待ち合わせ

 土曜日を迎えた。朝起きて携帯を見ると、新着メッセージの通知が来ている。


『おはよー!』


 由衣からのメッセージだ。メッセージが来たのは午前五時?


 時計を確認してみると、午前八時にまったばっかりだ。


「由衣、どんだけ早起きなんだ」


『おはよう。午前五時って、早起きすぎないか?』


 ベッドから起き上がり、机の上に置いてあった水を飲んだ。


 水を飲んでいる途中で、携帯の通知が音が鳴る。


『えへへ。楽しみ過ぎて、数時間起きに目が覚めちゃった』


 遠足前の小学生か。


『遊んでいる時に。寝るなよ』


『はーい!』


『準備してくるから、返信あとになる』


『私も準備して来る!』


 携帯を閉じて、出かける準備をする。


 京子は、現地で集合するらしい。昨日、由衣からのメッセージで聞かされた。


 昨日の帰り際、由衣と京子は連絡先を交換していたから、由衣が聞いたんだろう。


「京子との、やり取りは由衣に任せておこう」


 俺は、由衣と付き合っている。俺が、由衣以外の女性と、メッセージのやり取りをすることは、由衣にとってあまり好ましくないかもしれない。


 考え過ぎている気もするが、この場合は楽観的に考えるより、慎重に考えた方がいい。


 準備が一通り終わったころに、携帯の通知が鳴った。


『グループ作ったから、参加して!』


 由衣からのメッセージだ。


「グループまで作ったのか」


 携帯を開いて、招待されたグループを確認する。


『グループ名:仲良し!』


 もっと、ましなグループ名あったろ。


「まぁ、由衣らしいか」


 最近、こういうのを見ても、『まぁ由衣だから仕方ない』で、納得するようになってきた。


 人間の適応力ってすごい。


 グループに参加すると、早速通知が来る。


『由衣:私と空太くんは、途中で合流して一緒に現地に向かうね!』


『京子:時間は、十一時で良かったかしら?』


 この返信は、京子からだ。


 俺より、早くこのグループに参加していたのか。


『由衣:うん! 久々に都会の方行くから楽しみ!』


『京子:由衣は、遊びに出かけるタイプに見えていたから久々なのは意外だわ。最後に都会へ出かけたのはいつかしら?』


『由衣:えーと、二週間前!』


『京子:それって、久々なのかしら?』


 やり取りが、微笑ましい。


『由衣:あ、学生証必要だから、持ってきてね!』


『空太:学生証? 何に使うんだ?』


『由衣:それは着いてからの、お楽しみ!』


『京子:わかったわ。学生証ね』


 まぁ、持って来いって言うなら持って行くか。


 俺は、通学に浸かっているカバンから学生証を取り出して、財布に入れた。


「そういえば、今何時だ?」


 時間を見ると、十時近くになっていた。そろそろ、家から出ないといけない時間だ。


『空太:そろそろ家出ます』


『由衣:はーい!』


『京子:もう、そんな時間。私、少しやることがあるから、後で連絡するわ』


『由衣:りょうかい!』


 俺は、携帯を閉じて、財布を持って家から出た。




 北新駅きたしんえき。俺が住んでいる市の中で、一番都会だと言われている場所にある駅だ。


 数えきれないほどのビルが立ち並んでおり、ビルから離れると飲み屋街が広がる所だ。


「さすが、休日なだけあって人が多いな」


 三百六十度、見渡しても人混みだらけだった。


 遊ぶ約束が無ければ、こんな人混みの多いとこには行きたくない。


「由衣は、そろそろ来るはずだが、どこから来る?」


 こんな人が多いとこで、待ち合わせできるか?


 待ち合わせ成功できなくて、遅刻する未来が見えてきた。


「空太くんー!」


 今、由衣の声が聞こえたか?


 声の方向を向くと、白いニットを着てベージュのゆったりとしたズボンを着た由衣の姿があった。


 可愛い。由衣とその服装は、とても似合っていた。


「あ、あぁ。おはよう」


 ふと、我に返って手を振る。


「なんか、ボーっとしていたけど、どうしたの?」


 近づいて来た由衣が、俺の顔をのぞき込む。


「いや、なんでもない」


「えー、絶対嘘だよ! なに、考えていたか教えて」


「そ、その」


「その?」


「服装が似合っていて可愛いと思った。それだけだ」


 由衣は、みるみる顔が赤くなっていき、顔を下に向けた。


「ありがと」


 ぼそっと由衣は、そう呟いた。


「ね、ねぇ。早く行こう」


 俺に顔を見られたくないのか、由衣は反対の方を向き、京子の集合場所へ行こうとする。


 俺も、その後ろについて行く。


 待ち合わせ場所は、駅から少し離れた所にあるカフェだ。


「空太、あそこだよ!」


 由衣が指さした方向には、ガラス張りで中が見えるカフェがあった。


 店の中を見る感じ、俺達と同じ高校生が多い気がする。


「俺等と同い年ぐらいの人が、たくさん座っている」


「ここは、高校生に人気な喫茶店なんだ! 食べ物も、安いのに、写真映えするし美味しいんだよ!」


 由衣は、振り向いて俺に教えてくれる。


 由衣の顔は、まだ少し赤いが、笑顔だった。


「よく、こういう場所を見つけられるな」


「へへへ、場所選びは私に任せてよ! いっぱい、こういうのは調べているから!」


 由衣は、照れくさそうにしながら言った。


「京子が来るのは、後五分後ぐらいか」


 携帯の時刻を確認すると、十一時になる五分前だった。


「ちょっと待つね」


「そうだな」


 俺と由衣は、建物に背を向けて道路を眺める。


 しばらく、通りすぎる車を眺める。


「なぁ、由衣」


「なに?」


「どうして、会って数日しか経ってない人のことを、助けようと思えたんだ?」


 俺と京子は、知り合って、もう六カ月以上の付き合い。しかし、由衣と京子は今週に知り合ったばかりだ。


 俺には、会って数日の人を貴重な休日を使ってまで、助けられるかと言うとできない気がした。


「そうだねー」


 由衣は、空を眺めて言う。


 その姿は、太陽の光もあって輝いて見えた。


「私が仲良くしたい人ってのもあるけど、私の大好きな人の友達だから助けたい」


 由衣は、俺の方を向いて笑顔で言った。


 その笑顔を見て、体が熱くなったのを感じた。


「あれ、空太。顔が赤いよ?」


 慌てて、由衣と逆の方向を向く。


「なんでもない」


「本当―?」


 由衣は、やり返しだと言わんばかりに、俺に近づいてくる。


「調子に乗るな」


「だって、散々私を恥ずかしい気持ちにさせといて、こういう時ぐらい、いじりたいー」


 由衣が、いたずらな笑みを浮かべて更に近づく。


「おい、顔近い」


「へへへ、空太くん可愛い」


 由衣は、笑顔でさらに近づく。


 由衣から少し離れようとしていたら、俺達の前に黒い車が止まった。白いナンバープレートに、いかにも高そうな外装。


 確か、この車。テレビとかでよく見る高級車だ。


「あなた達って仲いいわね」


 黒い車から、降りて来たのは京子だった。


 黒いニットに、足のシルエットがわかるほどの白いズボンを履いている。


 高校生にしては、服装が大人っぽい。


 だけど、京子の立ち姿などを見ると、普段の大人っぽさから、服装の違和感がなかった。


「送ってくれてありがと。出ていいわよ」


「わかりました。お嬢様。お友達と楽しんでらっしゃいませ」


 京子は、車を運転している人に声をかけた。


 運転している人、京子のことを『お嬢様』って言ったか?


「京子ちゃん!」


 由衣は、車が走り去るのを見てから、笑顔で京子に手を振る。


「よ」


 まぁ、今はそんなこと気にしなくていいか。


「遅れてごめんね。道混んでいて遅れたわ」


「ううん! 気にしないで! てか、今待ち合わせ時間になったとこだし!」


 携帯を確認すると、時間は十一時になったとこだった。別に遅刻ではない。


「ありがと」


 京子は、俺の方を見る。


「こんにちは」


「おう」


 俺は、返事をした。


「ねぇ、中に入ろ! もう外寒い!」


 京子の腕に由衣は抱き着いた。


「そうね」


 京子は自分の腕に抱き着いている由衣を連れたまま喫茶店の中に入る。


 俺も、その後に続いて入って行った。

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