第127話 勇者の夏合宿 その2 Ⅳ
場面は少し遡る。
乗船後、裕哉達が男性用の浴場に入っていったのと同じ頃。
茜、レイリア、ティア、久保有香の4人は女性用の浴室にいた。
まぁ、ほぼ同時に浴室へ別れて入ったのだから当然ではある。
まず酷暑でかいた汗を流していると、男湯と同じく、メンバーの他の女性たちが合流してきた。
お風呂である。
当然、全員裸なのである。
繰り返す。
全員、ハダカ、である。
「わぁ……レイリアさん、スゴい」
小林絵美がレイリアを見て羨望を含んだ歓声を上げる。
「ん? これのことか?」
絵美の視線を受けて、レイリアがそのたわわな胸をユサッと揺らす。
「え、いえ、その、胸もそうですけど、スタイルがあり得ないぐらい凄いんですけど」
賛辞の言葉を受けて誇らしげに身体を誇示するかのように胸を反らす。
元々は変化した自分の容姿にさほどの拘りを持っていなかったレイリアではあるが、裕哉をはじめ男女問わずに視線を集めるので今ではそれなりに自分の身体を気に入っているのだ。特に裕哉の視線は実に心地良いと感じている。
「あの、やっぱり男の人は、その、胸の大きな女性が好きなのでしょうか」
有香が躊躇いがちに女性陣に尋ねる。
とはいえ、有香も卑下するほど胸が小さいわけではない。細身で小柄な身体ながら出るところは出て引き締まっているところはきちんと締まっているので、充分に均整の取れたプロポーションをしている。
「それは人それぞれじゃない? まぁ、大きいほうが良いって男は多いけど、良太の奴なんかはおっぱい星人だし。けど、信士君はあんまり気にしないんじゃない? 有香ちゃん充分にスタイル良いし、大丈夫よ!」
あっけらかんとした様子で彼氏持ちである絵美が断言する。
「え? あ、あの、別に信士君がどうとか、そういうことじゃなくて」
途端に真っ赤になって言い訳を始める有香。
絵美はニマニマと笑いながら「今更隠しても意味ないじゃん」とウリウリしている。
「柏木先輩はどうなんですか?」
「ふぇ?! こっちに振るの? え、えっと、裕哉も胸は好きみたいだけど、どうなんだろ? 大きさにはそんなに拘りはなさそう、かな?」
飛び火しないように我関せずと少し離れた位置にさり気なく逃げようとしていた茜に、逃がさんとばかりに絵美が話を振る。
「うむ。主殿も胸は好きじゃな。じゃが大きさよりも形だ、とか言っておったぞ」
「あはは、ユーヤさん、子供みたいですよねぇ。時々すごくエッチですけど」
あっけらかんと暴露するレイリアとティアに、女性陣が固まる。
「あ、あの、えっと、も、もしかして、柏木先輩って、その、工藤先輩だけじゃなくて、レイリアさんやティアさんとも」
おずおずと小さく手をあげて、しかし果敢に口火を切ったのは1年の瀬尾美樹。法学部所属ですらっとしたクールビューティー系の女の子である。胸は小ぶりながら、代わりとばかりに足が日本人離れして長い。
「ん? そうじゃぞ? であるからこそ我らは主殿に侍っておるのじゃ。といってもそうなったのは最近じゃが」
何故か偉そうに胸を張るレイリアと嬉しそうにニコニコしているティア。
「「「「「…………えぇぇぇ~~!!!」」」」」
女湯に悲鳴じみた絶叫が響いた。
「ちょ、ちょちょちょ、え?! マジ? 工藤先輩、ホントに?!」
「信士君からちょっとだけ話は聞いてたけど、まさか本当だったなんて」
「ド、ドンファンが現代日本にいるなんて、ふ、不潔です」
「リ、リアルハーレムを私は見た」
「じゅる」
現代日本においてハーレムなんてのはまずあり得ない。
可能性があるとすれば相当な利害関係が絡んだ場合くらいだが、単なる大学生が(少なくとも何も知らない第三者から見れば)ハーレムを作るなんてのは創作の中だけである。
恋愛感情があれば相手を独占したいと思うのは考えるまでもない当たり前の話だ。中には浮気に寛容な女性もいないではないが、内心としては面白く思うわけがないし、最終的には自分の所に戻ってくるという確信があったとしても不安にならないわけがない。
ましてやこの場にいるのはうら若き女子大学生なのだ。どう見ても本命である茜の目の前で自分も関係を持っていると宣言し、かつ、当然のような態度は理解の埒外にある。
そうなると、待っているのは怒濤の質問攻めである。
「ど、どどど、どうしてそんなことになったんですか? 工藤先輩はなんとも思わないんですか?」
「あ、あはは、えっと、その、まぁ、ちょっと色々とあって、レイリアさんとティアちゃんともう1人、メルスリアさんだったら良いかなって」
「そのメルスリアさんというのがどの方なのか分かりませんが、その、工藤先輩はそれでよろしいのですか? もしかして柏木先輩に無理に認めさせられているとか」
「そ、それはないから! むしろ裕哉は抵抗していたくらいだし」
危うく裕哉が鬼畜認定されそうになり、茜は慌てて否定する。
「あの、もしかして柏木先輩って、その、えっと、もの凄く、絶倫、とか?」
「な、なるほど、先輩ひとりだと身が持たないんですね。……って、マジ?」
絵美が何を想像したのか顔を赤くしながら躊躇いがちに聞き、1年の
「え、えっと、そ、それもある、かな?」
「うむ。確かにアレは茜ひとりでは少々キツかろうな。我も体力にはそれなりに自信があるのじゃが、主殿には勝てぬからのぅ」
「うぅぅ、私もですぅ。いっつも途中で意識が無くなってしまって」
唖然と茜、レイリア、ティアの3人を凝視する一同。
ゴキュっと喉から音がでている人も2、3人。目つきが危ない人が1人。
ハーレムに拒否反応的な態度だった美樹もマギー○司ばりに耳をでっかくして興味津々である。
「主殿と閨で張り合えるのは我らの中ではメルスリアくらいなものじゃ」
「ああ、うん、羨ましいような、そうでもないような」
「ユーヤさん、タフですからねぇ」
そんな言葉を合図に、女たちの会話はどんどんエスカレートしていく。
女3人寄れば姦しいとはよくいうが、8人もいると姦しいを通り越して喧しい。
そして、女同士の会話とは、えてして男同士のそれよりもさらに明け透けで生々しいものになりがちである。特に情事に関しては男が聞いたらドン引き間違いなしの会話が飛び交う。
男性諸氏に言っておこう。ベッドの中のことは当事者である男よりも、もう一方の当事者である女の友達の方が知っていたりするのだ。細心の注意を怠らないようにした方がいい。陰で何を言われているのか分かったものじゃない。
もっとも、注意したところで何ができるわけでもないが。
こうして女たちの狂騒は全員がのぼせるほど続けられ、もっとも口数は少ないもののもっとも鼻息が荒かった1年生である
Side 裕哉
午後1時過ぎ、フェリーは北海道の苫小牧港に着岸した。
直後に船内アナウンスがあり、俺たちサークルメンバーは揃ってバイクの固定されている船倉に向かう。
どうやら車両は乗船順に下船するらしい。バイクは最初に乗ったので降りるときも最初である。
係員によってバイクを固定していたベルトが取り外され、荷物を固定した俺たちはバイクに跨ってタラップが降りるのを待つ。
タラップが降りきり、係員の合図でゆっくりと下船。フェリー乗り場の駐車場で全員が集合するのを待ってから、各グループに分かれて出発した。
先頭は章雄先輩のグループ。次いで山崎、そして道永のグループ。最後が俺たちのグループの順だ。
いよいよ北海道ツーリングのスタートである。いや、合宿自体は昨日の時点で始まってはいるのだけど、船に乗ってるとツーリングって感じしないからな。
フェリーターミナルを出て苫小牧の市街地を抜けて一路西へ。
海沿いの国道36号線を走る。けど、今のところあんまり“北海道!”って実感はないな。関東では見たことないコンビニチェーンはあったけど。
どんなものが売っているのか少々気になるが、今は我慢する。後から行くことにしよう。宿に着いてからね。
それに残念なことにとうとう雨が降り出してきてしまった。
小雨ではあるが、夏とはいえびしょ濡れでは風邪を引いてしまうので急遽雨具を着用する。それに、さすがは北海道と言うべきか、雨のせいで気温も低めになってきている。
俺は、というか、サークルメンバーの大多数が某作業着量販チェーン店でバイク用にレインスーツ(上下組4900円)を購入しているので少しはマシだが、それでも結構蒸れるけど、保温されるだけ雨ざらしよりはマシである。
さて、今日の目的地は長万部(おしゃまんべ)温泉。
苫小牧港から凡そ150キロほどの距離で、渡島半島の東側、内浦湾のほぼ中程にある。
フェリーが到着するのが午後になってからなのでそれほど距離は走れないだろうと洞爺湖周辺で宿を探したのだが残念ながら値段が高かったので長万部の民宿になった。
港から順調にいけば3時間ほどなので日があるうちに着けるはずだ。
長万部までは途中合流はせずに宿で集合する予定となっている。
最後尾を走る俺たちのグループが他のグループに追いついていないので皆も順調に行っているはずだ。
『先輩、久保です。休憩はどうしますか?』
うわっ! ビックリした。
頭では分かっていても、バイクの運転中に急に声がすると驚く。
いや、そんなことより返事だな。
「えっと、天気がコレだから、登別を過ぎて室蘭の手前くらいで一度コンビニでも寄ろうか。みんなはそれで良いか?」
『野村っす。それで良いっすよ』
『賢人、了解っす』
『え、あの、だ、大丈夫です』
ヘルメットに取り付けたスピーカーからメンバーの返答が届く。
今の会話、ヘルメットに装着したインカムを使用したものだ。
以前ちょっとだけ話に出たが、俺がろくすっぽサークルにも大学にも顔を出さずに、御堂さんのボディーガードをして貰った報酬。
本来なら会長である俺が率先して合宿の段取りやら計画やらを詰めなきゃならないのに他のメンバーに丸投げすることになったので、その時に得た報酬の内、俺の取り分はすべてサークルに還元することにした。
色々と考えたが、一番活用できるであろう、Bluetooth対応のバイク用インカムを購入することにしたのだ。
バイク屋の親父さんとも相談して、同時に8台と通話可能でさらにスマホとも同時利用ができるタイプを購入した。ボイスコマンドにも対応している。
親父さんルートで仕入れ値で卸してもらえたので、ドドーンと大盤振る舞いの20台一括購入である。もちろんこれは俺の私物扱いではなくサークルの備品として使う。なので故障や破損はサークルで対応する。紛失は、まぁ、弁償だな。
スマホに保存してある音楽データやBluetooth対応のプレーヤーなどの音楽を聴くこともできるのだが、これに関してはサークルで禁止とした。
ひとえに安全のためだ。
同じ理由で使用する場所も緊急時以外は郊外の危険の少ない道路走行時及び停車時のみとなった。
便利な機械ではあるが、だからといって安全を犠牲にするわけにはいかないのだ。
当然事前に全員に慣熟訓練は実施済みである。
じゃなきゃ危なくてロングツーリングで使えないのよ。
とにかく、予定ではノンストップで長万部まで行くつもりだったが、小雨とはいえ雨天のツーリングは疲労の蓄積が早いのでこまめに休憩を挟むことにする。
そして途中3回ほどコンビニで短時間の休憩を取り、午後5時過ぎに民宿に到着した。当然俺たちのグループが最後だ。とはいえそれほど待たせたわけではないだろう。
章雄先輩と山崎が宿泊手続きをしているらしいので、それは任せて全員でバイクの点検を行う。
それが終わればチェックイン(民宿でもチェックインというのだろうか?)だ。部屋割りは女子が4名ずつ、男は5名ずつの計4部屋。
宿の風呂は狭いながらも温泉らしい。
食事の時間までまだあるので、3組に分かれて風呂を済ませる。
結構良い湯だった。風呂は古くて少々狭かったが、そういうのも味があってわりと好きだ。
そうこうしているうちに食事の時間になったので食堂へ移動する。
既に食卓には料理が並べられている。
豪勢とはお世辞にも言えないが、素朴で美味しそうだ。あ、刺身にイクラも付いてる。
全員が揃うのを待って食事を始める。じゃないと宿の人が大変そうだし。
普段の食事なら皆も賑やかなのだが、他のお客さんもいるので迷惑にならないようにさっさと済ませる。
この後は各自自由に過ごして貰う予定だ。
さて、とはいうものの、観光地とはいえこぢんまりとした田舎町なので、日が暮れてから出歩くのもどうなのか。
そんなことを考えていると、久保さんが宿の人に『蛍を見に行ってみたらどうか』と言われたらしく、提案してきた。
なんでも、宿から30分くらいの場所に『ほたるの里』というのがあり、ちょうど7月中旬から8月中旬までが見頃らしい。しかも風呂に入っている間に雨は止んでいたらしく、雨が降った後は特によく見られるのだとか。
考えてみると、毎年のようにニュースか何かで蛍の映像は見るんだが、実物は見たことが無いな。
となれば行ってみるのも良いかもしれない。
というわけで茜、レイリア、ティア、信士、久保さんに聞いてみると「行く!」とのこと。
他には相川、小林さん、戸塚、瀬尾さんが参加するらしい。
残りのメンバーは近場をうろつくそうだ。章雄先輩? 山崎に引っぱられていったよ。
とにかく、のんびりしていると見頃を逃してしまう(19時から21時頃が良いらしい)ので急いで準備を整える。
場所が湿地帯らしいのでレインシューズやブーツカバーを忘れずに持っていく。
移動は当然ながらバイクだ。ただ、駐車場はあるがあまり台数は駐められないとのことなので、5台に分乗して2人ずつとなる。
俺のバイクにはティア、茜とレイリア、久保さんに信士、小林さんと瀬尾さん、相川と戸塚がタンデムする。技術的には茜が一番不安だが、レイリアと一緒ならなんとかなるだろう。
外に出ると既に日は沈み、辺りは暗くなっている。
空を見るとうっすらとした雲の隙間から星が見えていた。すっかり天気は回復したらしい。
各自決めたとおりにバイクに跨り、出発する。
目的地の『ほたるの里』はまず国道5号線に出て、北に10キロちょっと。さほども行かないうちに山間の田舎道になる。
話では小さな看板が立っているのでそこを右に曲がるということだった。けど、マジでちっちゃい看板だった。
しかも外灯すらロクにないので危うく通り越すところだった。
そしてちょっと先を左折、その先の駐車場? ってなスペースにバイクを停める。
「マジでなんにもないっすね」
「うぉぉ、ヘッドライト消えると真っ暗っす」
相川と戸塚が騒ぐが、いや、懐中電灯使えよ。
茜と瀬尾さんはスマホのライトを点灯し、小林さんは呆れたように小型のLEDライトを相川に手渡す。
久保さん、信士ペアは同じようなライトを取り出して、2人でひとつ使うらしい。……もうオマエら付き合っちゃえヨ。
そしてレイリアとティアは何も無し。
まぁ、異世界組は夜目が利くから、この程度はちょっと薄暗い程度にしか感じないからな。俺もだけど。
とはいえ、怪しまれるから一応ペンライトを手渡す。
「ちょ、兄貴、俺もライト持ってないんすけど」
「スマホ使えよ」
「いや~、フェリーの中でゲームやってたら充電が」
「知るか!」
戸塚は放っておいて行こうとしたのだが、相川が見かねて自分のLEDライトを貸していた。
まぁ、相川&小林さんもカップルだし、2人でイチャコラしながら歩きゃいいか。
そしてブーツカバーをしたりレインブーツに履き替えたりしてから、いよいよ看板の向こう側の道を進む。
少し進むと足元がぬかるんでくる。そして、
「あっ! 光った!」
「わぁ~。キレイ!」
てっきり蛍ってのは川の近くじゃないといないのかと思ったら、ここのはヘイケボタルって種類で、川じゃなくて田んぼとか湿地に生息している、と、瀬尾さんの解説があった。
緑がかった淡い光が、1~2秒間隔で点滅を繰り返している。
光り方も一般的によく知られるゲンジボタルとは違うらしいが、そっちを見たことが無いのでよく分からない。
けど、周囲を囲むように乱舞する幻想的な光にしばし見とれた。自然と口数も少なくなっている。
なんか、騒いだりすると今にも消えてしまいそうな、そんな気がしたのだ。
どのくらいか、多分1時間は経っていないとは思うが、徐々に光が少なくなり、ほんの数えるほどしか見えなくなる。
蛍というのは2、3時間ごとに光ることを繰り返すらしいので、わずかに残っているこの淡い光ももうすぐ消えるのだろう。
もの悲しくも感じるが、別に光るのを最後に死ぬってわけじゃなく、しばらくしたらまた光る。そういう生き物なんだと。
「さて、んじゃ戻るか」
「そうっすね。あ、でも、まだ時間早いし、どっか寄ります?」
暗がりの中、俺がそう言うと、相川が答えた。
確かに時間は大学生的にまだまだ早い。
「でも、民宿の近くにこの時間から行けるところってあるんでしょうか」
「確かに、何もなさそうだったよ」
久保さんと信士の指摘ももっともだ。
ってか、観光地といっても、田舎の温泉地って感じだったからな。
あるとしても飲み屋くらいか?
「あ、俺、ラーメン食いたいっす」
戸塚が無駄に元気よく手を挙げて言う。
バイクへと戻りながらの会話だが、せっかくホタルで風流してたのに情緒のないことだ。まぁ、俺も風流よりも食い気だけど。
んじゃ、帰りにラーメン屋でも探すか。
どうせ他の連中も行くところなくて宿に早めに帰ってくるだろう。
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