第一章〜大きな間違いを犯した日〜
告白当日
十時間前。
「さむい」
目が覚めて、最初に出た言葉は、身体が冷えて出た言葉だった。
今日は、十月十五日。十五夜とも呼ばれる日だが、俺にはただの一日でしかない。
「
下の階から、母さんの声が聞こえる。
「今行くー」
ベッドから降りて、一階にある台所へと向かった。
「今日は、学校ある日だよね?」
「うん。昨日は体育祭の振り替え休日で休みだったけど、今日から普通に登校日だぞ」
三日前は、体育祭だった。昔は、夏に開催されていたみたいだけど、『気温が高すぎるから、秋に移動した』とか校長が言っていた。
「体育祭どうだった?」
「えー、まだ聞くの?」
「だって、空太が何していたか知りたいじゃん」
「普通だったよ」
本当は、体育祭で何があったかなんて言いたくない。リレーでは、トップを競っていたのに転んでしまいビリ。借り物競争では、『理科の先生』と書かれていたけど、理科の先生は腹痛で腹を壊し、トイレに籠っていた。おかげで、借り物競争でもビリになってしまった。
俺は、昔から大事な所で不運に見舞われる。そんな、運命に生まれているみたいだ。
「そう? まぁ、いいわ。早く準備しなさい、遅刻するわよ」
母さんは、俺が本当に言いたくないと感じると、こうして引き下がってくれる。俺に、反抗期が来てないのは、干渉されすぎられないこともあるのかもしれない。
食器を、流し台に置き、自分の部屋に戻る。
「今日は、火曜日」
毎週火曜日は、昼休み図書室の貸し出し当番の日だ。
「京子に会える」
図書委員は、各クラス一人ずつ選ばれる。そして、貸し出し当番は、図書委員二人でする決まりで、俺は二年二組から選ばれた図書委員の相良京子と一緒の当番だ。
「はっ」
ふと鏡を見たら、口角が上がっていた自分の姿が映った。
「こんな顔を、京子に見られたら嫌われる。冷静に行こう」
一度深呼吸し、心を落ち着かせてから、制服に着替える。
「もう、家を出る時間だ」
もうすぐで、八時になるとこだ。家から、学校まで徒歩二十分。朝のホームルームが、八時四十分。時間に余裕はあるが、ぎりぎりに着いて慌てたくない。気持ちに余裕を持って行きたい。
「行ってくるー」
カバンを持ち、玄関で靴を履く。
「行ってらっしゃーい。気を付けてね」
母さんの返事を聞き、俺は家を出た。
県立北川高校。田んぼ地帯と住宅街の間にある北川高校は、偏差値は真ん中。他校の高校生からは、『北高』とも呼ばれている。
教室側の窓を覗くと、田んぼの風景。廊下側の窓を覗くと、住宅街。違った風景が見られて、北高に通っていない人からすると、面白いらしい。北高生は、見慣れてしまって、いつもの風景だねって終わってしまっている。
自分の教室、二年一組に近づいてくると、賑やかな声が聞こえる。
「でさぁ、朝寒いなって思ったら、上半身裸の状態だったってことよ」
「なにそれ、どんな寝相してんー! 私は、逆に布団と一体化していたよー」
この声は、クラスのギャル男、
「でさぁ、でさぁ……」
俺が教室の扉を開くと、二人とも黙り込んだ。
そうだった。俺は、体育祭でやらかしていた。将と夕菜は、クラスの応援団である団長と副団長コンビだ。体育祭で、一番熱を入れていた二人には、俺の失敗は一番よく思われていない。
「……」
かける言葉が見つからない。俺は、無言で自分の席に座った。
「おっはよー!」
少し経つと、勢いよく扉が開いて、一人の女性が入ってくる。
長すぎない明るめな茶髪。だらしなく見えない程度に制服を着崩し、ブレスレッドなどアクセサリーでおしゃれをしている。俺の隣に席がある桜川由衣だ。
「由衣ちゃん。おはよー! 今日も、おしゃれやん!」
「将、体育祭終わって髪色、少し落とした?」
「やっべ、わかっちゃう? 俺、体育祭で一皮むけて、更生したんよ。ワントーン髪色落としたんよ」
「え、更生したんだ。えらいじゃん!」
いろいろ、ツッコミたいところはあるが、黙っていよう。教室内の雰囲気が良くなったのは、空気の悪さを感じないで、入ってきた由衣のおかげだ。
「夕菜は、髪の色、綺麗な金色になっているね!」
「そうでしょ。ママに、体育祭頑張ったご褒美で、美容室に連れてってくれたんだ。由衣は、髪色変化ないわね」
「私は、今の髪色が好きだからね。しばらくは、この髪色かな」
「染めたくなったら、私に相談してよ。オススメな美容室教えてあげる」
「うん、お願い! あ、カバン置いてくるね」
由衣は、そう言うと俺の隣の席に来る。
「空太君。おはよう」
横を向くと、由衣が俺の方を見て挨拶してきた。
「おはよ」
「体育祭、おつかれさま!」
「あぁ、お疲れ」
由衣のコミュニケーション能力の高さには、いつも驚かされる。誰とでも、話し方やトーンを変えずに話しかけてくる。裏表がない性格なんだろうな。
「怪我とかしてない?」
「転んだりはしたが、かすり傷ぐらいで、大きな怪我はなかったぞ」
「そうだ。転んだじゃん! どこ怪我したの?」
「えーと、右腕の肘あたり」
「ちょっと、見せて」
由衣は、俺の右腕を掴むと、袖をまくった。
「そこまで、心配しないでいい。痛くない」
それと、恥ずかしい。女子に、その行動されると心拍数が上がる。俺は、陽キャみたいに異性に対する抗体は持ち合わせていないんだ。
「ダメ。ばい菌入ったら、危ないでしょ」
それ、母親が言うセリフだぞ。本当に、気にするほどの怪我じゃないんだけどな。
「うん。かさぶたになっているから、大丈夫だね。帰って良し!」
由衣は、そう言うと俺の背中を叩いた。
「俺、今来たばっかりなのに帰るのか?」
「ははは! 冗談だよ」
由衣は、俺の反応を見て笑った。由衣にとって俺は、オモチャなのかもしれない。
「由衣―? ちょっと来てー!」
夕菜が手を振って、由衣を呼ぶ。
「今行くよー!」
由衣は、夕菜の元に小走りで向かった。
いつも通りの日常が始まった。
自分の荷物を机の中に入れる時、カバンの中から白紙の手紙が一枚出て来た。
「結局、書く勇気すらもなかったな」
それは、京子に向けて書くはずだった。ラブレターの紙だった。
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