隣の席に座る女の子にラブレターを間違えて送った

るい

序章〜ある日の放課後〜

ある日の放課後

 約束の時間が近づいて来て、心拍数が高まっていく。呼吸も浅い気がする。


「もうすぐで、京子が来る時間だ」


 落ち着くことができない。立ち止まることもできず、教室内を歩き回ってしまう。


「そうだ。外の景色を見よう」


 二年一組の教室からは、校庭に植えられた木々が、紅葉で色づき始めているのが、見えた。


「もう、秋か……」


 だめだ。まったりできない。時計を確認すると、午後の五時。約束の時間だ。


 ふと、廊下の方に目を向けると、曇りガラスの向こうから歩いている人影が見えた。


「来た!」


 これから自分の想いを伝える。


 改めて、それを自覚すると体が熱くなってきたのを感じた。心臓が破裂しそうだ。これ以上緊張しないように、視線を下に向けて教室の床を見る。


 教室の扉が開く音が聞こえる。


「来てくれてありがとう。手紙を読んでくれた?」


 恥ずかしくて、直視できない。未だに教室の床を見ている。


「うん」


「その手紙に書いてあるのは、全て事実だ」


 ラブレターって言うのですら、恥ずかしくて『手紙』と言ってしまっている。


 京子からの返事はない。


「ずっと、言えなかったけど、俺は……」


 次に言う言葉が、喉に詰まってしまう。


 ここまで、来た。ちゃんと想いを伝えないと、逃げちゃダメだ。


「俺は、好きなんだ!」


 言ってしまった。高校二年生までの人生で、一番大きな壁を乗り越えた気がする。


「好き……」


 京子から、小さく『好き』という言葉が、呟かれたのが聞こえた。


「私も好きだよ」


 心が、ふと軽くなったのを感じた。


 好きって言ってくれた。


「俺と付き合ってくれますか?」


 自然と、その言葉が出てしまった。


「はい」


 その言葉を聞いて、嬉しさが込みあがった。


 今なら、顔をあげても大丈夫な気がする。


「よろしく、おねがい」


 ここまで言って、俺は言葉を失ってしまった。


 目の前にいたのは、京子じゃなかった。


 明るめな茶髪で、肩までかかるぐらい少し長めな髪。制服を少し着崩し、目立ち過ぎないように、派手過ぎないアクセサリーを付けてある。


 俺は、この特徴の女子を知っている。


 俺と同じクラスで、隣の席である桜川由衣だった。

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