第14話 私の部屋に女の子×女の子。これって……
(※ここから祈里視点)
私の名前は上崎祈里。幼馴染である之斗と、之斗の縫いぐるみだったクマ(なんでか知らないけど人間になってる)との危険な同棲を阻止するべく、こうしてクマを自分の家に連れてきた。
今になって考えてみれば、自分勝手な意見で之斗に無理を押し付けてしまったかな……とも思うけれど。
でも、これは之斗のためでもあるんだから、心を決めてかからないと!
両親に事情を説明して今晩家に止めてもらえないか尋ねたところ、二つ返事でOKしてもらえたから良かった。
私はクマを連れて二階にある自分の部屋に案内する。
私以外の人を自分の部屋に入れるなんて、人生でこれが初めてだった。幼馴染の之斗も、部屋には一度も招いたことがない。
……だって、私の秘密である
「ほ、ほらこの部屋。入って」
「お邪魔します」
クマが私の部屋に入ると、少し驚いたように目を丸くしていた。
「……あんま詮索するように人の部屋ジロジロ見んなよ。恥ずかしいから」
「ごめんなさい。でも前に見た時とは随分変わったな、と思ったの」
「そりゃそうだよ。だってクマがこの部屋を見るの、私たちが小学生だった時以来なんでしょ。当然その間に何度も模様替えとかしたし、家具の配置とかも変わってると思うよ。……ピンク基調なのは相変わらずだけど……」
「うん。……でも、変わってないものもある」
そう言って、クマは洋服タンスの上にあるものを指差した。
「……やっぱり、ずっと持ってくれていたのね、ルナルナ」
そこには、私が幼い頃から大事にしていたウサギの縫いぐるみがガラスケースに入れて置いてあって、それを見た途端、「しまった!」と思った。
「……ごめん、捨てたっていうのは嘘。実は今もああやって埃が付かないようケースに入れて飾ってあるんだ。でも最近はケースから出すこともないし、ほぼ置物同然なんだけど……」
本当は、ずっと使わないままケースの中に入れておくより、之斗みたいにボロボロになっても常に自分の傍に置いておくくらいしていた方が、大事にしているって言うのかもしれない……なんてふと思う。
「ううん、残してくれてるだけでも嬉しい。きっとルナルナも『今まで大切にしてくれてありがとう』って思ってる」
「はぁ? まさか縫いぐるみと会話できたりすんの?」
「会話はできないけど、分かる。だって私も元縫いぐるみだったから」
……なるほど、確かに同じ立場だったクマからそう言われると、妙に説得力がある。
「……とりあえず、夕飯までまだ時間あるし、適当に座って休んでて。私飲み物取ってくるから」
「うん。ありがとう」
私はクマを自分の部屋に残して、キッチンへ向かう。
正直、あの子が之斗の持ってたボロボロのクマちゃんであることが未だに信じられない気持ちもある。
けど、私の部屋にある物とか配色とか、彼女は全て分かっていた。
それに、普段から嘘を付かない之斗が、あんな必死になって訴えていたのだから、間違いないのだろう。頭から生えた丸い耳は、かつて縫いぐるみだった頃の名残り……みたいなものなのかな?
(……にしても、縫いぐるみが人間になったとはいえ、変わった性格してるよなぁ、あの子。挨拶代わりにキスしたりとか、普通しないだろ)
そんなことを思っていると、ついさっきクマに思いっきりキスされたことを思い出して、恥ずかしさが込み上げてきてしまう。
はぁ、まさかファーストキスが女の子に奪われるとか……うぅ、これってもう――
あの時のことが頭から離れず、顔を熱くしたまま、私はお茶を入れたカップを持って二階へ上がった。
「ごめん、おまたせ。飲み物取ってきたよ……」
扉を開け部屋に入ると――
クマは、私しか知らないはずの「禁断の書」を手に取り、ベッドに腰掛けて普通に読んでいた。
「っ!?―――」
私は思わず反射的に持っていたお茶のカップを机に置き、クマの持っていた本を乱暴に取り上げる。
「ちょ、誰が勝手に読んでいいって――!」
「ごめんなさい。でも机の上にこれが置いてあったから、つい……」
机の上にこれが? 嘘でしょ、いつもはタンスの引き出しの奥に隠しているはずなのに!
どうやら昨日、この一冊だけしまい忘れたまま学校に行ってしまったらしい。
あ〜〜やっちゃったぁ………これまで誰も部屋に入れたことがないからって完全に油断してたぁ……
クマから取り上げたその本は、B5サイズの薄い漫画本で、表紙には服をはだけた綺麗な女性が二人、互いに体を重ねてキスをしていた。
そう、いわゆる百合とかレズとか言われる類いの同人誌である。しかもかなりハード系で、普通にエッチもしたりするような、18歳未満お断りの「禁断の書」……
そんな系統の本が、私のタンスの奥に、あと数十冊は眠っている。
――そう、私は大の百合好きだ。
この事はもちろん私の家族にもずっと秘密にしてきたし、友達にも打ち明けたことはない。絶対、誰にも話さずに墓場まで持っていくつもりだった。
それなのに……
私は項垂れてその場にしゃがみ込み、熱くなった顔を両手で顔を覆う。今この瞬間、私だけの秘密は秘密で無くなってしまった。
一方のクマは、そんな私をただ黙って見つめたまま、不思議そうに首を傾げている。
「? 何をそんなに恥ずかしがってるの?」
「何って……そんなの秘密がバレたからに決まってんじゃん!」
私がムキになって言い返すと、クマは――
「私は知ってたよ」
「………は?」
「私は前から知ってた。祈里ちゃんは小さい頃からこういう本が好きだってこと。ずっと見ていたから」
そう言われて私はハッとする。
私の家に来る前、クマは私の部屋の内装だけでなく、タンスの奥に隠してある秘密まで之斗の前で打ち明けようとしていた。それを言われたら困ると思って、勢いでこの子をクマだと認めてしまったのだった。
――つまり、私が幼い頃、縫いぐるみ交換お泊まり会をしていたあの時から、既に秘密は秘密でなくなってしまっていたということなの?……
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