第4話 豚
リモルー王国の東の外れに小さな集落がある。そこには、バインという青年が母親と2人でひっそりと暮らしていた。歳は20そこそこで、体格には恵まれていたが、臆病な性格もあり近くに住むゴブリン達にいつもからかわれていた。そんな状況においてもバインにとってゴブリン達は無くてはならない存在だった。それは、ゴブリン達が処方する秘薬が母親の病の進行を抑える効果があったからだ。どんなにイタズラされても、母親の為にいつもニコニコし耐えていたバイン。毎日、暁の時になると薬を処方してもらうためゴブリンの集落を訪れるのだった。
普段臆病な性格のバインをからかっていたゴブリンたちもバインのある能力に興味をもっていた。バインは《インカンテーション》呪文の使い手だったのだ。しかも暁の刻を境に普段の臆病な性格とは異なり凶暴化する。凶暴化するといっても理性はしっかりしており内に秘めた力がオーラとして現れ、炎や風を具現化出来るようになるのだ。そしてバインは炎と風を自在に操る事ができた。
ゴブリン達も暁のバインには一目置いており、秘薬の処方と引き換えにインカンテーションをバインから教わっていた。そして何度かバインの修業を乗り越える事で、ゴブリン達は独自に回復呪文を修得していった。
バインは豚の顔をしたオーク族の青年である。炎を恐れる種族でありながら、自ら炎を操ることで村八分にされ、同族の仲間はいない。そんなバインの父親は20年前のザカスの暁光時にドワーフ族に加担した際、赤髪のチーノによる魔弾に討たれた。バインが1歳を迎えた誕生日の出来事だった。
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