間後に目が覚めて、寝ては数時間後に目が覚めるを繰り返した。

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