ポスター作り

「へやいうてれたらうれしぇい」


「なんだって?」


 今、全部言葉がふにゃふにゃになっていて、聞き取れなかったぞ。


「『そういってくれたら嬉しい』って言ったの!」


 由衣は、俺の肩を軽く殴った。


「そうか、それなら良かった」


 由衣の顔は、未だに赤い。今の行動は照れ隠しから出た、行動だろうな。


 今のやり取りで、由衣は緊張が解けたのか、口数も多くなり由衣と笑いながら帰ることができた。




 次の日の放課後。掃除が終わった俺は、荷物をまとめて由衣に話しかける。


「由衣、図書室に行ってポスター作りをしよう」


「うん!」


 由衣は、笑顔で返事をして、共に図書室に向かった。


 図書室に入ると、同じ図書委員の人達が、自分のペアであろう人と一緒にポスター作りを始めていた。


「みんな、真剣だね」


 由衣の持っているカバンに力が入っているのに気づいた。


「そう、力まなくていいぞ」


「うん。ありがとう」


 由衣は、クラスから選ばれた人の中では、ライトな層だと思う。


 読書ガチ勢になると、推しの作家や、好きな文体、果ては著者の出版した本を年齢順から読み始める者もいる。


 俺は、いろんなジャンルを浅く楽しみたい派だから、バイキング方式で本を読んでいる。


「席は、あそこが空いているな」


 窓側の席で空いている場所を見つけた。


 俺と由衣は、その席まで行って荷物を置く。


「ポスターを取ってくる」


「わかった」


 俺は、受付台の上に広げられているポスターの用紙を手に取り、由衣が座っている席に持って行く。


「ポスター、割と大きいね」


 広げてみると、なかなかの大きさだった。


「ランドセルと同じ大きさらしいぞ」


 てことは、小学生の背中ぐらいの大きさか、書くのが大変そうだ。


「まずは、紹介する本を決めないとだね」


「そうだな。由衣は、今までで、読んで面白かった本はあるか?」


「うーん。前に読んだ『彼女が死んだとき、雨が降っていた』も面白かったけど、一番となると難しいー」


 おそらく、何作かの候補は出ているけど、絞れないように見える。


「なら、面白いと思える作品を何作か上げていこう」


「うん! それなら、いっぱい案出せるかも!」


 それから、俺達は互いに面白いと思える本を何作か候補を出し合った。


「空太くんの読んでいる本、難しい本が多そう」


「そうか? 題名は、固いけど中身は読みやすい本を選んだつもりなんだけどな」


「そうなの?」


「あぁ。外はカリッと、中はジューシーだ」


「なんだろう。食べ物の例えを本に持っていくと、全然読みたい気がしない」


 由衣の反応はいまいちだった。


 上手い例えをしたつもりなんだけどな。


「由衣が、候補にあげた作品は、漫画が原作の作品が多いな」


「うん。私、小説は全然読まないからね。小説を読むと気づけば、いつも寝ているよ」


 そっか、様々な娯楽が溢れる今の世の中だと、活字を好む人も限られるか。


「なぁ、由衣」


「なに?」


「この前映画化された、『探偵は、空を舞う』って知っているか?」


「あ、知っているよ。最後に飛行機からパラシュート使って、脱出するとこ、はらはらして手に力が入っちゃった」


「前にアニメでやっていた、『ホップ、ステップ、ジャンプ』は?」


「あれ、すごく面白いって、クラスでも話題だったよ!」


「実は、その二作品とも原作が小説なんだ」


「え、そうなの? 初めて知った。漫画も出ていたよね? てっきり、漫画が原作かと思っていた」


「コミカライズもされたからな」


「コミカライズ?」


「簡単に言えば、小説の物語を漫画家の人に書いてもらったものだ」


「そうなんだね。漫画家に書いてもらうってこともあるんだ」


「あぁ。この二作品とも、実はライトノベルってジャンルの小説なんだ」


「ライトノベル?」


「主に、十代や二十代を対象にした小説だな。読みやすい小説が多い」


「へー、小説にもいろいろあるね」


 一気にいろいろ言ったせいか、由衣の頭から湯気が出ているように見える。頑張って理解しようとしているのだろう。


「これから、ライトノベルが原作の作品を何作品かあげるから、由衣が知っている作品を教えてくれ」


「うん! わかった」


 俺は、有名どころの作品を上げて行った。


「由衣が知っていたのは、三作品か」


 六作品ぐらい言って、由衣は三作品知っていた。さすが、ライトノベルだな。知名度が高い作品が多い。


「どれも、漫画が原作だと思っていた作品ばっかりだよ」


 由衣は、驚いた表情をしていた。


 その後、お互いに、どの作品の方が図書室に人を呼び込めるかの話し合いをした。しかし、どの作品も良いとこが多く、絞り込めなかった。


 ふと、時計を見ると、あることに気づいた。


「今日は、ここまでにして、後日に由衣が候補にあげた作品と、さっき俺が言った作品の絞り込みをしよう」


「え、ここまでにしちゃうの?」


 俺は、図書室にかけられている時計を指さす。


「もう、五時半になっている」


 由衣は、時計を見て驚く。


「俺も、今気づいたとこだ」


 放課後に入ったのが、午後四時ぐらい。もう、一時間半も話していたことになる。


「俺だけなら、もう少し残って良いけど、由衣をあまり遅くまでいさせたくない」


「ありがと」


 由衣は、照れくさそうにしながら言った。


「今日は、ここまでにして帰るか」


「うん!」


「えーと、ポスターは」


 白紙のポスターを片付けようと、片付けられる場所を探す。


「空太―、ここじゃない?」


 由衣に呼ばれて行ってみると、学年とクラスごとに、ポスターを入れるスペースの薄くて細長い棚を見つけた。


「もえ先生、こんなものどこから、見つけて来たんだ?」


 もえ先生が、これをやるとなった時にやる行動力の凄さには、頭が上がらない。


 俺は、二年一組と書かれた所にポスター用紙を入れた。


「あれ? 二年二組のとこに何も入ってない」


 二年一組の下には、二年二組のポスターを入れるとこがあった。しかし、中には何も入ってない。


 明日から、作業するつもりなのか?


「空太―? どうしたの?」


 由衣が、俺に話しかける。


「あぁ、悪い。ちょっと考えごとしていた」


「ん?」


 由衣は首を傾げる。


「気にすることないよ、帰ろう」


「うん!」


 俺は、由衣と共に学校から帰った。

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