第136話 勇者の大学祭 Ⅰ
「おし! んじゃ今年の学祭の
俺が部室に集まった我がツーリングサークルのメンバーを見渡しながら言うと、「異議なし!」やら「う~い」やら「分かりましたぁ」やら「何故我のパフェ屋が却下されるのじゃ!」といった声がそこここから聞こえてくる。
俺の横のホワイトボードにはいくつもの出店の候補が書かれており、串焼きの他にも定番のたこ焼きやお好み焼き、クレープ、カップケーキ、コーヒースタンド、某ドラゴン提案のパフェ屋などが並んでいる。
どれもこれもツーリングとは一切関係が無い。が、それにはしょーもないながらも一応は理由があったりする。
多くの大学で毎年行われる文化祭。大学祭でも学園祭でも名称はどうでも良いが、これは当然大学の敷地内で行われる。
私学とかはテレビやなんかで取り上げられることもあるが、アイドルやミュージシャンを招いてライブを行ったり学部の特色を生かした催しをしたり、サークルが活動に応じたイベントを行ったりするのが多いのだが、当然ながら大学内でできることなんかには限界がある。
山岳部や天文部なんかは写真を展示したりしてお茶を濁すこともできるが、インカレ系やイベント企画系、ボランティアやキャンプ、食べ歩き系なんかのサークルが何かをしようとしても単なるサークル紹介になってしまうし、モータースポーツやダイビング、季節スポーツ系(スキーとかね)はそもそも大学内でできるわけがないし、できたとしても昨今は色々厳しくなっているので許可が出ない。
となると、必然的に活動とは無関係のことになる。さらにもう一つ理由として、これらのイベントはきちんと大学側に報告する必要はあるものの、収益は各サークルで自由に使うことができるのだ。
そんなわけで、大学から活動費が支給されないサークルの、お金を稼げそうな模擬店の比率が圧倒的に多くなるのだ。
学祭を盛り上げるための賑やかしの一面もあるのだろうし、それだけじゃ足りないのでプロのテキ屋が屋台を出したりもしている。
因みにうちの大学の場合、活動費が支給されている部やサークルはイベント内容に制限があり、活動と無関係なことはできない。
そして我がツーリングサークルは活動費なんぞ貰っていないので自由にできるのである。
毎年のこの学祭の収益如何で下期の活動がウハウハになるか赤貧に喘ぐかが決まるってわけだ。
例年、夏休みが終わると模擬店で実施する内容をメンバー各自で考えてもらい、学祭一ヶ月前に決を採ることになっている。
というわけで、現在は9月の最終週である。
季節的に違和感がありまくりだが気にしないでくれ。
夏休みはどうしたって?
水着イベント? コ○ケ?
……ナンノコトデショウ……。
今年の夏休みは合宿以外はあまり思い出したくないのよ。
何せ、妹の亜由美が中学最後の大会で関東大会&全国大会まで進出できたのは素晴らしく目出度いことだったのだが、亜由美のやつは他校の女の子と一緒になって色々とやらかすし、その女の子が妹の応援に行っていた俺の顔を見ると、顔を真っ赤にしながら逃げ出したせいで俺が変質者と勘違いされて警備員に連行されそうになった。
さらに、メルがよりによって東京の繁華街近くで魔法を使ったせいで変な連中に目撃され、後になってその話を亜由美から聞いた俺がメルを伴ってその目撃者の所に口止めに行くと、その連中の事務所内には着飾ったメルのどでかい写真が豪華な額に入れられ、その前には祭壇が設置してあり、お供え物までされていた。
メルに跪いてお祈りまで始めた連中をなんとかしようと奮闘しているさなか、空気を読まずにそこに乱入してきたアジア系外国人の襲撃者をサクッとぶちのめし、尋問していたら何故か俺まで『神の使い』とか『女神の夫』とか言われて崇められた。
なんとか口止め自体は成功したものの、俺の精神的ダメージはMAXになり這々の体で自宅に帰り着く羽目になった。
……ドウシテコウナッタ?
コホン。
なんでもない。今聞いたことは忘れてくれ。
そんなわけで今は秋。
秋ったら秋なのである。
キノコやイモ類、リンゴやカツオ、サンマの美味しい秋である。
たとえ寒さが厳しかろうが、桜の蕾が大きくなっていようが、そうなのだ。
話を戻そう。
サークルとして候補を募り、本日メンバー全員で決を採った。
その結果で“串焼き”模擬店をすることに相成ったわけである。
たこ焼きやお好み焼きなどの粉物は確かに定番なのだが、その分他のサークルも出店してくるのは目に見えている。
クレープやケーキなどのスイーツ系は原価が高くなるし、飲み物系は値段を高くできない。パフェなんか模擬店で出すには原価も手間も掛かりすぎて論外である。
大学の学祭に来る人ってのは近隣住民を除けば、大学を志望している高校生や他の大学生などの若い人が中心だ。
であればやっぱりガッツリ肉が良いだろうというわけで選ばれた。
となると、これから詰めなきゃいけないのは原価をどうやって抑えるかと、メンバー各自の役割分担である。
「焼き台だったら、俺の親戚が鉄工所経営してるから作ってもらえると思うぞ。図面誰か引いてくれないか?」
「あ、それなら俺がやりますよ。真似事程度ですけどそれくらいの設計図面ならできます」
「お肉は、売値を考えると鶏肉と豚肉でしょうか。うちの取引先から卸値で確保できると思います」
「お野菜なら多分大丈夫です。実家が農家なんで、タマネギとかジャガイモもありますし、串焼きなら万願寺唐辛子もありますよ」
「う、うちも農業やってます! 茄子とか人参なら作ってます」
「串って、金串っすか? 竹ならバーチャン
「屋台作る木材だったらうちにありますよ。爺ちゃんが大工だったんで」
「テントってか、ターフだったら章雄先輩持ってたはずじゃなかったか?」
メンバーからは口々に具体的な提案が飛び出てくる。
「俺は木炭を用意するよ。大竹は野村の図面ができたらその親戚に焼き台を作ってもらってくれ。戸塚も一緒に屋台の作成と並行して進めて。久保さんと若林さん、田代は食材の確保をお願い。でも、無理じゃない範囲で値段を決めてくれていいから。相川は竹の確保を頼む。
残りのメンバーはそれぞれの手伝いと、時間を見つけて串の作成だな。あ、道長は章雄先輩に連絡してターフ借りといてくれ。ティアとレイリアはその都度指示するから」
『了解|(っす)!』
ある程度出尽くしたところで俺がまとめるとメンバー全員も同意する。
これならなんとかなりそうな気がするな。
せっかくだから少しでも多く売りたいものだ。原価次第ではあるができるだけボリュームがあって話題になるくらいの物を作りたい。
……豚肉としてオーク肉を使ったらマズいかな? 10匹くらい仕留めとけば肉を1トンくらい確保できそうなんだが。
木炭は王国で仕入れておこう。親父が以前買っておいたことにしておけば大丈夫だろうから予算から除外できるし。
大雑把なところまで決まれば後はやりながら調整していけば良いだろう。それにまだ時間もあるからな。
そう判断して、今日のところは解散することにした。
といっても大竹たちや久保さんたちは別の場所で連携するメンバーと調整していくらしい。
俺はひとまず王国行って木炭の確保だな。
どのくらい必要か分からないので少し多めに買っておくことにしよう。お金も使わないといけないし、アイテムボックスに入れておけば劣化もしないから多くても問題は無い。
と、いうわけで、茜やレイリア、ティアと一緒に帰宅である。
茜は自宅が別だが、実は改築してからはほぼ1日おきくらいのペースでうちに泊まっている。というか住んでいる。
茜用の部屋も準備されているし、家具類も王国で購入済み。着替えや私物も大部分を移動しているらしい。
当然、親父さんが黙っているはずもなく、幾度も乱入してきているのだがその度に小百合さん(茜の母ちゃん)に引きずられて回収されている。
大学を卒業したら本格的に引っ越してくるらしいが、親父さんが日に日に憔悴していっているのがマジで心配だ。
「ただいまぁ」
「今、帰った」
「ただいま戻りました」
「えっと、お邪魔しま、じゃなくて、た、ただいま」
俺とレイリア、ティアは普通に、茜は少し恥ずかしそうに玄関を入る。
「お帰り。ふふふ」
玄関では母さんが出迎えてくれた。
お腹は随分と大きくなり、動くのも一苦労しそうなくらいだ。
まだ予定日まで一ヶ月あるらしいのだが、素人目にはいつ生まれてもおかしくないように見える。
亜由美がお腹にいるときも見ていたはずなのだがこんなに大きかったんだろうか。う~ん、覚えてない。
それでも今は仕事も休職しているし、常にメルが診察している。そのうえ万が一に備えて常に影狼が控えているので心配はいらないか。
このところいつも機嫌が良いが、今は特に嬉しそうに笑っている。
「母さん、どうかした?」
「ん? ふふふ、なんでもないわ。賑やかで嬉しいだけよ。大家族って憧れだったのよ」
そう言って一際嬉しそうに笑う母さんを見ると、嬉しいやら恥ずかしいやら。
ま、まぁ、こんな普通じゃない状況を受け入れてくれているのには感謝しておこう。
リビングに入ると、大型犬並みの大きさに成長した影狼の子供、『サラ』にもたれながらテレビを見る亜由美と、立ち上がって出迎えてくれるメルがいる。
……ホントに賑やかになったな、この家。
……親父がいないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます