第39話 異世界で歩んだ道

 ムサシこと俺は、気づいたら耀夏を抱き抱えたまま、婿入り予定の神社の境内前にいた。

 次いで未来の義理の母と妹が、竹墓を手に目をまん丸にして驚き固まっていた。

 俺は数瞬、黙考すればどうにか声を絞り出す。

「え~っと、ムサシ、いや木戸晴信、ただいま戻りました」

 親子は目を白黒差せては俺を何度も上下させている。

 数秒の間を置いて、俺が抱き抱える耀夏になお目を見開けば、義理の母娘同時に動いていた。

義兄様にいさま、義兄様、うっ、うっわああああああっ!」

 耀夏の妹、優耀ゆきが母を押し退け、俺の下腹部に抱きついてはわんわん泣きじゃくる。

 というか、姿変わってもすぐ分かるのは喜ばしいが、実姉がいるのに、そっちのけで俺に抱きつくのかよ!

「ええい、優耀、晴信から離れろ!」

「いいえ、姉様こそ義兄様から離れください! なんですか、いい年こいてお姫様だっことか、年齢と体重考えなさい!」

「一〇歳児が大人ぶるな! あと体重は成長期だ!」

 始まるは姉妹ケンカ。

 この二人、基本仲いいんだけどね。どうも俺絡みになるとね~。

 懐かしいと思い出に浸りたくも、目尻険しき当主である母親、耀那ようなさんの咳払いにて姉妹は我に返り、言い合いを止める。

「晴信さん、半年の間に随分と変わりましたね」

 日頃から厳かで自他共に厳しい当主だが、声から喜びと困惑の入り交じった匂いがした。

 というか、俺が異世界に飛ばされて半年も経過していたのかよ!

「単刀直入にいうと。耀夏を異世界に連れ去った奴を切り捨てて、戻ってきました!」

 ありえぬ話に義理の母娘は顔を見合わせる。

 実際事実だから困ったもの。

 本来なら一度、あの異世界に渡れば、元の世界に戻る術はないに等しい。

 白王の爺さんは、なんらかの術を発見して耀夏を連れ去ったそうだが、ぶった切った後だから、その原理を知り様がない。

 ただ例外もある。例外とはあの円獣だ。あの時、俺は混沌に呑み込まれた。

 呑み込まれれば元には戻れない。

 けど円獣は、醜悪な姿にならなかったお礼として俺を混沌から復活させた。

 ただ復活させるのでない。

 元の世界に木戸晴信を、異世界にムサシを、と俺を陰陽のように分ける形で再配置した。

 お陰で元の世界に耀夏共々帰還できたわけだが、あちらの俺とアウラの行く末に若干の不安はあるも、俺だからどうにかしていると安心感もあった。

「というわけで、当主!」

 俺は耀夏を下ろし改めて当主と向かい合った。

「耀夏は戻りました。俺もここにいます! 許嫁の件、再考をお願いします!」

 一人だけでは未来に進めない。

 隣り合ってからこそ未来を歩むことができる。

 俺に気圧された当主は一旦、瞼を閉じて黙考、しばしの間を置いて口を開いた。

 あれ、口端がどこか嬉しそうに見えたのは気のせいかな?

「許可します」

「は、晴信、再考とはどういうことだ?」

「姉様が神隠しに遭ったせいで、義兄様の婿入りは破断しているのですよ。一年前に」

 状況が飲み込めぬ耀夏に、妹が素っ気ない顔で補填する。

 ただ母親と異なり、口は喜びいっぱいときた。

 まあ今までずっと水晶体に閉じこめられていたのだ。

 耀夏には俺直々に知る限り説明する責任がある。

 なにより気づいたら一年も経過していたから耀夏は驚きを隠せないでいた。

「ところで、義兄様、その腰に下げたものは?」

 腰? 俺は腰元に手をやれば指先が固いものに触れる。

 恐る恐る見れば、黒塗りの鞘に真っ黒な柄がある。

 ものは試しに少し抜いてみた。

 真っ黒な刀身を俺はすぐさま引っ込めた。

 これどう見ても、感じても無窮の楔じゃないか!

 もしかしてあれか! 俺が晴信とムサシに分かれたように、無窮の楔もまた分かれたのか! 

 円獣め、なんちゅう置き土産をしてくれたもんだ!

 と、ともあれ!

「まずは婚約を破断された俺が異世界の泉で溺れた話をしよう」

「あ、義兄様、はぐらかした!」

 はぐらかさせていただきます!

 異世界では、開闢者資格持っていたから刃物所持は問題にならないが、日本では許可書ないから銃刀法違反!

 追々片づける問題としてひとまず、今まで俺が異世界で歩んだ道を話す必要がある。

「そこで俺は耀夏そっくりのアウラと出会ったんだ」


 さあ未来に歩を進めよう。

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無窮のVENDETTA こうけん @koken

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