第二章〜出会う二人〜

二日目の朝

 目が覚めると天井が見えた。


「朝か……」


 昨日やらかしてしまった、ラブレターの送り間違いを思い出す。


「夢じゃないよな」


 できれば、夢であってほしい。


 携帯を開いて、由衣としたメッセージのやりとりを見る。


『今週末さ、映画見に行こうよ』


 ラブレターの送り間違いは夢じゃなかった。


 俺は、本当にラブレターを送り間違えたんだ。


「学校に行く、準備をしよう」


 時刻は、午前七時。あと、一時間もしたら家を出なきゃいけない。


 ベッドから降りて、下の階に向かった。




 教室に着くと、由衣が席に座っていた。


「おはよ」


「おは」


 由衣は、途中で俺だと気づいたらしい。途中まで話すと顔を赤くさせ、違うとこを向いた。


 俺は、席に座りカバンを降ろす。


「由衣」


 話しかけようと、由衣がいる方向を見たら、机の下で携帯をいじっていた。


 自分のポケットに入っている携帯のバイブ音が鳴る。


『おはよう』


 携帯を取り出してメッセージを見ると、由衣から『おはよう』とメッセージが届いていた。


 隣の席なのに、わざわざメッセージを送って来たのか。


『おはよう。隣にいるんだから、直接話せば?』


『ごめん。恥ずかしくて話せない』


 由衣は、相当緊張しているみたいだ。


『普段通りに話そう』


『普段通りでいいの?』


『無理に自分を変えてまで、話さなくていいよ』


 どんな話し方をしようとしたのか、わからないけど、この感じだとメッセージのやり取りだけで、一日が終わりそうだ。


「空太。おはよう」


 由衣の声がしたので横を向くと、顔を赤くさせながら由衣が、俺に挨拶をしてきていた。


「おはよう」


「そ、その」


 由衣は、なにか言いたいのか、そわそわしている。


「どうした?」


「昨日、教室を出て行っちゃってごめんね。私、動揺しちゃって」


 俺は、昨日のことを思い出して、恥ずかしくなった。


「いや、気にしないでくれ。突然で悪かった」


「昨日の約束、覚えている?」


「映画だろ?」


「突然誘っちゃったけど。大丈夫?」


「問題ないよ。見に行こう」


「うん!」


 由衣は、笑顔で答えた。


 この時の由衣が見せた笑顔は、写真にでも撮りたいぐらい、輝いた笑顔だった。


 しばらくすると、朝のホームルームが始まり、いつもの日常が始まる。


 ホームルーム中に由衣からメッセージが届いた。


『学校にいる間は、いつも通りに接していい?』


『いいよ。俺も、その方が過ごしやすい』


 これは、俺も言おうとしていたとこだ。


 お互いの学校生活は、普段通りを崩さずに過ごせて行ければ、それが良い。


 メッセージを送ってからは、由衣はいつも学校で見せている振る舞いをするようになった。


「由衣―、ご飯食べよー」


 昼休みに入ると。由衣は友達である夕菜に呼ばれる。


「うん! 今行くねー!」


 由衣は、弁当と水筒を持つと夕菜の元に駆け寄った。


「なんとかなりそうだな」


 由衣と付き合ったら、周りの環境が変わるんじゃないかと心配になったが、気にしすぎだったようだ。


 根本の問題は、解決していないが、今は様子を見ることにしよう。


「よし、俺も弁当を食べるか」


 俺は、カバンから弁当を取り出した。


「空太は、いるかー!」


 突然自分の名前を呼ばれた。


 声の方向を向くと、担任の先生が立っている。


「はい、なんですか?」


「図書委員の顧問である、もえ先生からの伝言だ。『図書委員は、昼休み図書室に集まってください』だそうだ。弁当食べながら、話すらしいぞ」


 もえ先生から?


 一体なんの集まりだ?


「わかりました」


 俺は、弁当と水筒を持って、図書室に向かった。




「空太さん。おそいですよー?」


 図書室に入ると、もえ先生は頬を膨らませて怒った仕草を見せる。


 怒っているように見えない。


 もえ先生は、小学生と同じような低身長で、幼い顔つきをしている。そのせいもあってか、怒っている仕草を見せても、子供が怒ったようにしか見えないのだ。


「集めるなら事前に言ってくださいよ」


「あ、それも、そうでした」


 もえ先生は、ころっと軽い口調に戻る。


 あれだな。怒っていたのではなく、先生なのですよって言うアピールをしたかったんだろうな。


 もえ先生の年齢は、『世界の秘密』という、謎理論を展開しているのでわからない。年齢がわからないにも関わらず、小学生と見間違うような見た目をしている。そのせいか。一部の男子からは根強い人気があるらしい。


「その男子が、どんな趣味を持っているかは知りたくないが」


「空太さん、なんか失礼なこと言いませんでしたか?」


「いえ、特に言ってません」


 俺は、そう言うと、自分の席に座る。


「昨日ぶりね」


 前を向くと、京子が机を挟んで向かいの席に座っていた。


「あぁ、そうだな」


 京子は、いつもと変わらなかった。


「はい。皆さんが集まったとこで、今回集めた内容を発表します!」


 もえ先生は、元気よく話始める。


 なんだか、嫌な予感を感じるのは俺だけだろうか?


「今回集めた理由は、『図書室を利用する人が爆増!? 読書の秋コーナー!』のイベントを始めるのです!」


 いや、思ったより内容は、普通ぽいな。俺の嫌な予感は、気のせいだったか?


「もえ先生。質問いいかしら?」


 京子が、もえ先生の方を向いて聞く。


「はい! 京子さんなんでしょうか!?」


「具体的には、何するの?」


 俺も言いたかった質問だ。具体的には何をするのだろうか?


「ふふふ。良くぞ聞いてくれました。もえが、考えたイベントは、これです!」


 もえ先生は、そう言うと一枚の紙を取り出して、俺達に見せて来た。


『各クラスで、一番本を借りている人とペアになり、それぞれが考えたオススメな本を一冊ずつ紹介した本をポスターにする』


 なるほど、いかにも図書顧問である、もえ先生が考えそうな企画だ。


「この作ったポスターは、どこに貼るんだ?」


 図書委員がポスターを張れる場所は、図書室の中と図書室の外にある廊下の壁だ。


 しかし、一学年、五クラスあるうちの高校では、少々ペースが足りない気がする。何クラスかは、中の図書室に貼ることになりそうだ。


「ちっ、ちっ、ちっですよ。空太さん。甘いですね」


 愛嬌があって可愛いけど、なんかいらっとしたぞ。


「もえは、昨日の昼休みを丸々使って、校長先生に直談判してきました!」


「おー!」


 図書委員は、もえ先生に拍手を送る。


「もえ先生。その結果どうなったの?」


 京子が、もえ先生の方を向いて聞く。


「その結果。なんと、一週間限定で靴箱の前にある、部活紹介などが張ってあるポスター張り場を、全てのスペースを貸してくれることになりました!」


「まじか」


 つい驚いた声が出てしまった。


 もえ先生、昨日いないと思っていたら、そんなに頑張っていたんだな。


 まぁ、なにをしていたかは簡単に予想がつく。校長先生が縦に首を振るまで粘り続けたんだろうな。校長先生お疲れ様です。


「なので、もえが頑張った次は、あなた達が頑張る番です!」


 もえ先生は、そう言うと俺達にプリントを回していく。


 プリントを見てみると、クラスごとに図書委員と一人の名前が書かれている。


「もえ先生。この紙は、なんですか?」


「これは、図書委員とペアになる、そのクラスで一番本を借りていた人達です!」


 なるほどな。もえ先生は、この計画を前から考えていたみたいだ。もう、自分でできる準備は済ませてきて、図書委員を集めたんだろう。


「俺のペアは」


 自分のクラスである二年一組の欄を探す。


「桜川由衣……」


 俺のペアは、由衣だった。

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