図書室に来た人は
「なぁ、
「な……なによ」
「京子の好きな人は、どんな人なんだ?」
不安だが、どういう人が好みなのか知っておきたい。
「好きな人なんて、いるわけないでしょ」
京子は、話そうとしない。
「俺だって話したんだ。話してほしい」
「……」
お互い無言のまま時間が流れる。
「わ」
京子が一言呟いた。
「わ?」
「私の好きなタイプは」
図書室の扉が開く音が聞こえた。
京子は、口を閉ざしてしまう。タイミングが悪い、もうすぐで、聞けるとこだった。
「あれ? 私以外誰もいない?」
この声は、
「俺は、ここにいるぞ」
受付から顔を出して、由衣の方に手を振った。
「あ、
由衣が、元気な声で返事して来る。
「ここ、図書室な。あんまり、大きな声を出さないでくれ」
「ごめん。ごめん。誰もいなかったからついね」
由衣は、謝ると俺に、借りていた図書室の本を渡す。
本の間に入っている貸し出しカードを取り出して、ハンコを押した。
「返却の手続きは、これで完了だ。なにか、借りて行くのか?」
「うん。借りて行くよ。ありがと」
由衣は、お礼を言うと漫画コーナーに向かって、歩き始めた。
「空太」
隣にいる京子に話しかけられる。
「どうした?」
「あの子って、空太と同じクラスの子?」
「そうだよ。桜川由衣って名前だ。俺の隣の席に座っている」
「そうなのね。毎週来るから、気になっていたの」
この図書室に来る人は、基本的に真面目な生徒が多い。一応漫画コーナーも置いているが、ほとんどは小説や参考書を借りる。
そう考えると、由衣は図書室に来る人の中だと珍しい部類の人だ。京子も、それで覚えていたのかもしれない。
「これ貸してー」
前を向くと、京子が漫画を一冊持って、受付の前まで来ていた。
「この漫画だな。生徒手帳貸してくれ」
「はい、どうぞ」
由衣から、シールでおしゃれに装飾された生徒手帳を提出される。
俺は、本の貸し出しカードに書かれている本の番号と、由衣の生徒番号を借り出し中の欄に記入した。
「返却期限は」
「一ヶ月後でしょ? 何回もここに来ているからばっちり覚えたよ」
「はい、どうぞ」
由衣に漫画を渡す。
「ありがとう! じゃあ、またね」
由衣が、図書室を出ていく。
「元気な子ね」
一通り、俺と由衣のやり取りを見た、京子は呟いた。
「本当に元気だ。俺みたいな陰キャでも、分け隔てなく話してくれる」
「空太は、陰キャじゃないわよ」
「え?」
いつも、けなしてくる京子が、俺をなぐさめる言葉を言った。
心なしか、京子の頬は赤くなっているように見える。
どうして、そう言ったのか聞こうと思ったが、生徒が数人、図書室に来たので、対応している間に、今週の図書当番が終わってしまった。
「お疲れ様。私、先に戻るわね」
京子は、そう言うと自分の教室に戻って行った。
「俺も、自分の教室に戻るか」
そういえば、もえ先生。結局戻って来なかったな。
まぁ、戻ってくるだろう。俺も自分の教室に戻ろう。
教室に戻ると、由衣が借りた漫画を席に座って読んでいた。
「あ、おかえりー」
席に着こうとしたら、俺に気づいた由衣が声をかけてくる。
「ありがと。それ、面白いか?」
「うん! 面白いよ!」
由衣は、笑顔で答える。
「ねぇ、ねぇ。空太」
「なんだ?」
「空太の隣にいた人って、相良京子さん?」
「あぁ、そうだが、よく知っているな」
同じ図書委員の俺ならまだわかるが、他クラスである人の名前を覚えているなんて、すごいな。
「すっごい美人だって、有名だよ! 毎週図書室に来ているけど、話しかけたくても話せないんだよね」
「来週、話してみればいいんじゃないか?」
京子が、どんな反応をするかわからないけど、拒絶とか悪い態度はとらないはずだ。
「うん、そうする! その時は、空太もアシストちょうだいね」
「わかった。最善を尽くすよ」
席について、次の授業に使う教科書を出していく。
「京子さん。彼氏作るのかなー」
動かしていた手が止まった。
「なにかあったのか?」
「だって、あんなに美人だよ。男子たちが、アピールするでしょ」
そういえば、今日図書室来るのが遅かったのも、告白されたからって言っていた。
「本人が乗る気じゃなかったら、彼氏作らないんじゃないか」
「それは、本人じゃないとわからないよ。恋愛経験豊富そうで羨ましい」
由衣は、羨ましそうに言う。
由衣も普通に恋愛経験、豊富そうだけどな。容姿も良い、出ているとこは出ている。
「由衣は、彼氏とか作らないのか?」
「わたし?」
由衣は、しばらく俺の方を見る。
「わたしは、好きな人と付き合いたい。彼氏いないからって、いろんな男と遊ぶのは、あんまり好きじゃないかも」
由衣は、恥ずかしそうにしながら言う。
「純粋なんだな」
「まさか、空太は手当たり次第、女の子に手を出す人? ごめん引いたかも」
「勝手に、誤解するな。俺は、ひねくれてはいるが、人の心を遊ぶような真似はしない」
「ひねくれているのは、認めるんだ」
由衣は、呆れ気味に言った。
「でも、わかるよ。空太は、人の心を遊ぶようなことをする人じゃないってこと。さっき言ったのは冗談だよ」
「そうか」
正面から、そう言われると、なんか恥ずかしい。
授業が始めるチャイムが鳴る。
ふと、カバンの中にある白紙の手紙が目に入った。
『京子さん。彼氏作るのかなー』
さっき由衣が言った言葉が、脳裏によぎった。京子に彼氏ができたら、俺の気持ちは伝えられないまま終わる。
なんだが、心が掴まれるような感覚に襲われた。
一度書いてみよう。
俺は、ラブレターを書く決心をした。
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