第46話 古代魔族と同行者
ランドとメリーが俺たちの意図を汲み取り、全力で駆け抜けてくれた。そのおかげで、川沿いのダンジョン入り口の扉まで、ものの数分でたどり着くことが出来た。
ありがとうな、2頭とも。
俺たちは速やかに川沿いのダンジョンの内部へと足を踏み入れ、ワープゾーンへと向かう。
ワープゾーンへの道中、ビックマイマイやポイズンスラッグなどの生物が数匹姿を現した。俺やズリーが馬車から飛び出し、これらの魔物を退治しようとすると、レバルドとバズボンドが俺たちよりも先に馬車から飛び降りた。
「邪魔だ!【
「おお、さすがバズボンド殿!お見事じゃ!わしも負けておられぬ!リジェネレーション・シールドアタック!!」と、レバルドはポイズンスラッグの群れに向かって、身体の前にシールドを構えて突進し、敵を蹴散らした。
「グギャ~!!」
ビチビチ、ビチャ、ガラガラ...。
魔物の断末魔の後に残骸物が床に飛び散る。何とも哀れな最後だ...。
「こんなちんけな奴らだと、酔い覚ましにもならぬわ!」とバズボンドがぼやくと、レバルドも「全くですじゃ」と相槌をうった。
強いな~。この大酒飲みコンビ。何でも本番前に酒を抜きたいからと、率先して敵を蹴散らしにかかっている。サウナじゃないんだから...。
楽しそうに爺二人で魔物を倒すなよ...。
チャームも驚きの表情を浮かべ、「あんな長剣や大盾をいとも軽々と扱うなんて、あたいたちと同じ半魔なのかい?」と疑問を投げかけた。
チャームは、目の前の現象が信じられないという表情を浮かべ、足元に散らばる無数の魔物の残骸を引きつった笑顔と共に見つめていた。
まあ、無理もないな。俺やチャーム、それにズリーなどとは、あの大酒のみ2人と同じランクCだが戦い方が違うからな。あんな派手な倒し方はできない。
あ、俺はランクBに上がっていたっけ。
俺の【
何はともあれ、バズボンドとレバルドが味方であることに感謝をしたい。足を止めている余裕はない。ワープゾーンまで急がないと。
マゼールの話によれば、10階では古代魔族とその同行者がタイタンと戦っているらしい。オロイドでもそうだったが、1対1ではとても太刀打ちできない奴だった。それでも、奴は自分を下級の古代魔族だと言っていた。
バズボンド一人でゾーンと戦ったと彼の部下であるクラークやピッキーたちが熱く語っていたっけな。すげえな、バズボンド。俺たちなんて、総攻撃を仕掛けてオロイド一体を倒すのがやっとだったのにな。
バズボンドに言わせると、「同じ敵ならたわいもない。ゾーンとかいうモノとの戦いは、わしの部下をかばいつつ、しかもオークが四方から攻め込んでくる中での戦い。それに比べれば、例え同行者が一人ぐらいおろうとも取るに足りぬわ」と言いいのけた。
まあ、そう上手くいけばいいのだが...。バズボンドも軽口を叩いてはいるものの、表情は真剣そのものだ。おそらく俺たちを安心させるためのモノだろう。本心はそう簡単に事が運ぶとは思っていないはずだ。
この強がりジジイめ...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しかし、ゾーンと共にいるその同行者の存在は、何とも言えぬ不気味さを醸し出している。マゼールの【詮索】すら跳ね返すほどの強力な阻害魔法が施されている...。タイタンを無事に救出できることを願うばかりだ。
ゾーンについてはバズボンドからある程度のことを聞いた。俺たちが戦ったインプの羽有りゴブリンと同じような存在らしい。そして、左腕をバズボンドによって切り落とされている状態。
俺たちと戦ったインプのオロイドを羽根つきゴブリンと称した時、バズボンドは、「くわははははははは!!羽根つきゴブリンとは面白い。左腕を切り落とした後のその醜さは、まさにゴブリンそのモノだった!!」と、烈火のごとく高笑いをした。
しかし、古代魔族のゾーンが相当な怪我を負いつつも、なぜ奴がオロイドの代わりにタイタンの元へやって来たんだ?怪我は治ったのか?なぜそんなに焦ってタイタンを倒しに来たんだ?
俺があれこれと頭を悩ませていると、「主人!わーぷぞーんについたぞ!みんなでわーぷするぞ!」と、バリーがいつにもなく緊張感を込めて告げてきた。
『皆さん!10階と11階の間のワープゾーンのエントランスまでワープした後、10階の中ボスの間へと進みます。タイタンさんは今、必死に戦っております。戦闘がすぐに開始されることを覚悟しておいて下さい!」
「「了解!!」」と、俺たちがマゼールの言葉に即座に反応した。そして、ゼファ―がバズボンドにマゼールの言葉を伝えると、一呼吸置いてからゆっくりと「分かった...。決着をつけようぞ、ゾーン」と静かに呟いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ズガ、ズドドドドドド!!
バギ、ズゴゴゴゴガガガ!!!
ドドン、バズン、ドバァァァァァァァァン!!!
驚くべき光景が目の前に広がっていた。10階「中ボスの間」の扉が、何者かの手によって無残にも破壊されていた。その破壊された扉からは、内部で繰り広げられている戦闘の音が、静寂を切り裂くように漏れ出ていた。
「おいおい、ダンジョン内でモノが壊されたままなんて...ありえるのか?修復が追い付かないほど、完膚なきまでに破壊されてしまったというのか⁉」と、俺は思わず声を張り上げてしまった。
だが、目の前に広がるのは、事実として、10階の扉が無残に破壊され、その残骸が周囲に散乱している光景だった...。
中に入ると、ゾーンと思われるインプの同行者とタイタンが戦っている。
その隣では、「早く大人しくやられちまえ、このクソイカ野郎が!!それに、ここに向かったはずのオロイドの消息が経たれた!おめえにはオロイドは殺せない!!誰が殺ったのかさっそと吐かねえか!てめえの汚ねえスミなんかいらねえ!スミなんか吐く暇があるんなら、誰がオロイドを殺ったかゲロっちまえ!」とゾーンが、ギャーギャーと喚いている。
「ググ...。ワレハ ホコリタカキ スクイッドゾクノ センシ タイタン!!コロスナラ サッサトコロセ! キサマノヨウナ クサッタマゾクニ ハナスコトナド ナニモナイワ!!」
久しぶりに見たタイタンの姿は、見るも無残であった。胴体は無数の傷に覆われ、刺突の痕跡や剣でなぶられた残痕が全身に広がっていた。明らかに弱っているが、止めも刺されていない状態。
まさになぶり殺し、いや拷問を受けているかのようであった。
「舐めやがって、このくそったれが!イカの分際で!まあいい、先ほどリーナを感知した!そして奴らの方からここに飛び込んできたからな。やはりオロイドを倒したのは、信じられないがリーナたちの様だな...」
左腕の無いインプがタイタンに向かって怒りをぶつけている中、全身を
タイタンが死なないように注意しながら、じわじわと精神的にも肉体的にもダメージを与えるような攻撃を繰り返している。
「皆んな、急ぐぞ!あのやかましい羽根つきゴブリンはボンドに任せて、俺たちは執拗にタイタンを痛めつけているレイピア使いを何とかするぞ!!」と俺は言うと、レイピア使いの元に突っ込む。しかし、その瞬間...。
『気をつけて下さい、デニットさん!特にあのレイピア使いは厄介な動きをしています。タイタンさんの力をいなし、的確にカウンターを入れてきます!油断すると、えらい目に遭いますよ、皆なさん!』
マゼールが脳内で警鐘を鳴らす。ただ言われなくても、一目でわかるヤバさだ。タイタンの触角で叩きつける攻撃を剣で滑らせ、ギリギリの間合いでかわしている。まさに、熟練された動きとしか言いようがない。
だが、もう一匹の羽根つきゴブリン、ゾーンは、ただ騒いでいるだけだ。バズボンドによって切り落とされた左手も失ったままだ。それに身体の至る所に傷跡も残っている。なぜこんな状態で、この洞窟にいるんだ?ボロボロの状態じゃねえか?
まるで、バズボンドの戦いの後、ゾーンは同行者を連れてすっ飛んできたかのようだ。
「神父様!羽有りゴブリン2号はボロボロな状態です。問題は明らかにあの、レイピア使いです。私の乱れ打ちを皮切りに、全員でフルボッコにしますか?」
美の女神のような
まあ、仲間であるタイタンを痛めつけているのは事実。古代魔族と共にいる時点で、すでにアウトだ。ゼファーの言う通り、フルボッコにして、場合によっては土に帰ってもらおう。
チャームやレバルドもゼファーの意見に同意しているようだ。「あたいもゼファーの意見に賛成だよ!悪人に同情しちゃいけないよ、旦那!やる時は、徹底的にやっちまうのさ。同情は足元をすくわれて、死が近づくだけだよ!」と、チャームが言ってのけた。
そうだな、全員で総攻撃をかけて、けりを付けるか。いくら強いとはいえ多勢に無勢だろう。オロイドを倒した要領で、マゼールの指示に従えば、俺たちが負けることは無いだろう。
だが、皆に俺の想いを告げ、ゾーンの同行者であるレイピア使いに対して総攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、予想外の事態が発生した。
目の前のレイピア使いと俺たちの間に、ズリーが割って入った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ちょ、ちょっと待って下さい!皆さん!あ、あの者は私の知り合いです!ル、ルリカです!!」
ズリーが俺たちに向かって大きな、割れんばかりの声で叫ぶズリー。会えた喜び?悲しみ、苦しみ、様々な感情が混ざり合った表情を浮かべている。
「剣の軌道や避ける時のステップ、間合い、全てがルリカそのものです。全身を外套で覆っていても分かります!何百回、いえ...何千回と稽古をつけてくれたルリカの動きそのものです!私にはわかります!ルリカでしょ?ねえ、ルリカ、なんか言って下さい!!」
ズリーがさらに大きな声で、タイタンにたちむかっている者に対して、「長い年月を共にした私には、幾ら外見を隠そうと...すぐに分かります!!」と半狂乱のような状態で叫び続けた。
「ズリー、落ちつきなさい...。あなたの知っているルリカと。今のルリカは違うでしょう?悲しいけど、彼女の内面は変わってしまっているのよ...」
ゼファーが私たちの思っていることをズリーに対して代弁したように告げた。
「でも、なぜルリカが古代魔族と一緒にいるのでしょうか?私が知っているルリカは悪に染まるような人物ではありませんでした!それなら何が起こっているのでしょうか?あんなに優しかったルリカに、一体何が...。本人の口から直接聞きたい、何か事情があるなら私に教えて、ルリカ!!」
ズリーが困惑した表情を一変させ、意を決したかのように目の前の外套を被った者、つまりルリカの方へゆっくりと近づいていく。
「ま、待て、ズリー!それ以上近づいちゃだめだ!奴、いやルリカの間合いに入る!離れるんだ!」
そんな俺の声が耳に入っていないかのように、ズリーはルリカの元に1歩、また1歩と近づいていく。その行動に伴って、ズリーの奴隷の首輪が徐々に彼女の可憐な首元をきつく締めつけていく。
俺が、ルリカに近づくなという命令に刃向かっているとみなされ、奴隷の首輪が反応したのだろう。苦しそうな表情を浮かべつつも、ルリカに向かって進む足取りは一向に立ち止まる気配を見せない。
「ルリカは心が優しい...娘です。こんなことをするなんてありえない...。でも、あの剣の軌道は間違いなくルリカそのものです...」と言って、ズリーは苦悶の表情を浮かべ、再び一歩、また一歩とルリカの元に向かった。
ズリーがルリカの間合いに入った瞬間!
レイピアがズリーの喉元を貫こうと、すさまじい速さで迫って来た。その剣の輝きは、死の恐怖を予感させる冷たい光を放っていた。
「ズ、ズリー!」と言葉を発するまもなく、レイピアはズリーの喉元に迫った。何もしてやれない自分の無力さに苛立ちを感じながら、目をそむけたくなる一瞬先の未来に、誰もが絶望を感じる。
バリーやチャーム...。
バズボンドにレバルド...。
ゼファーにマゼール、そして俺...。
更には、ピーちゃんとスーちゃんも...。
だが...。
剣先がズリーの喉元を貫くことは無かった...。
寸前のところでレイピアの動きが...止まった。
そして...。
「ズ...ズリー...ズリー...?」と、レイピア使いが...始めて俺たちに向けて言葉を発した。
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