第4話 転生と転移・発展と混乱
「帰還、方法?」
僕は横から饅頭をフクロウ似の鳥にかっさらわれたことに気づかず、愕然と口を開けている。
フクロウ似は僕の心情など知ったことかと、鉤爪で掴んだ饅頭を囲炉裏の火で炙っては、ハフハフ鳴きながら食べていた。
こいつ、鳥のクセして火に慣れていやがるのか。
「あ、こら、ポボゥ、お客人のお菓子を勝手に食べるんじゃありません」
叱ろうと、フクロウ似は馬の耳に念仏で焼き饅頭を堪能している。
アウラが手を振り上げるも、このフクロウ似、口元をモゴモゴいわせながら千鳥足で木の葉のように避けて見せた。
「飼ってるの?」
ペットの意味が通じるか怪しいため、言葉を僕は選んだ。
「いえ、違います。勝手にこの地に居着いた鳥なのですよ」
「でも名前つけてるよね?」
「何故か、私にだけよく懐いていまして、ポーボーポーと鳴くのでポボゥと名前をつけました。花が好きみたいで、よく眺めているんです。なんでもボモボクボと呼ばれる最近発見された珍しい鳥類だとか」
「まあ確かに、鳥のクセして火を怖がるどころか、火で炙って饅頭食べてるしね」
饅頭を食べ終えたポボゥは、ほっこりした満足顔を浮かべている。
「そうなんですよ。ボモボクボは雑食性ですが、食べる時に必ず火を通して食べるんです」
アライグマの火属性verのようだ。
「さて、お話を戻しますね」
膝上にポボゥを抱き上げながら、アウラは語り出す。
その間、ポボゥが鳥足を伸ばしてアウラの饅頭を狙っている。
だが鳥足の先端は届くに届かず、プルプル震えていた。
「めっ、ですよ」
ポボゥの顔を真上から、のぞき込んだアウラが優しい声で叱る。
僕から彼女の表情は、影になって見えなかったが、ポボゥは全身を震えさせ、伸ばした鳥足を伸びたゴムのように引っ込ませていた。
何を見たんだ鳥と、僕は心で絶句すればアウラは顔を上げては、にこやかな笑みを浮かべていた。
「地球という世界から、こちらの世界に現れる転移者は、別に珍しい出来事ではないのですよ」
「僕が、転移者?」
異世界なのだから当然だが、この世界では転移者の出現は、空気があるように当たり前なのか。
「そうですね、おおよそ、五〇年か、一〇〇年周期で、一人か二人の度合いで現れていますか」
柔らかな頬に手を当てたアウラは、天井を見上げながら思い出すように語る。
「後、地球という世界に住んでいた前世の記憶を受け継いで生まれる転生者もいます。度合いも転移者と同じですかね」
曰く、この世界に存在せぬ技術、知識を持って生まれ出るため、発展と混乱をもたらすとされているとか。
発展の一例として、列車の知識と製造技術を持っていた転生者は、この世界の資源で列車開発に成功、各地に敷かれた鉄道網は世界に物流革命をもたらした。
真逆の例として、手回しミシンが登場したことで、服の制作時間の短縮、生産数の増加により、裁縫士の失職と服単価の下落を招き、開発者は失職した裁縫士たちに追い回された挙げ句、滝壺に落とされ殺害されたそうだ。
「私の父や祖父、曾祖父も地球からの転移者ですから、以前住んでいた世界の話を聞かされたものです」
「た、例えば?」
話の流れから僕は興味本位で聞いていた。
「そうですね。曾祖父は黒船襲来からの沿岸警備に駆り出されて大変だったとか、祖父は世界規模の戦争勃発から商店の命で買いに走ったそうで、父は仕事そっちのけでオリンピックという祭典で東洋の魔女が活躍する瞬間に興奮していたそうです」
「黒船、世界規模の戦争、オリンピック」
僕は彼女の一部発言を反芻してしまう。
反芻は僕の記憶の本棚を刺激し、該当する出来事を脳内で展開させた。
(黒船は確か、一八五三年のペリー来航)
当時、鎖国をしていた江戸幕府に開国を迫った事件だ。
(世界規模の戦争は、世界大戦、けど、第一、第二どっちだ? それに買いに走った会社、いや商店、そうか、一九一四年の第一次世界大戦なら一つだけ該当する)
第一次世界大戦は、すぐに終結し戦争被害にて物価は下落すると思われていたため、誰もが売りに走っていた。けれど、戦争は長引き、結果として物価は高騰。逆に買いに走っていた鈴木商店なる財閥は、この戦乱を利用して大儲けした。
(東洋の魔女は有名だろう。一九六四年、第一回東京オリンピックで活躍した女子バレーボールチームの異名だ)
歴史の成績は良い方だが、まさか日本の歴史が知識として異世界で役に立つとは思わなかった。
けど、江戸、大正、昭和と誰もが日本人である共通項はあるけど、時代がバラバラだ。
だからこそ、僕が一番に抱いた疑問があった。
「誰が、君の家族や、僕をこの世界に転移させたの?」
「さあ?」
本当に分からないと困った顔をされた。
小説投稿サイトだと、魔王討つ勇者として国王に召還された、女神が世界崩壊を食い止める救世主として選び出したとあるが、ならば、僕をこの世界に転移させた元凶は誰か?
「ん~ちょっとお尋ねしてみますね」
言うなり彼女は、深呼吸しては深い瞑想に入ってしまった。
「あ、あの~」
唐突な行動に呆気をとられた僕は、思わず彼女の肩に手を触れてしまう。
「「あ、バカモノ!」」
正座していた金剛力士像の二人が、怒気露わに片膝たてて叫ぶ。
僕は、はぁ? と聞き返すよりも先に、意識を暗闇に吸い込まれていた。
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