第47話 ゾーン、決死の戦い
レイピア使いは、ズリーの喉元に向けていた矛先を、ゆっくりと自分の足元へと移動させた。
「ズ、ズリー、い、生きていたのですね。さ、探しま...」と、レイピア使いの声は弱々しいが、声はズリーに向けられていた。
その声に反応するかのように、ズリーもルリカに向けて、湧き上がる感情を必死に押し殺しながら話し始めた。
「私もあなたを心配しておりました!ですが、私はある者の奴隷となり下がり、死を待つしかない状況でした。ですが、今の旦那様に助けられて...」と、ズリーは沢山、沢山、話したいことを伝えようとしたのだが...。
「ズ、ズリー!わ、私から離れて!は、早く!私の身体と心の自由が利かない...」と、ルリカがズリーに告げた瞬間...。
ルリカの身体は、何か不可解な力に支配されているかのように震えだし、彼女の方からズリーとの距離をとった。
「ル、ルリカ?一体何が起こったのですか?」と、ルリカの予期せぬ行動に深い懸念を抱いたズリーが、彼女に声をかける。しかし...。
「く、く、苦しい、い、いたい、頭が痛い!!お、お願いだから!!私にかまわないで、ズリー!!」
そして、ズリーから数m離れた場所で、ルリカは突然もだえ苦しみだした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
先程までの緻密で洗練された動きから一変、大振りで力まかせにレイピアを、ズリーに向かって振り回すだけのルリカ。そして、その力まかせの攻撃により、自身の外見を隠していたフードが滑り落ち、その顔立ちが
「あなたも…」と、ルリカの顔貌を見つめたズリーが、驚愕の声を上げる。
「み、見ないで、ズ、ズリー、み、みないでぇぇぇぇ!!」
ルリカは慌ててフードを被り直す。
ルリカの髪は抜け落ち、顔中の皮膚はただれていた。そして、皮膚のかゆみからか、顔全体が掻きむしったように血がにじんでおり、その姿は非常に悲痛であった。そう、それは初めて出会ったズリーと同じような姿だった...。
苦痛に耐えるルリカに対し、ゾーンは「おい、お前!何をやっている!そんな子娘相手に時間を取るな!それにまだ、「従属の魔核」の手に落ちていないのか⁉肝心のお前が機能しなくなっては、俺がやられちまうじゃねえか!!」と喚き散らす。
自己中心的な発言を続けるゾーン。その言葉は、彼の自己保身の強さと、他者への無関心さを露わにしている。
ルリカはまだ「従属の魔核」に完全には支配されていない様子だ。彼女の心の奥底には、ズリーとのかけがえのない記憶が微かに残り、そのためか、彼女はズリーへの攻撃を躊躇している。
一方、ゾーンはルリカのそばで暗躍し、何か不吉な計画を企んでいるように見えるが、最後の一歩を踏み出せずにいる。そんな感じであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのゾーンのわずかな隙を捉えたゼファーが、ズリーに対して力強く叫んだ。
「ズリー!しゃがみなさい!私の絶技、「万葉の舞」を見せてあげるわ!この卑しいインプめ、我が力を目に焼き付けなさい!」
言葉と共に、ゼファーは異空間から神速で征矢を取り出し、ゾーンに向けて繰り出す!
ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!!!
ズドドドドドドドドドドドォォォォォォォォ!!!
「ク、クソったれのエルフめ!怪我をしていなければ屁でもない攻撃を、偉そうにいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
ゾーンは、自身に向かって飛んでくる征矢をショートソードで何とか打ち落とす。だが、攻撃の勢いは次第に増していく。ゼファーが攻撃を緩めることはない。
「まだまだよ!!」とゼファーは、ゾーンに向けて更なる矢を放つ。その矢は終わりの見えない雨のようにゾーンへと降り注ぎ、やがて暴風雨となり、ついには嵐へと変わった。
シュュュュュュュュュュュ!!!シュババババババババァァァァァァァァ!!!シュババババババババァァァァァァァァ!!!
そしてついに...。ズドムゥゥゥゥゥ...!!
ゼファー―のはなった征矢は、ゾーンの右太ももをとらえた...。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!い、いてぇぇぇぇぇぇ!!!いてぇぇぇ!!痛ぇじゃねえか~!!クソエルフ~!!く、くそ、片足をやられちまった...。こ、こうなったら...躊躇している場合じゃねえようだ、やばい!!このままじゃ~!!!くそ、くそ、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ゼファー―のが放った征矢が、ゾーンの右太ももを見事に貫き、黒く濁った汚らしい血液が傷口からドクドクと溢れ出る。
ゾーンが、顔を歪めて俺たちを睨みつける。奴の言葉と態度は荒々しく、そして汚らしいが、奴からは余裕が全く感じられない。
ゾーンは、ゼファーからの更なる攻撃を避けるために岩場の陰に身を隠した。その後、ゾーンは「仕方がない、無理矢理でもルリカ、お前を従わせるぜぇ。お前も道連れだ!」と、ルリカに向かって右手を向けた。
そして...。
「שלוםܠܘܬܐالسلامΕιρήνηשלוםܠܘܬܐالسلامΕιρήνηשלוםܠܘ...」と、何やら聞いたことも無い言葉を発した。俺たちには、無意味な言葉を唱えているようにしか聞こえない。
しかし、ルリカは先ほどよりもさらに大きな声で叫び出した!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」と、
うら若き女性からは想像もつかないような悲痛な叫び声がルリカから発せられた。
「ル、ルリカ?ルリカ大丈夫ですか!!」とズリーがルリカの元に近づこうとすると、「ぐ、ぐるなぁぁぁぁぁぁぁぁl!!」と言いながら、先ほどと同じように力任せに剣を振り回した。
『た、大変です、デニットさん!ズリーさん!ゾーンが「ザルゴン・ヘルファイア」という古代呪術を唱えています!』と、マゼールが焦った様子で俺たちに脳内で伝えてきた。
「「ザルゴン・ヘルファイア?」」
ズリーも俺も、ゼファーも、その他の皆んなも、同時にハモってしまった。古代呪術?聞いたことも無いな。無意識にレバルドやバズボンド、チャームを見つめるが、皆首を横に振る。バズボンドにはチャームが説明をしている。
そうしている間にもルリカは辛そうな声を上げ、レイピアを誰もいない空間に、狂ったように振り回している。
「ザルゴン・ヘルファイア」、これをデニットさん達の分かる言葉に訳せば、「力の調律と心の鍵師」という意味です!!つまり、この呪術は、術を授けた者の精神と身体能力を完全に我がものとし、50倍以上の攻撃力とスピードを約5分間与えるというモノです!!』
とんでもねえモノじゃねえか。だが、そんなモノを受けたら...」と、ゼファーは青ざめた表情でマゼールに問いただした。
『はい...5分間を過ぎますと、極限にまで高められた身体と精神はボロボロになり、よくて廃人、殆どの者は死んでしまいます...。また、術者も相手に極度の精神力を使う為、そ、その...アソコが機能不全になる様です。ゾーンはどうでもいいですが、早く発動を止めさせて、ルリカさんを!!』
確かにゾーンはどうでもいいな...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ゾーンの呪術の完成を阻止すればいいんだな⁉」と力強く言ったものの、ゾーンと俺たちの間にはかなりの距離があり、ゾーンは俺たち、いや、先ほど征矢を放ったゼファーや片手を切り落とされたバズボンドの動きを非常に警戒している。
「שלום ܠܘܬܐ السلام Ειρήνη שלום ܠܘܬܐ السلام Ειρήνη ש...もうすぐ呪術は完成する...だが俺は大切なものを失っちまう...魔娼館のペニシーちゃんのことを2度と抱けなくしてくれた恨み、皆殺しにしてくれるわ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!痛い、いだい、いだい、いだいぃぃぃぃぃぃ!!」とルリカは双剣レイピアを振り回す。しかし、身体全体の激痛からか、彼女が持っていた2本のうちの1本のレイピアが手から離れ、湖畔にカラカラと転がってしまった。
それでも、彼女は残ったレイピアで、何もない空間で剣を振り回し続ける...。その光景を見つめているズリーが、「ルリカ、ルリカ、しっかりするのです!!せっかく、せっかく、生きてまた会えたのですからぁぁぁぁ!!」と力強く叫んだ。
ゾーンは怒りに身を震わせ、ルリカに対する呪術を続けている。ルリカの身体がどうなろうと奴には関係ない。それよりも、ペニシーちゃんと2度とコトが出来ないことに、ゾーンは相当なイラつきを感じている様だ。
呪術を唱える合間にも、「ペニシーちゃん!!ペニシーちゃん、ごめんよ!!」と叫んでいる。
知らんがね。勝手に一生謝っていろ...。
『は、早くして下さい!!ゾーンのたわごとに付き合わなくていいですから!も、もうすぐに呪術が完成してしまいます!!』
マゼールが焦った声を上げる。確かにヤバイ。呪術が完成したら、間違いなくルリカに殺されてしまうだろう。間違いなく全滅だ。
しかし...。どうすればゾーンの呪術を阻止できるんだ...?俺たちの動きを警戒している中で...。
そう思った瞬間、「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!いてえぇぇぇぇぇぇ、いてえ!!」とゾーンが叫び声をあげ、地面に片膝をつけた。右の脇腹にレイピアが突き刺さっている。
一体、何が起きたのだ...?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
な、何はともあれ、呪術の詠唱が、完全に停止し、ゾーンはレイピアによって貫かれたわき腹を抑え、苦悶の表情を浮かべている。
「ゾーンサマ、ソンナトコロニ イラッシャッタノ デスネ。ズリートイウ ショウジョニ コウゲキヲ シヨウトシテ、グウゼン レイピアガ ワキバラニ ツキササッテ シマワレタヨウデスネ。ダイジョウブ デスカ?」
馴染みのある声が聞こえた...。タイタンの声だ!!
そして、「イマダ デニットヨ!!「ジュウゾクノマカク」ヲ ハカイシテクレ!!マズハ ルリカトイウ モノカラ!!」とタイタンは、俺たちに向かって、割れんばかりの大声を上げた。
そこにはレイピアを自身の脚の1本に絡めてゾーンに投げつけたままの姿勢でいる、タイタンの姿があった。
どうやら、タイタン、ゾーン、そしてズリーが一列に並んだ瞬間、タイタンがズリーを狙って投げたレイピアが、偶然にもゾーンに当たったようだ。
「く、くそイカめ!!炙ったイカにしてやる!!こうなったら、も、もう一度ルリカに呪術を...」と言った直後、ゾーンの背後からレイピアが身体の前面にゆっくりと突き出てきた。
「ぐふっ!!」
ゾーンの口から汚い声が漏れ、それと同時に鮮血が飛び散る。
「大人しく死になさい。不愉快です...」と、ゾーンの背後からズリーが静かに呟いた...。
「危険ですよ~危険ですよ~混ぜると危険ですよ~!」EXスキル「混ぜるな危険!」で、「平凡スキル」を混ぜ合わせて「最強スキル」に変えちゃいます!遅咲きオッサン冒険者の、華麗なる成り上がり物語! たけ @takamasa0718
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