第130話 勇者の夏合宿 その2 Ⅶ

 前回に引き続き、ロクでもなさそうな連中に囲まれている俺。

 っつか、久しぶりのバトルだからって引っ張るなよ古狸。

 

 それにしても態度といい、動きといい、コイツらはこういった行為に随分と慣れているように見える。

 それに、コイツらの目。異世界で何度も見た連中と似ている。

「随分と慣れてるんだな」

「あん? 俺らが? 慣れてるって? クッ、ぎゃははは! そりゃそうさ、俺たちの趣味だからなぁ! バイクで地方流してさぁ、ツーリングとかドライブに来た女の子拉致って、男はボコって放置。知ってる? 女ってどんだけ輪姦されてもビデオ撮って脅すと訴えたりしねぇんだよ。俺らも身元バレるような真似しねぇしな」

「そうそう! それにさぁ、訴えそうな男は山に埋めちゃえば文字通り何も喋れないしなぁ?」

 なるほど。どうやらコイツらは真性のクズらしい。

「できっこない、とか思ってる? 試してみたらぁ? 俺たちも仲間やられてムカついてるからさぁ」

「この辺って、熊出るんだって。ちゃんと山の中に引きずっていってやるから、美味しく頂かれちゃってよ。自然保護? になるじゃん」

 見た覚えがあるはずだ。異世界の盗賊や不良冒険者と同じだ。

 改心することのない、人の心を消してしまった化物の目。

 

「んじゃ、遠慮することもないな」

「ああん?」

 威圧すれば動きの自由を奪うことは簡単だけど、その程度ですます気にはならない。とことん潰させてもらおう。

「これ以上グダグダと言ってても時間の無駄だからな。さっさと掛かってこいよ」

「テメェ、言ってくれるじゃん」

 連中の顔が怒りに染まる。

 バシュッ!

 ガッ!

 カラン。

「え? あ、ゴギャッ!」

 言葉通り、躊躇することもなく1人がクロスボウを構え、発射。

 本当に何をしても良心が痛むことはないのだろう。

 嬲るつもりだったのだろう、矢は狙い過たず俺の太ももに命中するもあっさり弾かれる。

 展開した障壁のせいだが、まぁ無くてもこの程度の威力なら刺さることもない。

 一瞬呆けた男の鼻を陥没するほどに殴りつけ、地面に倒れた奴の股間を踏み潰す。

 酌量の余地のない性犯罪者に対する罰なら去勢が一番だろう。玉も竿も念入りに潰しとこう。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 叫び声を聞き流しつつ、男に回復魔法を掛ける。先に倒した2人にもだ。

 治癒魔法ではなく、回復魔法。

 メルが母さんの出産のために習熟した魔法で、治癒魔法のように傷を元通りに再生させるものではなく、自然治癒力を高め、治癒を促進させる魔法だ。

 治癒魔法ってのは肉体の記憶に基づき傷を元通りに治すのだが、それはおそらく脳とか遺伝子から肉体に関する情報を引き出し、その設計図に基づいて肉体を再生させるのだろうと考えられる。だから膨大な魔力が必要なものの例え手足が引きちぎれたとしても直後であれば元通りに再生させることができる。反面、状態が固定してしまった時間が経過した古傷や病気には効果が薄い。

 だが、それでは出産にかかわる傷病には使用できないのだ。

 出産するときに人間の身体は子供を育てるために必要な変化を起こすらしい。それは子育てには不可欠な現象で、治癒魔法で出産前の状態に戻してしまうと変化しようとする身体と元に戻そうとする魔法が相反し、必要な変化ができないばかりか母体が危険でもあるのだとか。

 

 対して回復魔法は本来身体が持っている範囲で治癒力を高め、適切な回復を促進する。つまり時間が掛かる自己治癒を魔法の力で短時間で実現するのだ。

 病気にも使用できるので俺もメルの傍ら、異世界で習得に努めた。

 今回はその回復魔法を使う。

 するとどうなるか。

 怪我は治る。ただし、自然治癒の範囲に限定されるので、股間が潰れても元には戻らない。潰れた部分は老廃物として身体の組織に吸収され出血も止まるが、壊れた器官は機能しない。

 骨折も同様で、放置して自然治癒したのと同じく、骨折した状態のまま骨が再生し、繋がってしまう。

 元に戻すには大がかりな再建手術が必要になるだろう。まぁ、骨ならば元の状態に戻せるだろうが、男性機能は無理だろうな。形だけならなんとかなるかもしれないけど。

 回復速度も治癒魔法ほど劇的ではなく、おそらく小一時間ほどは掛かるかもしれないので、本人たちは何をされたのか理解できないだろう。

 そして、万が一警察や病院で怪我を訴えたところで、その頃には怪我は回復の完了した古傷になっている。まともに取り合われることはないだろうと思う。

 

 俺の所業を呆然と見る男共。

 それに構わず、ことさらゆっくりと最初に色々と好き勝手言っていた小柄な男に歩み寄る。

「どうした? 随分と威勢の良いことを言ってた割に、たった3人がやられただけで戦意喪失か?」

 挑発的に男の目の前に手を差し出して指をチョイチョイと動かす。

「クソッ! 死ねよ、テメェ!」

 手に持っていた刃渡り20センチほどのナイフを俺の腹めがけて突き出す。

 身体ごと突っ込んでくるその姿勢は実戦的で、本気で殺意を持って攻撃しているのがわかる。

 実際、ナイフっていうのは喧嘩で使うにはリスクが大きいのだ。

 確かに脅しとしては効果的と言えるのだが、ナイフを抜いても相手が怯まない場合、そのナイフの行き先は相手の身体しかあり得ない。

 一度抜いた以上、引っ込みなんて付かないから、刺す以外の選択肢は無い。

 そして刺したら良くて傷害罪、悪けりゃ殺人。最悪は相手に奪われて今度は自分に使われる。

 だからナイフは余程の覚悟が無い限り持ってちゃいけないのだ。

 持つと自分が強くなったような気がしちゃうから、意味も無く持ち歩く人がいるけど、人生を捨てたくないならキャンプとかの使用目的がない人は持っちゃダメよ?

 

 それは置いておくとして。

 突っ込んできた男の持っているナイフの刃を指で摘まむ。

 相手の体重が乗った突進だが、俺とっては大した力でもない。

 摘まんだ位置でピクリとも動かなくなったナイフに驚く男の股間を容赦なく蹴り上げる。

 50センチほど浮き上がる身体と足に伝わる何かを潰した感触。

 うん。気色悪い。

 やっぱり潰すのは足の甲じゃなくて、靴底が良いみたいだな。

 その場で崩れ落ちた男はうめき声も上げることができずに泡を吹いて気を失った。

「クソッ!」

 背後からもう1人がクロスボウで俺の身体を狙って撃つ。

 俺は振り向きざまに矢をたたき落とした。

「な、なんなんだよ、アンタ……」

 撃った本人は呆然と立ちすくんでいる。

 目の前で起こったことが信じられないのだろう。

 まぁ、普通ならクロスボウに限らず矢を手ではたき落とすなんてできないからな。けど拳銃の弾に比べれば遅いから俺にとっては簡単なことだ。

 棒立ちになっているので遠慮なく近寄って足を蹴り上げ、倒れたところを股間クラッシュ。

 

「チッ!」

 男たちの中から、俺と少し距離のあった2人がサークルメンバーのいる建物前に走る。

 俺に直接向かうにはリスクが大きいと考えて人質でも取るつもりなのだろう。けど、そっちにはある意味俺よりも危険な美女ドラゴンがいるんだけどな。

「がっ!」

「うごっ!」

「やれやれ、ようやく我の出番か。主殿ももう少しこっちに回してくれんかのぅ」

 別々の方向から自分と背後のメンバーに向かっていった男の顔面を鷲掴み、宙につり上げる。

「主殿に迷惑を掛けるわけにはいかんから殺しはせぬ。が、少々お仕置きが必要なようじゃからな。ほれ! 少しは痛みを知るが良い」

 そう言ってレイリアは顔面を掴んだままそれぞれを地面に叩きつける。

 ご丁寧に腹ばいになるように、そして、偶然にも・・・・丁度股間の位置には車止めのコンクリートブロックが。

 あ~あ、アレじゃ両足と股間はもうダメかね。

 股間以外の内臓だけは治癒魔法で治しておこう。後で。

 

「こ、こんなん相手できるか! 逃げるぞ!!」

 いまだに戦意が折れていない数人を残してバイクに跨がり逃げようとする男たちが出た。

 けど、まぁ、ご愁傷様だ。

「逃がしませんよぉ。ウニャ!」

 すぐさまティアがスピードに乗っていないバイクに追いつき、次々とフロントタイヤを蹴っ飛ばし転倒させる。

 出入口が2つあるとはいっても、1つは俺のいる位置に近いのでそっち以外のところから逃げようとしたのだが、走り出したばかりのバイクじゃティアのスピードからは逃げられない。

 4台も転倒させれば入口も塞がれてバイクじゃ抜けられないだろう。オフロード車じゃなきゃ縁石越えられないし。

 

「だから、逃げちゃダメですってば! うんにゃ~! ユーヤさん!」

 バイクを置き去りに走って逃げようとした男を捕まえて、ティアは足じゃなくて手を掴んだジャイアントスイングで俺の方に放り投げる。

 飛距離はおよそ10メートル。

 だから、あんまり目立っちゃダメだってばよ!

 足をバタバタさせながら飛んできた男の股間を16文キックで受け止め、そのまま地面に叩きつけてサンドイッチ。足のサイズは38センチもないけど、馬○さんもそんなになかったらしいし、良いよね?

 その後もティアは逃げようとした男をなぎ倒し、トドメに股間をクラッシュし続ける。

 レイリアも懲りずにそっちに向かった数人を悠々と潰し、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

 男たちはもう半分も残ってないから、不意を突かれる心配も少ないと判断したのだろう。

 

「わ、わかった! 俺達が悪かった! あ、謝る! か、金もあるだけ出す! だから……」

 あっという間の形勢逆転に、さすがに心が折れたのか、残った連中が土下座姿勢で言い募ろうとするのを遮る。

「ひとつ聞くけどさぁ、オマエら、そうやって許しを願った人たちにどうしてた?」

「え?! あっ、それは、グブェ!!」

 俺は最後まで聞かずに男の腹を蹴り上げて、ついでに股間もつま先でシュート!

「ひぃぃ! や、やめ…」

 ……………………

 グロいのでしばらくお待ちください。

 ……………………

 ……………………

 ……………………

 

 

「章雄先輩、どうっすか?」

「う~ん、多分、イグニッションコイルの断線かなぁ。バイク屋に在庫があればすぐに交換できるけど、とにかく北見市まで引っ張っていくしかないねぇ」

 章雄先輩が田代のGSRを点検しながらそう答える。

 丁寧に電流計を使って調べてたから確度は高いだろう。

「い、いやいやいやいや、オマエら何一足先に日常に戻ってんの?」

 道永が声を張り上げて抗議する。

 っても、そう言われてもなぁ。

 視界の隅にモゾモゾ蠢く連中汚物はもうどうでも良いし。

 先にぶっ倒した2人の股間もピチュンしてあるし。

 サークルの会長としては早いとこ合宿のツーリングを再開させたいのよ。

 あんまり遅くなると北見市のバイク屋さんも閉まっちゃうかもしれないし。

 そんなことになれば予定が大幅に狂ってしまう。

 

「ユーヤさん、終わりましたよぉ」

「あ、兄貴、全部湖に投げときましたけど、アレ、良いんすか?」

「おう! ご苦労さん」

 ティアと戸塚が戻ってきたので労う。

 2人には連中の携帯(というかスマホ)を回収して湖に不法投棄してもらっていたのだ。もちろん厳密には違法行為である。

 環境保護団体に見られてなきゃいいけどな。

 とはいえ、これにも一応の理由がある。万が一この連中に他にも仲間がいたら面倒くさいし、するとは思えないけど、警察とかに通報されてもこれまた面倒だ。

 もうしばらくしたら動けるようになるだろうし、バイクも壊れてないから、まぁ死にはしないだろうから、少々の時間稼ぎの小細工である。

 もちろん俺達は追い剥ぎじゃないので金品も奪っていないからな。

 こんな犯罪者を、股間を潰したからといって放置して良いのかとも思うが、レイリアがコソッと何やら魔法を掛けていたので大丈夫だろう。

 どうも精神系の魔法みたいだし。

 

「いいのかよ。いや、何もしてない俺が言うのもアレだけどさ」

 山崎が何やら言いたそうにしていたが、そうは言っても俺が到着するまで連中相手に奮闘してたのは山崎と大竹、道永だ。

 直接やり合ったわけじゃないとはいえ、その労苦は決して無駄じゃないし、何もしなかったわけじゃない。

 まぁ、俺たちが、ちょ~っと、みんなの前でやり過ぎた気は、しないでもない。

 けど、軽くたたき伏せるだけで放置したら、この連中は絶対に他の人間相手に繰り返すからな。

 あんまり褒められたやり方じゃないのは承知しているが、他に方法も無いし、自分たちの生き方をたっぷり後悔してもらわなきゃ釣り合わないだろ?

「で、でも、柏木先輩、強すぎません?」

「だよなぁ。ボウガンの矢を叩き落とすとか、オマエは呂布かよ」

「マジで兄貴カッコよかったっす! 惚れ直しました! ちょっとだけ俺にも痛みを」

「「「「変態は黙ってろ!」」」」

 

 まぁ、とりあえず突然の荒事で動揺していたメンバーのケアは茜と比較的冷静だった小林さん、久保さんにお願いし、打たれ弱いが復活も早い章雄先輩には元々の原因である田代のバイクを点検してもらっていたのだ。

 章雄先輩は古いイタリアバイク乗ってただけあってトラブル慣れしてるしな。

 俺でもある程度は修理とかできるけど、自分のバイクじゃないとあまり自信がないのだ。

「俺も裕兄に少し鍛えてもらおうかなぁ。せめて有香先輩を守れるくらいに」

「も、もう! 信士君が怪我したりしたら大変なんだから、そんなこと気にしないで良いのに。でも、その、そう言ってくれるのは嬉しい、かな?」

 ……オマエら本当にまだ付き合ってないのか?

 

「柏木先輩強かったねぇ」

「ちょっとあり得なくない? ヤバすぎるよ! さすがハーレムキング!」

「昼間の暴力衝動を抑えられず、ハーレムメンバーと夜の格闘……じゅる」

 1年女子は、うん、放っておこう。

 

「レイリアさんとティアさんもスゴかったな」

「ティアさん、途中でいきなり消えたりしてなかったか? それにレイリアさんもあの細腕のどこにあれだけの力が?」

「オマエら、世の中にはツッコんじゃいけない相手がいるからな。それに昔から美人は何をやっても許されると言うだろう」

「お姉様と呼びたい」

 ほれ見ろ、レイリアとティアもすっかり悪目立ちしたじゃないか。

 それと、最後の奴、レイリアは俺んだ。やらねぇよ!

 

 とにかく、早く出発しないと修理に間に合わなくなるので、メンバーが落ち着くのを待っていられずに出発することにした。

 田代のGSRは牽引ロープで俺が引っ張る。

 速度が遅くなるので他のメンバーには先に行ってもらい、修理ができそうなバイク屋を探してもらおう。

 

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