第4話 マフラーは失恋をも包み込む

さて、僕はこれまで自らの失恋話をしてきたが、今回で最後となる。


では、最後の失恋話を始めよう。

今回のお話のキーワードは、タイトルにもある通り、”マフラー”だ。


この話は僕が中学生のころ、つい1年前の話だ。

僕の中学は男子校で、女性とのかかわりが極端に少なかった。

一部を除いて。


ではその、”一部”とはどういう存在なのだろうか。

端的に言おう、イケメンだ。


そう、イケメンは他校の女性とかかわりがある。それも、かなり広く。

僕はイケメンではないので、直接かかわりはなかったのだが、なんと、イケメンの友人の紹介で、とある他校の女性とつながりができてしまった。


出会ったのは中2の頃だったのだが、中3になってようやく連絡先を交換し、LINEで話すのが日常になっていた。


僕が彼女への恋心を自覚したのは、中3の6月くらいだったように思う。

日に日に彼女が僕の思考を占める割合が増していった。


だが、僕はある致命的な弱点を抱えていた。

恋愛について、奥手すぎたのだ。


連絡こそ毎日とっていたものの、二人で遊びに行くとか、会って直接話すとかいうイベントはなかった。


そうであれば、当然恋は前進するはずがない。

それを理解していてもなお、俺は彼女に自ら積極的にアプローチでいずにいた。


どうしたものかと悩んでいたところに、例の男友達(イケメン)から、衝撃のお誘いがあった。

夏休み中に、彼と、彼の彼女、僕が思いを寄せる女性、そして僕の4人で遊ぼうというものだった。

ちなみに、男友達の彼女と、僕の思い人は同じ学校に通う仲良しだったので、その点はご安心いただきたい。


さて、やってきてしまったダブルデート(?)当日。

僕はこの日に備えて買った新しい服に身を包み、舞浜駅に降り立った。

初デートがディ○ニーというのはいかがなものかと思ったが、他の3人の希望なのだから仕方がない。


中に入ってからは、様々なアトラクションに乗った。

僕は小さいころから絶叫系アトラクションが苦手で、この日も乗るつもりはなかったのだが、せっかくの機会だし、挑戦してみるのも悪くないかも知れないと思えてきて、初めて挑戦した。


最初は怖すぎて、周りの目を気にせずに何度も大絶叫してしまったものだが、乗っていくうちに慣れてしまった。


そしてここで一つ、胸がキュンキュンしたエピソードをご紹介させていただきたい。

ス○ースマウ○テンというアトラクションに2回乗ったのだが、2回目を乗り終えた後、僕の髪が乱れてしまった。


それを見た彼女はおもむろにくしを取り出し、僕の髪を整え始めたのだ。

僕はまんざらでもない様子でそれを享受していたのだが、今となってはなんて恥ずかしいことをしていたのだろうと感じる。


結局その日は、20時ころまで遊び、告白やそれに類似するものはなく、普通に帰った。

普通に帰ってしまった。


告白するチャンスはいくらでもあったし、彼女の様子を見ても、告白した場合の勝算もあった。


でも僕は、あと一歩が踏み出せなかった。


その日以降、僕と彼女は連絡を取る回数が極端に減ってしまった。

僕と男友達は中高一貫の男子校に通っていたのに、なぜか僕が高校受験を決意したことで、彼女としても、勉強の邪魔になったら悪い、と考えて僕に連絡を取るのがはばかられたのだろうと推察する。


そこから関係が崩壊するのは早かった。

夏も何事もなく過ぎ去り、秋も過ぎ去ろうとした11月のある日。

僕は彼女の誕生日が来月に迫っていることに気が付く。


そこで僕は、もう一度だけ彼女に連絡を取り、何としても誕生日プレゼントを渡そう、と決意した。


僕が彼女へのプレゼントに選んだのは、マフラーだった。


彼女に似合いそうなものを選び、店でラッピングもしてもらって。

後は渡すだけの状態を作り上げた。


しかし、ここで不測の事態に陥った。

いつ渡せるか尋ねる連絡をしても、「プレゼントなんて、申し訳ないよ」といった趣旨の連絡しか返ってこない。


僕はここで確信した。


もう、あきらめた方がいいということを。

僕の恋は、とっくに終わっていたんだと、その時知った。


このことを、例の友人に相談すると、彼は少し怒りながら言った。

「あいつはな、お前のことが好きだったんだよ」

と。


僕は、泣いた。


それでも、情けない自分への怒りや、悲しみ、悔しさは、消えてはくれなかった。


そのマフラーは、誰のものでもなくなった。


今でもそれと似た色のマフラーを見かけると、彼女の残影が僕の脳裏にかすかに浮かび、すぐに消える。

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他人の不幸は蜜の味、自分の失恋は塩辛い 山代悠 @Yu_Yamashiro

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