第21話 手紙
かくして俺は白王都に再び足を踏み入れた。
この地に足を踏み入れるのは、そう二週間ぶりだ。
いやだって開闢者の依頼って各地から舞い込んでくるものだ。
首都の一つである白王都は、中央である土壌故、多種多様な依頼が発生しやすい。
「約束の時間まであるから、頼んでいた件、どうなったか確認するか」
俺を襲撃した黒装束の謎集団。
誰かから雇われたようだが、一切合切口を割らぬまま隠し持っていた毒で自害した。
個人的に心当たりがありすぎること、死亡により証言が取れぬことが、調査の難問になっていると支部の受付嬢が嘆いていた。
いやだってね、実際そうだし、わずか数ヶ月でランク九〇になったりとかした事実も背中を押して、僻みやっかみはされるわな。そのうち偽の依頼が舞い込んできそうな流れだ。
「どうした?」
竜気機関車の荷台から手綱引いてドスドニドのランボウを降ろしたが、鳥目鋭くあらぬ方に顔を向けている。
あの惨劇を生き残った個体だけに危険予知能力は高いが、警戒時には尾っぽがブワっと膨れるはずが膨れていない。
「ぽぼぼ?」
ランボウの頭を止まり木としたポボゥも同じだ。
鳥同士、シンパシーでもあるのか。動物的な勘を受信しているようだ。
俺も感じているが、そよ風レベル。
ただ善悪の匂いは感じない。要は無臭、無害ときた。
「放っておけ」
害がないのなら相手にするだけ無駄なこと。
そのまま駅外に出た俺は、開闢者組合へ足を運ぶ。
といっても駅から出てほんの五〇歩と、目と鼻の先にあった。
「祭りか」
ふと、あるポスターが目に付いた。
一ヶ月後に行われる白王生誕一〇〇周年の祭典ポスターだ。
当人は今なお健全のようだが、ここ最近、公務が立て込んでいるのか、大衆の前に姿を現していないと聞く。
「会場は件の新大聖堂ね」
新たに建造され一ヶ月前完成を迎えた大聖堂。
そこで一〇〇歳の誕生を祝う盛大なセレモニーを行うと、大々的に宣伝していた。
「邪魔するぜ」
開闢者組合の扉をくぐれば、本部だけに慌ただしい。
ここ最近は、特に結界内にも関わらず出現する魔物の応対に追われているときた。
半年前は一週間に二回の割合が、今では二日に一回と出現率が上がっている。
今なお原因は不明。
聖陽騎士団でも手が回らず、一部騎士団が失踪中なため補填に開闢者を回そうと、ゴテゴテの後手に回っていた。
最大の原因は討伐証明の難しさ。
魔物は人間や原生生物と違って、死ねば遺体残さず霧散する。
獣などの原生生物ならば、毛皮や牙が証拠品となるが、魔物は遺体を残さぬため討伐した証明が行えない。
今までならば魔物討伐は騎士団専門故、問題視されていなかった。
仮に開闢者が依頼先で魔物と遭遇し、やむを得ず討伐しても報告一つで臨時報酬が出た。
ところが今では魔物発生が増加したことで、報酬詐欺の虚偽報告が増える始末。
詐欺対策として記憶や過去を見る天紋にて、討伐の真偽を確認しているが、いかせん記憶見や過去視の天紋は数が少ない。
問題解決に時間を要しているのは、記憶を見るにも当人の同意が必要だと法により定められていること。
過去視に至れば、現地に赴かねば確認できず、現場の大半がドウツカ大森林だからか、原生生物の記憶まで拾ってしまい、時間が経過するほど現地での記憶が交雑し霧散する難点がある。
よって確認が取れるまで、報酬は未支払い。
払われぬ以上、次の依頼に移行できず、確認による必要経費が天引きされると、ゴテゴテの後手に回っていたのだ。
俺としては、あれこれ殺った身だから、その手の天紋があると知った時は身震いしたものだ。
ふとテーブルで食事をとる開闢者の会話が耳に届く。
「結界内なのに、魔物現れすぎだろう」
「近々災禍の波が発生するじゃないかって噂だぞ」
「あっちこっち魔物が現れるせいで依頼も魔物絡みばかり。魔物討伐は聖陽騎士団の仕事だろう。俺はドウツカ大森海にある遺跡調査がしたいから開闢者になったのに」
「そういや、一二聖家の一家が、新たに発見された遺跡の調査隊を集めていると聞いたな」
「本当かって、あれ? それならなんで依頼ボードにないんだ?」
「大きい声でいえないんだが、ないんじゃなくって張れないって話だ」
「張れない?」
「その遺跡、かなり規模がでかくて、中は新発見の遺物がザクザクあると言われている。今、家同士揉めてるだろう? ここに来て明確な成果を出されると……」
「ああ、なるほど、他の一二聖家からの圧力か」
「こんな忙しい時期に足の引っ張り合いとは、お偉いさんのすることは意味わかんねわな」
開闢者組合は半官半民で運営されている。
ドウツカ大森海を探索し切り開くために誕生した組合は、当初から運営資金は折半なのだが、どうやら話を盗み聞く限り、金に物を言わせて組合運営の一部に圧力をかけているそうだ。
圧力の矛先は遺跡調査依頼。
黒王都駐屯騎士団の失踪調査はするだけ無駄だから、消去法で遺跡の方を選んだわけだが、なんかきな臭くなってきたな。
きな臭さは大当たりだ。
本部は、黒装束襲撃の事実はなどないと言い切ってきた。
俺が襲われたのはやっかみ、ひがみを抱いた者が黒い服を着て襲っただけとの模範解答つき。
話にならぬ以前に、話をせぬと本部からの結果は以上だ。
「まあいい、どうであれ依頼主に会ってからだ」
本部の中ではそうなのだろう。本部の中ではな。
ぼやきながら本部の外に出た俺を、ランボウと、その鳥頭に乗ったポボゥが出迎える。
ふと気づけば嘴で紙切れをくわえている。
俺が手を出せば、ポトりと嘴から落ちしてきた。
ふむ、ゴミではないようだ。
「なるほどね」
わざわざご丁寧なことだと、紙に記された内容に感嘆とするしかない。
同時、何故、無害と感じたのか合点が行く。
元から害意のガの字すら抱いていないのだ。
ならポボゥやランボウが反応するも、首を傾げるのに納得できる。
<本日一八時に、白王都にあるお屋敷に直接お越しください>
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