13 目覚め

「ねえ、君はどうしたいの?」


 狂った世界だ、と犬丸は思った。ここは大都市の地下の空洞で、たくさんの車が暴走しては衝突し、炎上している。天井に開いている穴からは警察がロープだかを使って次々とここに降りてくる。友人は道の真ん中で、携帯型電子機器を大事そうに握りしめて硬直している。


 選挙カーに乗って、ガソリンの炎に照らされる女性ひとが、なぜかまともに見えた。


「これが、目を覚まして、立って歩いて生きるってことですか」


 遠野は気持ち顎を前に出すように頷く。


「おい!そこ!大丈夫か?こっちに来なさい!」

 声がして、向こうから屈強な体つきの若い警官が走って来る。


 犬丸は遠野と荻本を代わる代わる見た。


「俺たちはもう行くぜ」

 運転席から葦苅が言った。車の前にしゃがみ込む荻本を踏まないようにバックにギアを入れてアクセルを踏む。


「待ってください!」


 犬丸は夢中で駆け出していた。動き始めたミニバンと並走する方へ走る。遠野が車の上から手を伸ばす。犬丸はジャンプしてその手を掴んだ。遠野の目は満足気に細くなる。


「犬守くんはこうしてくれるって思ってたよ」

 犬丸を引っ張り上げながら遠野は言った。


「犬丸です」


 選挙カーはバックのまま尻を振りながら走っていった。犬丸は腕時計に目を落とす。午後の六時を指す。


「おはよう」

 遠野が小さく言ったのが聞こえた。



《おわり》

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アンチ・スマートフォン 岡倉桜紅 @okakura_miku

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