サイドストーリー 人生が変わった日
私にとって忘れられない日
「私……今日は帰るね!」
気づいたら教室から出ていた。
「はぁ、はぁ」
急いで靴箱に向かい、私の靴を取り出す。
そのままの勢いで、校門を飛び出した。
「はぁー」
住宅街の中に入ったとこで、立ち止まり大きく深呼吸する。
「夢じゃないよね」
自分の手の甲をつまんでみる。
「いたっ!」
夢じゃない。
てことは、今起きたのは現実……。
「本当に私、
徐々に嬉しいという感情の波が襲ってきた。
「はは、手が震えているよ」
自分の両手を見ると、手が震えていた。
「私が、アピールしていたのが効いていたのかな?」
今まで、空太にはアピールしていたけど、見向きもされていない気がした。
私がマイナス思考すぎたのかも。
「どのアピールが良かったのかな?」
毎週図書室に通い詰めて、話しかけていたこと?
それとも、『何色が好き』って聞いて、『黒』って言われたから、ブレスレッドを黒にしたことかな。
それとも、授業中時おり横を見ていたこと?
「だめだ。自分で考えてもわかんない」
後で、空太君に聞くことにしよう。
一回、家に帰って落ち着こう。
「ただいまー」
「由衣。お帰りー」
ママの声が聞こえた。
洗面所で手を洗って、自分の部屋に入る。
真っ白な自分のベッドに飛び込む。
「今、空太君。なにしているんだろう」
携帯を取り出して、自分のクラスグループから、空太の連絡先を探す。
「これ、空太君の連絡先だ」
眺めるつもりだったのに、気づいたら、『追加』を押して連絡先を追加していた。
「あ、どうしよう追加しちゃった」
私、何しているの。ただ、空太君の連絡先を確かめるだけのつもりだったのに、追加しちゃっていた。
「なんて送ろう」
付き合えた、お礼を言うべきかな。
『付き合えて嬉しい、よろしくね』
頭の中で、ボンって何かが爆発した音が聞こえた。
「恥ずかしくて、死にそうー」
枕を頭の上に被せて、視界を塞ぐ。
こんな恥ずかしい文、送ったことないよ。
頭を枕で塞いでいると、通知音がなった。
「空太!?」
慌てて携帯を取り出す。
『よろしく』
これ、空太からのメッセージだよね!? そうだよね!?
何度も送られたメッセージの連絡先を確認してみる。
「空太からだ……はっ、いけない」
自然と頬が緩んでしまっていた。
落ち着いて私。
ここからは、余裕がある女性に見えるようにクールに振舞うよ私。切羽詰まった、メッセージ送ったら空太に嫌われちゃう。
『俺、由衣に連絡先、教えていたっけ?』
「ま、待って、違うの。それは事故って言うか、押しちゃったと言うか。もー、私なにしているの」
さっき言ったのは無し、クールに振舞えない。
「もしかして、空太に嫌われちゃった?」
友達を追加した後悔に悩まされていたら、不安感に襲われ始めた。
『クラスのグループから、追加しちゃった。勝手に追加してごめん。嫌だった?』
不安感に襲われた感情のまま、メッセージを送ってしまった。
『嫌じゃない。あの時、俺が連絡先交換しようって言えなかったのが悪い』
「空太に謝ってほしいから、送った訳じゃないの。今送ったのは、私の不安な心から来たの」
自分の感情がコントロールできない。
こんなに、一つ一つのメッセージに感情が揺さぶれるなんて、思わなかった。
『そんなことないよ! 私、落ち着きたくて教室から、すぐ出て行っちゃったし』
「強調してメッセージ送っとけば大丈夫よね?」
こう送っとけば、空太も安心してくれるかな。
『改めて、よろしく』
『うん。よろしく』
やり取りを終えたのを確認したら、携帯を閉じた。
「緊張したー」
脱力感に襲われる。
「いつもの私じゃないな」
今まで、クールに振舞おうとしたことないし、あんなに慌てたこともない。
自分のキャラ崩壊にもほどがあるよ。
「空太は、どんな人がタイプなんだろ」
こんな私でいいのかな。もしかして、もっと大人っぽい女性の方が好きだった?
「でも、告白してくれたから、今までの私でいいのかな」
自分に自信を持て、私。
「一回、別のことをして落ち着いて、メッセージ送ろう」
「
「はーい!」
ちょうど、ご飯だし何とかなるよね。
「自分に自信持てば、大丈夫! 私」
自分を奮い立たせるために、言い聞かせてから部屋を出た。
夕飯を食べて、お風呂も入って寝る支度もして、自分の部屋に戻った。
「あぁー、さっぱりした」
ベッドに腰をかけて、携帯を開く。
「今の私なら、落ち着いてメッセージ送れるよね」
自分らしくいけば、大丈夫なんだから。
「あ、でも、なんて送ろう」
送る内容が思いつかない。
ふと、部屋の扉に目を向けると、扉の横にコルクボードがかけられているのが目に入った。
時間割りが目に入った。明日水曜の一限目は英語って書かれている。
「明日、一限から英語かー」
嫌だなー英語。なんて、書いているか、さっぱりだもん。
主語と述語が、わかってないって、中学の時に国語の先生に言われたのを思い出した。
私、日本語もできてないんだよ。英語なんて、できるわけないじゃん。
「待って、時間割り。これだよ!」
今年一番のひらめきがきたかも。
携帯を開き、文章を打っていく。
『明日の時間割おしえてー!』
なんて、完璧な口実を思いついたんだろ私。
実は私、天才かもしれない。
「空太も、何かしているのかな」
メッセージに既読がつかなかった。
「あ、今日返した漫画。実写化されていたんだ」
動画配信アプリで、『彼女が死んだとき、雨が降っていた』の映画を見つけた。
早速、映画を再生する。
しばらく、見ていたら、ヒロインが車に引かれてしまった。
「夜、雨降っている中、暗い服装をして外に出て行っちゃだめだよ」
頬から涙が流れる。
漫画も感動したけど、映画だと感情がリアルに伝わって、心がより揺さぶられる。
携帯の通知音が鳴った。
「空太!」
メッセージを開くと、時間割りの写メが撮られたのが送られてきていた。
『ありがとー!』
すぐに返信をする。
『プリント無くしたのか?』
『ま、まあね!』
本当は、空太に連絡する口実が欲しかった。でも、素直に連絡したかったと言えない。
『由衣は、今なにしていた?』
空太から、話を振ってくれた!
『前借りていた漫画、彼女が死んだとき、雨が降っていた、その映画版を見ていた!』
『ヒロインが、交通事故にあうシーンとか、悲しくなるよな』
空太も映画見ていたんだ。
空太と同じ映画を見ていた、それだけでも嬉しかった。
『私、そのシーン見て泣いちゃったよ』
『俺も泣いたな』
もしかして空太、映画が好きなのかな?
『ねぇねぇ』
恋人だし、一歩踏み出しても良いよね。
『なんだ?』
『今週末さ、映画見に行こうよ』
つい気持ちが高まって、誘っちゃった。
『行くか』
枕に顔を埋める。
いつも、なんてことない休日。だけど、今週末の休日が、今までで一番楽しみな休日になった。
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