解決策
「はぁー! 楽しかった!」
いろんな店を見て回った俺達は、休憩でコンビニの飲み物を買って、ビル内にある椅子に座っていた。
明らかに俺、座る場所間違えたな。由衣と京子の間に座っている。由衣と京子を隣同士にして、俺は端でも良かった。
京子の方を見ると、表情に疲れが見える。
京子は休みの日、あまり外に出歩かないらしい。部屋に籠って読書をするのが日課で、店を回って歩くことはしないみたいだ。
「由衣、体力凄いわね」
結構歩いたもんな。俺も歩き、疲れた。
俺は、ペットボトルのコーヒーを開けて、一口飲む。
「でも、楽しかったでしょ?」
由衣は、無邪気そうな笑顔で京子のことを見る。
「そうね、とても楽しかったわ。普段、経験できないことばかりだったかもしれない」
京子の言葉を聞いて、俺は手が止まった。このまま楽しかったで、終わらせていいのだろうか。京子が、抱えている問題は解決していない。
「京子」
「なに?」
京子が、俺の方を見る。
「気を悪くしたら、申し訳ない。クラスで何があったんだ?」
京子は、その言葉を聞いて黙り込んでしまう。
由衣の方を見ると、由衣自身も気になっていたのか何も言わずに見守っていた。
「そうね。今日一緒に遊んだのも、心配になったからって言うのもあるでしょ」
「京子ちゃん……」
由衣は、悲しそうな声で京子の名前を言う。
由衣も明るく振舞っていた反面、京子に何があったのか気になっていたのだろう。
「無理に言わなくてもいい。心の整理がついてからでも構わない」
俺は、一応念のためとして言っておく。
つい前にあった出来事かもしれない。傷口をえぐるようなことは、したくない。
「大丈夫だわ」
京子が、そう言うと、辺りの空気が静まり返ったのを感じた。
「二年生になって、すぐの頃よ。私、クラスの男性に告白されたの」
京子は、他クラスである由衣も話題に出すくらい、美しい容姿をしている。
何日か前も告白されたって言っていたけど、そんな深刻な事態になるほどか?
「俺にはないことだが、京子にとっては、よくあることの一つじゃないのか?」
「いつもなら、断って終わっていたけど、今回はそれで終わらなかった」
「終わらなかった?」
なんだか、雲行きが怪しい話になってきた。
「その男性が、振られた腹いせに、私の評判を落とそうと嘘のことを言いふらしたのよ」
「なにそれ、最低な男」
普段由衣から聞かない。ワードが飛んできて、心臓がキュッと引き締まる。
由衣、怖いって、振り向いて顔を見る勇気がない。
恐らく、今まで見たことないぐらい怖い顔をしていると思う。
「京子は、その後どうしたんだ?」
「もちろん、やられっぱなしに、はなるつもりはなかったわ」
京子の眼差しが鋭くなった。
「京子ちゃん何したの?」
「昼休み、クラスのみんながいる前で、その男を論破してやったわ」
「論破……」
開いた口が塞がらなかった。
恐らく、京子は、その男性に余程怒っていたのだろう。
「その論破は、どんな風にして終わったんだ?」
「最初は、相手の男性も言い返してきたけど、全部倍にして言い返したわ」
その場に俺がいなくて良かったと思う。
昼休みに、男性を論破する女性の現場を見たら、俺は気まずすぎて教室に入れなかった気がする。
「その後は、どうなったの?」
由衣の方を見ると、少し顔が青ざめていた。京子が怒っているとこを想像して、ぞっとしたのだろう。
「クラスのみんなから、避けられるようになったわ。ただでさえ、嘘の情報で距離をとられていたから、なおさらね。私のことを恐怖の対象として見ることになったの」
京子は、少し落ち込んだ様子で言った。
「京子ちゃんは、そんな怖い人じゃないよ!」
由衣は、京子の元に行き手を重ねる。
「ありがとう。だけど、一度落ちた評判は戻すのは難しいわ」
京子の言っていることもわかる。一度失った、評判を戻すのは難しい。
だけど、このまま京子がクラスで孤立するのも見ていられるはずがない。
「無理に自分を曲げて、クラスのみんなに、信頼されようとまではしなくて良いと思う」
「どういうこと?」
由衣は、俺の方を見て首を傾げる。
おそらく由衣は、京子がクラスのみんなと、仲良くできる方法を考えていたのだろう。
クラスのみんなと仲良くできる由衣ならではの発想だ。
「クラスで一人だけでもいいから、京子のことを怖くないって、思える人を作ればいいんだ」
俺と京子みたいな誰にでも、愛想を振りまくことができない人間には、由衣みたいな方法は難しい。
みんなと仲良くするよりは、わかってくれる人と仲良くするのが一番の解決策だ。
「そういう人を見つけるのは、難しいと思うわ」
京子は、俺の方を見て言った。
「いるじゃないか」
「誰?」
「今ポスター作りをしているペアの人」
「木葉ちゃんだ!」
由衣は、俺が言っていることがわかったみたいだ。
「木葉さんは、私が怖くて逃げたのよ?」
「俺の予想だが、木葉さんは断り切れないタイプの人間だ。京子が、もう一度頼んで放課後、図書室で作業してくれるようにお願いしてみな。間違いなく来る」
京子は、俺の話を聞いて、しばらく沈黙する。
「わかったわ。もう一度、頼んでみることにする」
「頼むのは休み明けの月曜!? その日、私達も隣にいていい!?」
由衣は、前のめりになって聞く。
「え、えぇ。月曜にするつもりだけど」
「空太くん。月曜日、絶対に放課後図書室行こうね!」
「もちろん。俺もそう言おうとしたとこだ」
京子と木葉さんを二人だけにしたら、この前みたいになりかねない。
それなら、俺達もその中に入って、木葉さんも俺達の輪に入れてしまえばいい。そうすれば、途中で逃げ出すような行動は、少なくともとらないはずだ。
「だが、自然に振舞えよ。俺達は普段通りに会話をするんだ。そして、その会話に木葉さんも混ぜる。こうすることで、木葉さんの中にある京子に対する偏見を無くしていく」
木葉さんが、京子に対する印象が良くなれば、少なくても京子はクラスで一人になることはなくなる。
言うのは、簡単だが上手く行くかはわからない。
人同士の付き合いだ。計画通りに行くとは、思わない方が良いだろう。
「みんな、ありがと」
京子は、透き通った声でお礼を言った。
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